ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

日々の中で出会った映画・本・お店などのエンタメを紹介する雑記ブログです。小説やウルトラマンをはじめとした特撮を中心に運営中。

星の見えない空に 〜僕と推しと時々ぴえん その3(前編)〜 

※以前掲載した記事では管理人の一人称を『僕』と書いていました。しかし執筆にあたり『私』の方がしっくりくるので、この記事からは私となっています。タイトルに偽りありで申し訳ありませんが大目に見ていただけたら幸いです。

 

1月からほぼ定期的に開催されてきた、よく利用しているメイドカフェ『めるドナ』で働くメイドたちの誕生祭(または生誕祭ともいう)。

つまりは彼女たちの誕生日をお祝いするイベントなのだが、この年のそれもいよいよラスト。トリを飾ることになったメイドは偶然にも我が推しであった。

世界を混乱の渦に叩き込んだ新型コロナウイルスの流行により営業時間短縮が続いたこの年。

時短営業中は日曜日と祝日を除いて夜に来ることができない私にとってはまさに試練の日々。

かろうじて時折仕事の休憩時間にバタバタと食事に来ることはできたが、仕事で嫌なことがあった日に「ちょっと気分を変えにメイドと話しに行こうか」といったこともできない日々はそれはそれはストレスが溜まる日々だった。

そのストレスたるや『勇者王ガオガイガー』のゾンダーメタルが近くにあれば、私はゾンダー化確実間違いなし。ヘル・アンド・ヘブンかゴルディオンハンマーを食らった後は「護隊員浄化お願いします」といった感じ。

 

メイドカフェに行かなくても「仕事が終わったご褒美に上手いものでも食うか」なんてこともできない。

上手い飯も食えない、映画館でレイトショーも観れない。

しかもそれが先が見えず、一年のほぼ半分以上がそんな感じ。

多い時で以前は週に30枚は映画の円盤を借りてきて、一週間でそれを見るようなこともザラだった。

暇さえあれば本を読んだ。漫画も色々読んだ。『俺はまだ本気出してないだけ』は好きな作品である。

だがそれができなくなった。自分でも驚くくらい何もできなかった。ストレスだったのだと思う。

そんな一年だったから、思い返してもかって人生で経験したことのない異様な日々だった。

一方でそれでも休憩時に来ることができる環境にあった私は恵まれているし、幸運だったと思う。いや絶対に恵まれている。遠方に住んでいて週末にしか来れない人もいるだろうし県外の店のファンだっているだろう。

だから私は周囲の人々や環境にとても感謝しなければならない。

 

世の中がどうだろうと時間は待ってはくれない。ただ川のように流れていく。

多くの別れがあったこの年。

緊急事態宣言が開けるのと時を同じくして別れの波も一段落し、ようやく凪の状態が訪れた。そんな中推しである彼女の記念すべき日が無事に訪れたことは嬉しかった。

 

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「生誕絶対来てくださいね」

彼女の声が聞こえる。

「う〜ん、それはどうしようかな」

大げさに腕組みしながら私が答える。

「(ジィッッッッッ)」

「何だよ目を細めて」

「怒ってるの!」

「目を細めても可愛いから怖くない。嘘です! 来るよ、来たいです」

そして笑顔になる彼女。実際目を細めようがどんな表情になろうが彼女は可愛い。とっても可愛い。

キビキビとした動きで彼女は仕事を進めていく。

平和な会話が展開される午後。この日は彼女の誕生日当日であった。

 

 

 

誕生日当日に彼女が出勤していたことは幸運だった。お陰で推しの誕生日に推しを祝うことができるというめったに無い経験ができた。

この一年間ずっと頑張ってきた彼女。大変なことも苦しいこともあっただろう。それでも泣き言一つ口にせず走り続けてきた。

その姿に何度励まされてきただろう。生まれてきてありがとうと心から思った。

 

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それから間もなく訪れた誕生祭当日。

その日はまるで、空も彼女を祝っているかのように快晴であった。

 

思い返せば昨年の彼女の誕生祭は彼女がプロデュースし活動しているアイドルグループのライブという形で開催された。

 

orangecatblog.com

 

その一つ前は確かライブがあった後に彼女が店に出勤していたと思う。

その時のライブに私は行っておらず店にだけ顔を出したと記憶している。まだ彼女と話をしたことも数えるくらい。彼女のことを何も知らない時代であった。

それから2年。気づけば私は彼女のファンになっていた。

都合により閉店ギリギリの到着となってしまったが、無事に店に入ることができた。

 

「本当におめでとう」

記念にチェキを撮る時に私は伝えた。

「ありがとうございます。実は伝えたいことがあって、私は・・・・・・になりました」

「(へっ? 覆面調査?)」

最初はそう聞こえた気がする。

店に鳴り響くアイドルソング。誕生祭ならではの活気。彼女が何かいったようだが上手く聞き取れない。

果たして彼女は覆面調査員として各種コンセプトカフェを周り、それを分析するマーケティングの責任者にでもなったのか?

わあ! まるで『ジョジョの奇妙な冒険第5部』で索敵を得意とするスタンド『エアロスミス』を使うナランチャみたいだな。などと考えている私に彼女がいった。

 

「私は副メイド長になりました」

 

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ティーカップを手に取る。中に入っているのは『めるドナティー』である。

後ろでは彼女がいつもと同じかそれ以上のスピードで働いていた。

一年に一度しかない晴れ舞台。彼女にとってもお客さんにとっても大事な日。

次々と入るチェキの注文に、彼女は一切の疲れも見せず笑顔で対応していた。

「さっき発表があったんです。副メイド長になられてとても感動されていました。◯◯さん(私のこと)が来てくださって伝えることができて嬉しいと思いますよ」

この日一緒に働いていたメイドが話をしに来てくれた。

常に周囲に安心感を与え有事の際も落ち着いていて慌てない。まさにこの店の蟲柱『胡蝶しのぶ』が如き存在だと勝手ながら思っている素敵な方である。

穏やかで優しい話し方をする彼女にも日頃から大変お世話になっている。

「ケーキが渡された時でした。感動されて泣いていました」

私はその場には間に合わなかったが、カウンターを見ながらその光景が目に浮かんでくる。

 

そうか・・・・・・ 良かった。

 

「ずっと頑張っていた。あの子の夢が叶って本当に嬉しいよ」

私はそう答えた。

その場に立ち会えなかったことへの後悔はない。

その時私の心にあったのは『純粋な喜び』ただそれだけであった。

 

「私しっかりしてますよね?」

「いやあ・・・・・・そんなには」

「へっ?」

そんな会話を先輩メイドとする姿に出会った時から始まった彼女と店で過ごす日々。

その日々が脳裏に蘇ってくる。

 

トボけた会話をした時。真剣な話をした時。本の話をした時。紹介した本を面白かったといってくれた笑顔。みっともなく愚痴を吐く私の話を真剣に聞いてくれた姿。一緒に働いていたメイドが卒業する時に彼女が流していた涙。

アイドル、タクシー運転手、チャイナ服、ロングドレス、ディズニーのプリンセス、ポリス、ウェイトレス・・・・・・ たくさんの衣装の全てが似合っていた。

 

目のあたりがこそばゆい。これは・・・これはもしかして泣こうとしてる?

「あれ、俺は一体どうしたのかなぁ?」

見つめているメイドに向かって照れを隠したくて私は答えた。

「本当に来ていただいて良かったですよ」

彼女は優しくいってくれた。その目には先輩の姿を見て新しい決意が宿っているようであった。

 

「おめでとう。これから頑張ってね」

誕生祭の最後に改めて私は推しにそう伝えた。

「ありがとうございます」

彼女が微笑む。マスクを外せないことが残念で仕方ないくらいの可愛さだ。

 

帰り際に店の前にあるボードを見た。そこに書かれているメイドたちの名前。先程までいた店内は今は閉じられた扉の先にある。

 

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この店には美しい月がある。眩い太陽がある。

かっては綺麗な虹がかかっていたこともあった。動物もいたし花もあった。今でもあるし、多分これからも新しい何かが生まれるだろう。

そう考えるとこの店はまるで小さな宇宙だ。

その中で推しの彼女は「明るい星」だと私は思う。

夜空の星の光は遥か遠い昔の光が届いたもの。長い長い時間を旅して届いた光だ。

たとえ昼間は見えなくても、いつでもその光は輝いている。

その星あかりのように彼女は長い間この場所とそこに携わる人々を照らしてきてくれた。

彼女という星はこの場所の『瞳』。彼女の大きく、綺麗で輝く瞳はいつでも私たちを見守っていてくれる。

 

おめでとう。ありがとう。

 

頑張れ

 

そして彼女の生誕を終えた私にはどうしても見ておかなければならないものがあった。

(後編へ続く)