ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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星の見えない空に 〜僕と推しと時々ぴえん その3(後編)〜

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「彼女はどんな風景を見ていたのだろう?」

推しである彼女と過ごす中で、いつからか私はそのことを考えるようになった。

 

アイドルグループ『Smile』

福岡県の筑豊地区を中心に2012年から活動しているアイドルグループで、彼女もかってはメンバーだった。

店にはその時代から彼女を知っているお客さんもいる。

Smileとして活動していた時間は今の彼女を作った大切なものだ。

残念ながら私はその頃の彼女を知らない。知っていたらもっと応援できたのにと後悔があるが、これも人間の出会いの一つである。

 

まだ彼女と出会ったばかりの頃、アイドル活動をしていたという話を聞いてとても驚いた。

それまでの私の人生で、そのような経験を持つ人に出会ったことがなかったから。

だけど確かに彼女の姿を見ていると人前に立つ姿が堂々としていて、人から見られることに対して高い意識を持っているように私には感じられた。

その根底にあったのはSmileとして活動していた経験だったのだと思う。

 

 

常に自分に自信がなく上よりは下を向いていることが多い私。だからこそハツラツとした彼女の姿に惹かれた。

彼女が副メイド長になりこれまでより一歩前進したことを私は知り、だからこそ彼女にとって大事な想い出であるSmileを自分の目で見たいと思った。

 

偶然にも彼女の誕生日から1ヶ月後の2021年12月19日。

私ははじめてSmileのライブを観た。観客席には大勢の人たちがいる。

多くの人たちが顔見知りのようで、再会を喜びながら楽し気に話している。

そしてついに開始時間。Smileの出番は一番最初。

3人のメンバーがステージに登場すると会場に歓声が響いた。

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何曲も続けて歌を披露するメンバーたち。それに合わせて展開される華麗な振り付け。

3人が揃い手を合わせ風車のようにステージで回る。もちろん歌を歌いながら。

それに合わせて観客の興奮度も上がっていく。

ほぼほぼステージの近くにいた私の側にいた人はずっと応援してきた熱心なファンなのだろう。

熱意が私にまで伝わってくるように一生懸命応援していた。

季節は冬である。しかし間違いなく会場の熱量は真夏並みだったと思う。

 

自分の姿を見た人たちがこんなにも熱くなってくれる。これこそが彼女が見ていた景色なのだと私は感じた。

目覚めの悪い 夢見たときも

負けるもんか! と起き上がって

wake me up

交差点でも 歩道橋でも

ノンストップで駆けて行こう

出典:progress/Lyrics C-man Music Gene Yoko

彼女と出会ってから既に2年半以上が経つ。

同じような毎日でも振り返れば起伏の多い月日だった。

どうしようもなく人を憎んだ日もあった。思い通りにならないことに喚き散らしたことも。

その時は何もかも諦めたような気持になっても、朝になれば起き上がってまた1日に立ち向かっていく。そんな日々だった。

それでも乗り越えて来れたのは彼女のお陰で、彼女に会えるという楽しみがあったから。

これはSmileが繋いでくれた縁だと思う。

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その縁はきっと私と彼女だけにあるものではないだろう。

SmileのCD『Progress』のパッケージに写っているたくさんのメンバーたち。

今はグループを離れて頑張っているメンバーたちもまた、私が彼女からもらったようにそれぞれの場所で誰かに笑顔を与えているのだろう。

Smileのステージが終了した時の観客席の様子から私はそのことを感じた。

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この手 広げ 近づく距離に

まだいるの? 一緒に歌おう

進もう 私らしくこの手広げ

今 七色の彼方へ

光浴びて さあ 七色の彼方へ

出典:progress/Lyrics C-man Music Gene Yoko

一つ前に進むということはそれだけ新しい壁が立ちはだかるということでもある。

それでも彼女にはこれからも彼女らしく進んで行って欲しいと思った。

彼女にアイドルになったいきさつを聞いた時に、迷いもあったことを話してくれた。

何事も0から1に進むことは難しい。

それでも彼女は踏み出した。踏み出してくれたから今がある。

だから彼女はこれからどんなことがあっても大丈夫だと私は思う。

自分が進めるということを「知っている」人間は強い。

それは不安定な予測などではなく、確信のある事実なのだから。

 

彼女が広げた手が次にどんな未来を掴むのか。

暗くなり星の見えない空を見上げながら、それが笑顔あふれる未来であるように私は祈った。