ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

日々の中で出会った映画・本・お店、演劇や物などを総合的に紹介する雑記ブログです。

星の見えない空に 〜僕と推しと時々ぴえん その7 Last Train Home〜

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後悔のない人生など送れるはずがない。

悩むことなくシンプルにだけ考えて生きる人生も送れない。

何かにすがりたい。何かに助けてほしい。

自分を認めてほしい。

 

もしも何かの縁でこのブログに辿り着いた人で、僕が書いていることを読んでこう思う人もいるのではないだろうか。

 

「なぜこの人はわざわざお金を払ってまで女の子と喋りに行くのだろう?」

 

貴方の疑問はわかる。コンセプトカフェに行くまでは僕も同じことを考えていた。

その答えを教えましょう。

それは現代で叫ばれるものの一つ。人間の三大欲求に加えてもいいかもしれないもの。

多くの人がそれに悩み、迷い、自分の存在を証明しようと足掻くもの。

その名は『承認欲求』

 

コンセプトカフェに行くことで僕は自分がこの世界にいることを認めてほしかった。誰かに覚えていてほしかった。

僕の存在、僕の思考・・・ メイドたちと話をすることで僕は僕という存在を認識してほしかった。満たしてほしかった。

だからお店に通っていた。満たされることは快感だった。

だけど時間が経てば恐れが心に生まれてくる。

みんな僕を忘れてしまってはいないか? SNSにいいねがついていないけどどうしよう・・・

そしてまた満たすためにお店に行く。

 

もちろん話すこと、料理を食べること、店の雰囲気を感じることが一番に楽しいことだった。

だけどこの承認欲求というやつは満たしたと思ってもすぐに次を求めてくる。

消し去ることはできない。

このまま永遠にこの戦いは続いていく。かと思えたが、ある時消せなくてもこいつと共存できそうな気がしてきた。

僕にそう思わせたもの、それは・・・

芦屋にて-サイリウムとアイドル-

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会場に着いて空を見上げているとここに初めて来た日のことを思い出す。

夏の強い日差しと抜けるような青い空。ドゲンジャーズのショーを観るために訪れたあしや夢リアホール。

2021年の年末に福岡市の香椎花園が閉園して以来、この日は久しぶりのドゲンジャーズショーだ。

 

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推しが卒業する寂しさも今日だけは忘れて楽しもうと僕は思った。

「あれ〇〇さんお久しぶり!」

ひとしきり物販で買い物を済ませて入場しようとした時、聞き覚えのある声がした。

「あっ! こんにちは。ご無沙汰しています」

ドゲンジャーズが縁で知り合ったファン仲間の方だった。

1月にドゲンジャーズの主題歌を歌っている児塚あすかさんのライブが福岡で開催されて、その時以来の再会だった。

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その人は僕がメイドカフェに行っていることは知っていて、推しが卒業することを知り失意の底にいることも知っていた。

「今凄く寂しいです・・・ やっぱり」

「その気持ちわかります。私ももしドゲンジャーズの推しのヒーローが辞めるとかなったら悲しいですよ」

そうだよな。推しってやっぱりそういうものだよな。この気持をわかってくれる人がいて良かった。

「話せてよかったです。今だけは思い切りショーを楽しみましょう」

僕はその人に感謝した。ここ数日メイドと話しをしている時もそうだが、人と話すと心が落ち着く。僕は日々たくさんの人に救われていた。

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ショーを盛り上げるために物販でペンライトを買った。数種類の色に変化するすぐれもの。

以前はキャラじゃないと遠慮していたこうしたアイテムも、メイドカフェのライブで吹っ切れたのか積極的に振りたくなった。

しかしそれとは別に、これを購入したことにはもう一つの思いがあった。

 

後悔

 

推しがライブで歌っていた時もっともっとこういうのを振って応援してあげれば良かった。

それなのに僕は彼女を推しと呼んでいながら、ちっぽけな見栄にこだわって何もしてこなかった。

気づいた時は既に遅い。僕はいつだって遅すぎるのだ。何もかもが。

 

だからせめてお店にこれを持っていって振るポーズを撮ってチェキを撮りたいと思った。

それはこれ以上の後悔をしないためと、彼女へのせめてもの贖罪のつもりだった。

 

ドゲンジャーズのショーは楽しかった。

やはり圧倒的なクオリティを誇っており、舞台でありながら長い映画を観ているような充実感があった。

その中の一場面が心に刺さる。

自分の過去に悩むヒーローに先輩のヒーローが思いを語る場面。

「なぜヒーローをやっている? 好きだからでいいではないか。その気持があれば何をいわれても気にするな」

確かこんな感じの台詞だったと思う。

 

ああ・・・ そうか。これだったんだと僕は思った。

 

メイドカフェを訪れていた理由、推しを応援してきた理由。

僕は好きだからずっとそれをやってきたんだ。

承認欲求? 確かにそれもあるだろう。でもそれ以上に僕は推しと話すことが、会うことが好きだった。

だから例えもう会えなくなるとしても関係ない。僕はただ僕の大好きな推しを応援できればそれで良かったのだ。

 

常々ヒーローものには励まされてきたが、こんなに自分の気持にマッチした状況で観るショーは初めてだった。この日のことは忘れないだろう。

ショーの最後に写真撮影の時間があった。

突然会場の前の方に座っていた僕の前に可愛らしいヒーローが姿を現した。

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2022年4月から始まる新シーズン『ドゲンジャーズ〜ハイスクール〜』に登場する新ヒーロー・MAKO。

僕の目の前からステージ中央に移動したこのMAKOに変身する主人公を演じるのは、アイドルグループ『MAGICAL SPEC』のセンターを務める藤松宙愛(ふじまつそら)だ。

 

目の前に現れたのがアイドルの女の子が演じるヒーロー。

「アイドル・・・ アイドルか。やっぱり俺にはそういう物との縁ができたのかもな」

ステージの中央に立つMAKOの姿に僕は推しの姿を重ねていた。

 

彼女もきっとこんな風にたくさんのステージに立ってきたのだろう。そして人を笑顔にしてきたのだろう。

特撮ヒーローとアイドル、ジャンルは違っても人を笑顔にして元気を与える存在に変わりはない。

そうか・・・ だから僕は彼女に感じるものがあったのかもしれない。

そう思うとまた少しだけ胸が痛んだ。

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芦屋から戻った後、僕は推しに会いに向かった。

そしてドゲンジャーズショーで買ったペンライトを振るポーズで推しとチェキを撮った。

「本当はもっともっと君をこうやって応援してあげればよかった。とても後悔している。だから悔いのないようにこれを振りました」

僕は推しに気持ちを伝えた。

「いいんですよ、嬉しいです!」

彼女の言葉を聞いて、ようやく少しだけ僕は救われた。

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時系列は前後するが、彼女と過ごす中で悔いを残さないことを考えた時にやっていないことが色々と残っていた。

オムライスへのお絵描き、ドリンクへの魔法の呪文。

どれも彼女からはしてもらったことがなかった。だから僕はその一つ一つを埋めていった。彼女のお絵描きはとても上手い。

「ケチャップのお絵描きも最初は上手くできませんでした。でも家に同じ形のケチャップがあったから練習しました。練習のつもりはなかったですけどね」

そう語る彼女だが、やはりそれは努力だったのだと思う。

僕が彼女と初めて会った時、そろそろメイド1周年になろうとしていた彼女は既に頼りがいのあるメイドであるように僕には見えた。

でも僕が知らない時代、彼女もたくさんの試練を乗り越えてきたのだろう。

長く通っているとたくさんの新人メイドに出会う。

みんな最初はとても緊張していた。しかしそれぞれが自己研鑽を重ね成長していく。

その中でも副メイド長にまでなった推しの努力は凄まじいものだったのだろう。

 

「最初に僕と出会った時の印象を覚えている?」

何気なく推しに尋ねてみた。

「そうですね・・・最初は興味で来てくれたんだと思いました。通ってくれるとは思っていませんでした」

それは僕自身もそう思っていた。自分がこんなにも通うようになるとは。

だけどここにたくさん来たこの数年は本当に楽しかった。

たくさんのメイドたちのお陰で・・・ 何よりも君のお陰で。

大好きなメイドだった。そして大切な存在だった。

この世界で一番

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「にいにいが◯◯(姪っ子)が世界で一番可愛いって」

テレビ電話で姪っ子に向かって母がそう叫んだ。

それを聞いた姪っ子がキャッキャと照れたように笑っている。

 

正月に会って以来故郷に戻ることもできず姪っ子にもしばらく会っていなかった。

顔を見る度に大きくなっていく姪っ子はとても可愛い。

「そうだよ、◯◯は世界で一番可愛い」

今度は僕が話しかける。また姪っ子が照れた。

やっぱり女の子は可愛いっていわれると嬉しいのだと思った。

 

血の繋がった大切な子だ。父や母や妹、そして僕にとっても大切な存在。守らなければならないもの。

けれどね・・・

 

ごめんな、姪っ子よ。君は本当に『世界で一番可愛い僕の姪っ子』だ。

だけど今にいにいには『この世界で一番可愛いくて大切な人』がいるんだよ。

願わくば姪っ子にも彼女のような素敵な女の子に育って欲しい。

明るく前向きで努力家で、可愛くて優しくて働き者で、気配りができて向上心があって仲間思いで・・・

言葉では言い表せないくらい素敵な世界で一番可愛い女の子。僕の推し。

 

一番という言葉は簡単には使ってはいけないのかもしれない。それでも僕は叫びたかった。

 

「僕の推しは世界一可愛い!」

新しいスタート

終わりと始まりはいつも表裏一体。

日が長くなり、桜も徐々に咲き始める中でみんなが一歩ずつ新しいスタートへと動き出していた。

アイドル活動を経てメイドとなり、今その活動の歴史に幕を下ろそうとしている推し。

その一方で、かってその存在を知った方はこれからアイドルとしての道へ進んで行く。

また別の人たちもそれぞれで新しい活動を始めようとしていた。

 

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この日はまた一人新しいスタートへ踏み出すメイドの卒業を見送った。

よく頑張ったと思う。

新しい世界はきっとこれまでと何もかもが違うだろう。辛いことも悲しいこともあるだろう。それでも元気で楽しく過ごせるように僕は願った。

その卒業イベントの中、推しの彼女も寂しそうだった。

無理もない。長くお店で一緒に働いてきた仲間だし、何よりももうすぐ彼女自身がここを去る時が来る。

 

「ライブのブログも、他のメイドさんみたいに私が卒業する時のブログも書いてください」

彼女が僕にいった。

底辺とはいえ一発信者として、誰かに書いてくれといわれるのは嬉しい。

しかし・・・

「わかった。でも本当は・・・」

ああ、駄目だ・・・ その先をいっては。

「君の卒業を書く日なんて来てほしくなかった」

いってしまった。前向きに応援しようと決めていたのに。

絶対に気持ちを引っ張るようなことはいうまいと決めていたのに。

 

情けない、本当にみっともない。ごめんな。

 

それでも彼女は僕を責めるでもなく、この店を去る寂しさを語ってくれてた。

彼女の心はこの場所を思う愛に溢れていた。

それが僕にはとても嬉しかった。

ここは大切な場所だ。たくさんの人と出会い、そして彼女と出会った大切な場所。

数え切れないほどたくさんのことがあった。

 

そんな愛を持っている彼女だからこそ新しいスタートには意味がある。

この場所で僕たちにそうしてくれたように、これからは新しい世界でたくさんの人を笑顔にしていって欲しい。

きっと彼女を待っている人たちがこの世界には大勢いるはずだから。

 

時間は汽車のように止まらずに進んでいく。

いよいよ彼女が卒業する日がやって来た。

たくさんの人に元気と笑顔をくれたメイドとしての日々。

そんな彼女と出会い、過ごした僕のこれまでの日々。

 

汽車は終着駅に迫っている。