メイドカフェに通うようになって長くなります。
色々な人たちとの出会いと別れを繰り返していると、振り返るとそれがそのままその年の記憶そのものになっていることに気が付きます。
2021年から今日に至るまでの約1年間はかなりきつい時間でした。
その理由は1つではなく色々なことが絡み合ってそうなったのですが、そんな時期に彼女にはたくさん心を助けてもらいました。
世の中は落ち着くことなく時間が過ぎていき、あまりたくさんは会えなかった彼女。それでも彼女は確かにこの場所にいて、みんなのために頑張ってくれました。
これまで出会ってきた人たちと同じように、彼女もまた私の大切な想い出の人です。
「例えばこういうドラム缶みたいなロボットっていつかできるのかな?」
特撮テレビドラマ『ウルトラマンZ』に登場したロボット『セブンガー』のフィギュアを見せながら私は尋ねました。
「そうですね・・・ 怪獣とは戦わなくても、いつか作業用としてこういうのができるかもしれませんね」
突拍子もない質問であるにも関わらず、彼女は真剣に答えてくれました。
半分冗談、しかし半分は本気の質問でした。だからとっても真面目なその姿を見て、本当に素敵な方だと感じたことを覚えています。
機械のことが好きな彼女は、これまでこの店で出会ってきた人たちとはまた違った個性を持っていました。
出会った時からとても話しやすいと感じていて、彼女と話すことがとても楽しかったです。
「はじめまして。凄く可愛いですね、頑張ってください」
その言葉に彼女は照れたように、恥ずかしそうに頬を赤らめていました。
「私、可愛いとかおばあちゃん以外にいわれたことがないです・・・」
「そうですか。それじゃあ私が貴女のこのお店でのおじいちゃんになりますよ」
「そんな! おじいちゃんとかとんでもないです!」
彼女と初めて出会った時に交わした会話。緊張した様子で私の席に話に来てくれた彼女は、綺麗に整えられた黒い髪がとても似合っている方でした。
その姿と会話をする時の明るいテンションにいい意味でギャップがあって、とっても楽しい子だと私は思いました。
会える回数が少なかった分、会う度に以前より遥かに成長している彼女の姿を見ることが楽しみでした。楽しんで働いている様子に、それを見るだけで癒やされたことを覚えています。
そんな彼女ですが、その心の中には確かな芯を持っていたと私は思います。
メイドとして働くにあたり、しっかりした目標がありそれに向かって見えないところで頑張っていた。今ならそれがわかります。
それは彼女にとって目指していかなければならない姿。
凄いなって、私は思いました。
もしも私が彼女と同じ立場になったとしても、果たして同じ選択をしたか・・・
彼女の胸に宿るその気持ちも尊いし、踏み出そうとする行動力があったから私は彼女に出会えた。
そう思います。
お店でメイド考案のサンドイッチが提供された時、人気を得たのは彼女が考えたたこ焼きを挟んだサンドイッチでした。
私も食べましたが本当に美味しかったです。私は食べることが大好きなのですが、こんなに美味しいものを考えてくれたことに感謝しました。
そして彼女が持つ何よりも尊いものは・・・ 優しさ
色々と辛いことも多かった時期に、彼女の言葉には本当に救われました。
そして言葉の先にある彼女の存在を思えばこそ、踏ん張ることができた時も何度もありました。
私は一時期、人間の持つこの『優しさ』というものに疑問を持っていました。
果たしてそれに意味があるのか、誰かの役に立つことがあるのか。
そんなことばかりを考えていた時代。
だけど答えはそこにありました。彼女が私にくれる温かい思いやり。それにより救われている私の心。
彼女は私に大切なことを教えてくれました。
「どんな1年間でした?」
彼女がメイドとして過ごす時間もあと数日。一緒にチェキを撮ってもらった後に私は彼女に尋ねました。
「そうですね・・・ 自分の未熟さを感じながら、それでも自分は確かにこの店のメイドとしてここにいたんだと思える。そんな1年でした」
そう話す彼女の表情は以前と変わらぬ可愛さと、成長し洗練された美しさに溢れていました。
「これまであまり接客業のお仕事したことなかったんです。目標はまだまだ先にあって、これからも追いかけていきます」
力強い彼女の思い。
出来上がったチェキに映る彼女の姿は、背筋を真っ直ぐに伸ばして優しく微笑んでいました。
メイドになったばかりの頃、少し体を丸めて緊張しながらチェキに写っていた彼女の姿はどこにもありません。
そこにはこの1年間で成長し、立派なメイドとなった彼女の姿がありました。
そして訪れた彼女がメイドとして店に立つ最後の日。
「これと一緒にチェキを撮りましょう」
そういって私が取り出したのは、ウルトラマンシリーズに登場するマスコットキャラクター的な可愛い怪獣。
私はこのキャラクターが好きで、最近フィギュアが発売されたので彼女との最後の想い出にと考えていました。
「ウルトラマンの怪獣ですか? というと悪い奴ですね!」
その言葉に思わず吹き出してしまう私。
「君にはこんな可愛い奴が悪い怪獣に見えるのかい?」
「あっ!? ごめんなさい」
彼女の反応に笑いながらも、私の心はこんなやり取りも今日でできなくなってしまうことに寂しさを感じていました。
それでも最後までひとりひとりのお客さんに一生懸命話に行く彼女の姿を見て、きっとこれからどんな未来に進んでも彼女なら大丈夫だと私は思いました。
イタリア語で『平和的』『女性』を意味する言葉・・・ モナ
私の心に穏やかな優しさを残してくれた彼女の姿を、私はきっと忘れることはないでしょう。
そして彼女が夢に向かって進むその背中に追いつけるように、私も歩みを止めないでいたい。
本当にありがとう。
どうかその優しさを忘れずに夢に向かって・・・ いってらっしゃいませ。