福岡を中心に演劇活動を行っている『陽project』
先日から過去に陽projectが過去に行った全公演が配信されるという企画が開催され、これまで見たことがない作品も鑑賞することができた。
もともと舞台を観に行く人間でなかった私だが、色々な経緯があり出会った陽projectの作品には生命力をもらっている。
この記事では記念すべき第1作である『幕末トリガー風雲伝』とその続編である第2作『幕末トリガー蒼狼伝』について簡単ではあるが感想をつづりたい。
『幕末トリガー風雲伝』感想
本作の上演は2018年4月。
幕末を舞台に神の力で岡田以蔵となった女性が歴史上の人物たちと関わりながら、愛する武市半平太のために奮闘する物語だ。
第1作ということで、現在では陽project作品の特徴となっているプロジェクションマッピングを用いた大胆な演出も本作には存在しない。
セットもわずかに高い台が組まれている以外はシンプルであり、最近の作品しか見たことのない私には今と全く違う印象に映った。
本作は幕末を題材にしており、その点に関しては新型コロナウイルスの影響で2022年4月に映像配信という形で公開された『新選組ロッケンロール』と共通している。
決定的に違うのは現在の少女が幕末にタイムスリップしたという『今』の時代の要素が加わっている新選組ロッケンロールに対して、幕末トリガー風雲伝は幕末という『過去』の要素のみで物語が構成されている点。
ただの少女が神秘的な力で岡田以蔵となるというあらすじでもわかるように本作はファンタジーだ。
一方で本作には坂本龍馬や西郷隆盛など有名キャラが登場し、物語の一部に史実の要素も取り入れられている。
そのため一見すると歴史に詳しくない人にとって、ややとっつきにくい物語になっている一面もある。
もちろん岡田以蔵をはじめ、幕末の偉人に関しては名前くらいは聞いたことのある人がほとんどだろう。
だがある程度キャラクターの背景をわかっていなくては目の前の人物が置かれている状況がわからないという部分。
それがさらに史実と空想が混じっていて、理解するのに時間がかかるというのはこうした作品の難しい部分である。
そうした意味では、忍者を題材とした完全に空想の物語である最新作『忍』と本作が対になっていることが興味深かった。
一方で、立場は違えどそれぞれの立場で自分の信念に殉じその命を燃やして生きるキャラクターたちの姿はこの第1作からすでに描かれている。
陽projectの作品に登場するキャラクターたちはとにかくよく走りよく叫ぶ。
もちろん人間らしさとはそれだけではないのだが、さまざまな勢力が入り乱れる複雑な物語にあって感情に訴えてくるものが確かにある。
そうした意味でも本作は、陽projectの始まりの物語として後に繋がるさまざまな要素が詰まった作品であった。
『幕末トリガー蒼狼伝』
本作の上演は2018年8月。
幕末トリガー風雲伝から直接続く物語であり、前作の岡田以蔵が新選組の沖田総司に生まれ変わり野望渦巻く幕末を駆け抜けていく。
映画においてエピソード1、2のように連続物が制作されることは今や常識だが舞台演劇でこのような形式がとられるのはとても珍しいと感じた。
それ故に前作を見ていなければキャラクターの背景がわからないという弊害もあるが、一方で前作からブラッシュアップされ見所も多い作品となっている。
出演した役者の数が前作よりかなり増えたことで、より多くのキャラクターや陣営の物語が描かれていた。
このキャラクターが増えたことに関しては一見すると物語がより複雑になっているようにも見える。
しかし個人的にはその多さが、かえって少人数であるよりもそれぞれのキャラクターがどの陣営に属しているのかをわかりやすく表現していたように思う。
もちろん新選組や薩摩、長州といった単語にある程度の知識があればこそなのだが「この人物とたくさん一緒にいるからこの人はこの陣営なんだな」とざっくりとでも感じられる効果があった。
また殺陣のシーンに関しても、前作より洗練され役者陣の動きも格段に向上しており見応えのあるものになっている。
一方で前作でも感じたことだが、さまざまなキャラクターが登場する中で主人公の沖田の印象がやや弱いように感じた。
もちろん物語の芯を担っていることは間違いないのだが、他のキャラクターたちの壮絶な生き様や個性の強さの方が個人的に印象に残った。
このようにまだまだ試行錯誤している部分も感じることができるが、若い役者陣が手探りの中でよいものを見せようとしている気概。それは確かに作品から伝わってくる。
続編として正当なパワーアップを感じることができる2作目であった。