「最初はお客さんとしてお店に来ていました。そして自分でも働きたい、そう思った時には体が動いていたんです」
どうしてめるドナで働こうと決めたのか尋ねる私に、彼女はそう答えました。まだメイドになって数日しか経っていない頃です。
凄い行動力だと思いました。何をするにも考え込み、腰を上げるのが遅い私にはとても真似できないことです。
そうして飛び込んだメイドカフェの仕事ですが、彼女は本当に頑張っていたと思います。
彼女が働き始めた時期は、ちょうど季節の節目ということもあり多くのメイドさんが卒業されていきました。
同時に折からの世界情勢の影響で、お店も通常の営業形態とは異なる形での営業となっていました。
大変なこともあったかもしれませんが、彼女はそれを少しも感じさせずいつも明るかったです。
たくさんお店に出て、その度に成長していく様子が印象的でした。
パンダが好きだった彼女は、お客さんからも他のメイドさんからも愛されるマスコットのような存在。
同時に少しずつ後輩のメイドも増えていき、彼女たちにとってはきっと頼れる存在だったと感じます。
事実、新人の子たちがお店にいる時も私は彼女がいてくれることで安心して楽しい時間を過ごすことができました。
成長スピードに驚くと同時に、彼女が持つ『行動力』が生きていく上でどれだけ大切なものなのか、頼れる先輩となった彼女の姿を見て教えられました。
「このお店が大好きです」
そう語る彼女は、ここでたくさんの人に出会えて良かったと話してくれました。
お店での出会いが彼女自身を変えてくれたことを聞いた時、私はとても嬉しかったです。
この場所に長く通い、愛着があるからこそ働いているメイドさんが何かを感じてくれることが嬉しかった。
卒業したメイドさんたちが大切に守ってきたものが、後に続く誰かに勇気を与えていることを感じられたからです。
もし彼女が違うお店でメイドになっていたとしても、きっと様々な出会いはあったでしょう。
だけどこの場所以上の素敵な出会いはなかったのではないか・・・・・・
仲間への大きな愛情を持つ彼女の姿を見ていると、ここに出会ってくれて良かったと心から思いました。
思い返せば、まるで学校の休み時間に友だちと交わすような緩い会話を彼女とたくさんしました。
子供の頃は無限に思えたあの時間も、大人になるとかけがえないものだったと気づきます。
深い意味などなくとも楽しかった会話や一緒に笑い合うこと、彼女とそういう時間を持てたことが凄く楽しかった。
そうした時間があったから、この息の詰まるような時代の中でも楽しく過ごせたのだと思います。
本当に感謝しています。
別れは寂しいものです。しかし持ち前の行動力で未来に向かっていく彼女を思う時、悲しみはありません。
人生に無限の時間などないと知った今だからこそ、彼女の姿から教えてもらったことがたくさんありました。
旧約聖書に登場する『ノアの方舟』は新しい世界への希望を乗せたものです。
新しい世界・・・・・・ それは自分の手で切り開き自分の足で進んでいかなければならないもの。
それを感じさせてくれた彼女は、希望を積んだ『ノアの方舟』のようでした。
嵐に耐えた方舟からノアたちが降りた時、空に虹がかかったといいます。
どうか彼女が進む未来にも、そんな虹が出ることを心より祈ります。
たくさんの出会いで変われたという彼女の話を聞いて、やはり人間同士が出会うことには何かしらの意味があるのだと私は信じることができました。
過去を振り返れば思い通りにいかず悩んだ出会いもたくさんありますが、きっとそれらにも意味があったのだと思いたいです。
もしもそれが見つからなくても、これからの生き方次第でそれらを意味のあるものにもできはず。
彼女のように勇気を持って行動すればきっと。
そう信じることが、私と彼女が出会った意味だったのだと思います。
メイドとして日々を本当にお疲れ様でした。みんなのために頑張ってくれた姿を忘れません。
どうかこれからも、勇気を胸に進んでください。
かけがえのない出会いをありがとう。
新しい目標に向かって行ってらっしゃいませ。