色々な人との出会いと別れが繰り返した今年も残りわずかとなりました。
その中で1番辛い別れは、2022年も序盤の3月に訪れた大切な推しとの別れ。
こんなに苦しく寂しいことがあるのかと眠れなくなるくらい私にとって辛いことでした。
福岡市の『めるドナ』というメイドカフェで働いていた推しの卒業が間近に迫ったある日、私は一人の新人メイドと出会いました。
季節は春。凍るなような寒さを運んでいた風が心地よさを運ぶようになりはじめたころ。
その新人メイドは、まるでそんな春の風のような穏やかな方でした。
ちょうど世間ではこれまでの出来事に追い打ちをかけるように暗いニュースが流れ始めたころ。
辛い時代にようやく終わりが見えてきたかと思えば、更なる困難が人々を襲い始めていました。
私はといえば、その頃は推しのいない日々を受け入れられない自分とそれでも受け入れようともがく気持ちの間で葛藤していました。
どうしようもないこととわかっていても、訪れた別れを受け入れることは容易ではありません。
そんな日々の中で、穏やかで可愛いらしい彼女の存在にはずいぶん助けられました。
今思えばわずかに時期が被ったといはいえ、推しがいた日々を彼女があまり知らなかったことが良かったのかもしれません。
前々から働いているメイドとはどうしても推しの思い出話をすることが多かったのですが、新人の彼女とはもちろんそうした話はできません。
その日あったことや最近のこと、彼女の好きなことなどが話の中心。
そうした時間を重ねることで、私の心も次第に過去ではなく『今』を見つめられるようになりました。
私の心は少しずつ癒されていきました。
彼女自身も客として店に来ていたことや憧れている先輩たちがいることを話してくれました。
そうした話を聞いた後は改めてこの店のメイドたちは凄いと思います。
その理由は、彼女たちが人の心を動かす力を持っていると実感できるから。
そして目の前にいるこの子もきっといつか、人の心を動かすのだろうと私は思いました。
そんな彼女も卒業をむかえることになり、その知らせを目にした時はとても寂しかったです。
私は彼女に会うことが楽しみでしたし、話をする時間もとても好きでした。
だからこそ、決して長くない時間でありながらも生誕祭をむかえるなど彼女が楽しい日々を過ごせたならそれに勝る喜びはありません。
「メイドになれて楽しかったです。憧れの先輩たちのようになれていたらいいな」
卒業が発表された後、店に会いに行った時に彼女が私にいいました。
大丈夫。貴女はちゃんと素敵なメイドになれていましたよ。
彼女が憧れている先輩たちは、メイドとしてだけでなく人間としても素晴らしい部分をたくさん持っていました。
それは年齢だけは上の自分も心から尊敬し、彼女たちのようになりたいと思うほど素敵なもの。
そして卒業していく彼女も、そんな素敵なものをたくさん持っていました。
寂しさで過去ばかり見ていた私の心を今に向けてくれた明るさ。
慌ただしい状況でも最後までやり遂げようとする粘り強さ。
お店に来た人を楽しい気持ちにさせてくれる可愛い笑顔。
そして、お客さんの心に触れた時にそれを大切にして自分も頑張ろうと思える優しさ。
本当に素敵な方で彼女に出会うことができて良かったです。
尊敬する先輩たちのようになりたいと語っていた彼女。
私は今、そんな彼女のようになれたらと思います。
彼女のように出会った人たちを明るく優しい気持ちに変えられるような人に。
それは理想かもしれませんが、確かにこの場所で出会いその存在を知った彼女を忘れない限り希望を持ち続けることができます。
思い続ければいつかは彼女のようになれるかもしれないと。
推しが卒業した日、自分にとって何かが終わったと思っていました。
だけど新しい出会いがあったことで人生は続いていくのだという大切なことに気づくことができました。
それに気づかせてくれた彼女に心から感謝したいです。
植物のアンズを意味する漢字『杏』には人を助けるというイメージもあるようです。
何でもアンズは薬用としても古くから使われてきたとのこと。
まさに彼女にピッタリの素敵な名前だと思いました。
苦しい時期に出会った彼女は、私の心に楽しい時間という薬を塗って治してくれました。
これからオレンジ色の可愛らしいアンズの実を見ると、私は彼女のことを思い出すでしょう。
辛い時期に出会い、私の心を温かく癒してくれた彼女のことを。
その優しさを新しい場所で広げて、彼女がこれからも笑顔溢れる毎日を過ごせることを祈っています。
出会ってくれて本当にありがとう。
これから目指していく夢に向かっていってらっしゃいませ。