ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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劇団ジグザクバイト「漫豪ストレートMAX」感想

 

 

 

 

 

作品概要

  • タイトル:漫豪ストレートMAX
  • 種類:舞台演劇
  • 上演期間:2024年4月20日〜2024年4月24日
  • 会場:ぽんプラザホール(福岡市)
  • 企画・製作:劇団ジグザグバイト
  • キャスト:八坂桜子、麻倉えいみ、テシマケント、白瀧姫翠、小田あいか他

ストーリー

北部九州の街フクオカ。その一角である「誌面街」を舞台に、街を支配しようとする犯罪組織「マンガーソン」とそれに立ち向かう警察、街の人々の戦いが描かれる。

「漫豪ストレートMAX」感想

大傑作だった。

ストーリーのわかりやすさ、登場人物の個性、殺陣の迫力、ギャグを挟みつつも芯の通ったシナリオ、感情や空気を視覚的に伝える照明。

全てのクオリティが高く、二時間の上演時間があっという間に感じられた。

とても面白くて絶対に観て欲しい作品でした!

パロディの絶妙さ

これまでもアニメやテレビ番組など、さまざまなパロディを作品に取り入れてきた劇団ジグザクバイト。そんなジグザグバイトが漫豪ストレートMAXでパロディの題材としたのはマンガであった。

結果としてそれはストーリーに深く結びつき、ただのセールスポイントにとどまらない重要な要素として機能していた。

 

パロディとして登場するのは知名度の高い作品たち。敵も味方もそれらの作品にちなんだ特殊能力を使用する。

潔いほどに元ネタそのままの技名を、これまた元ネタのキャラクターを彷彿とさせる衣装を着た俳優陣が大真面目に演じるため笑いが起きないわけがない。

そこには一体何を見ているのかというバカバカしさがある。

 

だがそれこそがジグザグバイトの作品の魅力。気がつけばそのバカバカしさから目が離せなくなっている。

そしてここからが大切なのだが、このパロディ要素がストーリーに深く結びついているからこそ漫豪ストレートMAXは面白いのだ。

 

例えば作中ではトヨタロウというドラゴンボールのパロディキャラが登場している。

中盤で力不足を感じたトヨタロウは父親に修行をつけてもらうことで強くなり、主人公であるキュー太郎の強力な味方となる。

修行は元ネタにおいても作品を構成する重要な要素だ。演出自体はパロディでも、それを作中にうまく取り入れることで元ネタへのリスペクトを感じた。

そうしたリスペクトを感じる部分は他にもある。単に笑いの要素に終わらず熱い展開を生み出すからこそ、漫豪ストレートMAXのパロディの質は非常に高いと感じることができた。

注目のキャスト陣4選

八坂桜子

劇団ジグザグバイト所属にして漫豪ストレートMAXの主演を務める八坂桜子

今回演じたのはマンガーソン壊滅のために働く警察官のキュー太郎だ。男性役の多い彼女だが、演技のテイストは作品ごとに少しずつ異なり、今作でもこれまでと違った彼女の表情を見ることができた。

キュー太郎は警官という固い職業の人物で、他の登場人物より少し年上にあたる。

感情を高ぶらせる場面はあるが、落ちついて話す場面では大人の雰囲気を感じられた。

一方で殺陣の場面になると、彼女らしく伸びやかで元気いっぱいのアクションを披露している。

今後新しい役を演じる中で、八坂桜子がどのような大人の人物像を見せてくれるのか期待が持てる演技であった。

麻倉えいみ

麻倉えいみは北九州のアイドルグループ「愛Dream」に所属。今作ではヒロインのオオバツグミ役を演じている。

ツグミはヤクザの家の娘だが、仲間とともにマンガーソンの支配に立ち向かう勇気のある少女。「若さ」「勢い」そういった単語がピタリと当てはまる人物だ。

作中ではライブ場面もあり、その歌声を存分に披露している。物語を引っ張るパワーを持った麻倉えいみのツグミは、観劇後に「観に来てよかった」という爽やかな気持ちを残してくれるだろう。

高橋力也

高橋力也が演じるトヨタロウは、キュー太郎と並ぶもう一人の主人公といえる人物だった。殺陣の場面の多くを担うトヨタロウを、高橋力也は抜群の身体能力で演じている。

汗びっしょりになりながら舞台を駆け回る姿から感じる生命力。その疲れを微塵も見せず演技を続ける集中力。そして鍛え上げられ体はトヨタロウの強さに説得力を与えている。今後の活躍が注目される福岡の俳優の一人だ。

花岡昊芽

花岡昊芽(こうめ)が演じるヒロエレイはトヨタロウとのちょっとしたラブロマンスが描かれている。作風がコミカルなためライトな雰囲気だが、高橋力也と花岡昊芽の美男美女の組み合わせは実に映えており二人の距離感が見ていて微笑ましかった。

レイはメイド服姿だが花岡昊芽はそれを見事に着こなし実に似合っていた。映画「ノルマル17歳。-わたしたちはADHD-」に出演するなど、活躍の場を広げる花岡昊芽の今後に注目したい。

 

orangecatblog.com

 

 

 

ドラゴンボールへのリスペクト

今作にはトヨタロウという人物が登場し、特殊能力として「かめはめ波」を使う。元ネタはいうまでもなく「ドラゴンボール」だろう。

トヨタロウの父親はまんま孫悟空の道着を着ているし、妹の名前は「ブルマ」だ。もちろん元ネタでは悟空とブルマは兄妹ではないが、それでもファンとしてはクスリと笑える配役だ。

 

漫豪ストレートMAXの中盤、自分の弱さを知ったトヨタロウは喧嘩別れしていた父親に頭を下げ修行をつけてもらう。強くなったトヨタロウはキュー太郎を助け、マンガーソン壊滅に大きく貢献する。

 

この展開に心が熱くなった。

 

2024年3月1日、ドラゴンボールの原作者である鳥山明がこの世を去った。

90年代初頭に幼児期を過ごした自分にとって、ドラゴンボールは当然のように見ていたアニメであり今でも大好きな作品である。

 

少し説明すると原作のドラゴンボールはすでに完結しているが、続編の「ドラゴンボール超」が2015年からテレビ放映されVジャンプで漫画版も連載されている。

漫画版「ドラゴンボール超」は鳥山明ではなく、ドラゴンボールの熱烈なファンであり鳥山から才能を認められたとよたろうが手掛けている。

 

ひょっとしたら漫豪ストレートMAXに登場するトヨタロウは、この漫画家のとよたろうのイメージしていたのかもしれない。

数々のマンガ家がリスペクトし世界中にファンがいる鳥山明。あまりにも大きな存在であり、それが失われた喪失感は計り知れない。

だからこそ鳥山の意思を継ぎ、ドラゴンボールを続けていく責任を背負ったとよたろうの重圧は計り知れないだろう。

 

それを思えばこそ、ジグザグバイトの漫豪ストレートMAXでとよたろうが強くなる姿が心に刺さった。

意図されたものかそれとも偶然かは分からないが、とよたろうに鳥山明を越えていって欲しいというエール。それを今作から感じることができた。

 

同時にドラゴンボールという作品の持つ魅力や面白さは不滅であり、福岡でも鳥山明へのリスペクトを感じることができたのも漫豪ストレートMAXを観劇して良かったと思えた部分である。

 

 

「漫豪ストレートMAX」は誰もが楽しめる大傑作

パロディは元ネタを知っている人間にとっては笑いを取りやすいネタだ。だが一つの作品として成立させる場合、それ単独では作品として成立しない。

パロディを取り入れながらもその作品ならではの世界観の構築が不可欠だ。

 

劇団ジグザグバイトの漫豪ストレートMAXはそれを見事に描き、フクオカで逞しく生きる人々の姿をバカバカしくも愛を感じられるように描いた大傑作であった。

 

2024年、劇団ジグザグバイトは東京での公演が決定している。

 

「めちゃくちゃな街」というセリフが漫豪ストレートMAXの中には登場する。そのめちゃくちゃな街にある劇団ジグザクバイトの作品には、開けるまで何が出てくるか分からないびっくり箱のような面白さがある。

 

めちゃくちゃな街に生きる劇団、そして俳優たちのパワーを東京で存分に披露してきて欲しい。そのための助走として、ジグザグバイトの作品の面白さを改めて感じることができた2024年の春公演であった。