バンドにおけるドラムの役割は「リズムのパターンを変えて曲調を変化させること、曲の展開をリードしていくこと」などさまざまなものがあります。
あるライブに行ったとき、ドラマーの方がとても疲れた状態になりながらも最後まで力いっぱい叩いている姿を見ました。
体も心も限界をむかえているのに、最後の時間が近づくにつれて激しさを増すその姿に感動した記憶があります。
今回、福岡市天神にあるメイドカフェ『めるドナ』を卒業される方もそんなドラムのようにみんなをリードし、力いっぱい支えてくれた方でした。
最初に会った時、これまで出会ったメイドさんとは印象の違う方だと感じました。
まるでもう何年もこの店にいるような、そんな堂々とした存在感が彼女にはありました。
これは私個人の記憶ですが、店に来た時から卒業をむかえる今日まで彼女が慌てたり取り乱したりした姿を見たことがありません。
もちろんそういうことはあったのかもしれませんが、常に冷静な彼女の姿はそれを感じさせない安心感に満ちていました。
もしも私が初めてこのお店に来た客だとして、彼女が最初に接客してくれたならとても安心したと思います。
こんな素敵なメイドさんがいるならまた来ようと感じたはずです。
メイドカフェであれ他のお店であれ、その印象を決めるのは最初に出会う人。
彼女の唯一無二の存在感はお客さんにとっても、お店のメイドさんたちにとってもかけがえのないものだったと思います。
あれはポリスdayというイベントの時のこと。
「こんにちは。今日は警察官です」
と彼女の穏やかな声。
「あれ? でも警察官が髪を染めたりピアスをするのはNGじゃなかった?」
と返す私。
「いいんです! 私が守るのは表現の自由です」
「表現の自由は民法の範囲で、警察官が守るのは刑法じゃない?」
「いいんです!」
そんな会話を交わしました。何てことのないボケとツッコミ。
だけど今は何気なく交わした会話の一つ一つがとても愛しく感じます。
冷静で落ち着いているだけではない、話をすると心から楽しいことも彼女の魅力でした。
そして何よりも私が好きだったは、彼女がお店や他のメイドのを愛していてくれたこと。
SNSを通して発信される彼女の日々。メイド仲間と過ごしたことやメイドになって感じたことがつづられていました。
そこにはお店のファンとして嬉しい言葉がたくさんあり、私はそれを読むことが好きでした。
他のメイドさんも、彼女と過ごした時間がとても楽しかったと話してくれました。
店では自分の至らない部分を的確にカバーしてもらい、プライベートでも楽しい思い出をもらったと語っていた方もいます。
そんな姿はまさにみんなをリードするドラム。
メイドもお客さんも『楽しさ』というセッションをしていた時間・・・・・・
彼女がお店にいてくれた日々とはそういう時間でした。
かけがえのない大切な時間です。幸せな時間です。
「どんなメイド人生だった?」
卒業が発表された後、これまでの日々を振り返るように私は尋ねました。
「楽しかったです。普通では経験できないようなことをたくさん経験できました」
赤いバラが印象的な可愛い浴衣を着た彼女が感慨深げに語ってくれました。
「私はめるドナで働いていたんだって胸を張っていえます。それに〇〇さんにも出会えてよかったです」
彼女の口から出たのは、もう卒業してしまった私の推しの名前。
「大事な子だったよ。僕にとってこの世界で一番大切だった」
「私も世界で一番大切って誰かに思われたいです」
推しの卒業が迫ったある日、推しへの気持ちを語った私に彼女がこう話してくれました。
「いわないだけで、そう思っている人はもういるんじゃないかな」
その時はそう返しましたが、彼女自身の卒業が迫る中で店に訪れたお客さんたちを見ながらそんな人がきっといると私は思いました。
彼女と話すときのお客さんたちの楽しそうな様子。
それは、そのまま彼女が誠実に積み上げてきた時間の証でもあります。
私の気持ちを知り、推しの名前を出してくれた優しさ。それがとても嬉しかった。
どれほど彼女がお客さんのことを考え、大切に思ってくれていたのかを改めて感じました。
そんな彼女だからこそ卒業されるのはとても寂しいですが、前向きに新しい世界へ進んでいく決断を応援したいと思っています。
「メイドになって色々褒めてもらえることも増えたけど、私はいつも自分のことを一番大切に考えています。自分が楽しいことを考えています」
ふと彼女が口にしました。
「だから○○さんも自分のことを大切にしてください」
彼女が真っ直ぐに私を見つめて伝えてくれた言葉です。
ありがとう。そういってもらえて嬉しかった。
そして、貴女はそれでいいんです。
「自分を大切にできない人に他の人を大切にすることはできない」
昔はその意味がわかりませんでした。
逆に自分を大切にできないから、人間はせめて他人を大切に思おうとするのではないか・・・・・・ そう考えていました。
でも自分を大切にできないとそもそも自分にとっての『大切』とは何なのか、どういうことなのかがわからないんですね。
それでは他人を大切にすることなんてできない。
自分を大切に思えば自分を尊く思う。自分を尊く思えば周りへの感謝も生まれる。
そうしてやっと周りの人々を大切に思うことができる。
めるドナで出会った推しも自分のことを大切にしていました。
「私は自分のことを可愛いと思っています」
そう元気よく語っていました。だからこそ、彼女は自分に出会った人たちに元気でいて欲しかったんだと思います。
それはきっと今回卒業する彼女も・・・・・・
「いつも心の中に○○さんですよ」
推しが卒業して悲しむ私を彼女はそういって励ましてくれました。
ありがたかったです、本当に。
卒業は寂しいものです。辛いものです。
だけど会えなくなったからといって、私と彼女が出会い過ごした時間までが無くなってしまうわけではありません。
大切です。思い出も、彼女とお店で会いさまざまな話をして語り合ってきた自分自身も。
色々なことを学ばせていただきました。
何より彼女がお店と、そこで出会った仲間のことを大切に思ってくれたことが嬉しかったです。感謝しています。
彼女が進み目指していく夢。その夢の過程で新たに出会っていく人たちと行うセッション。それがまた誰かの心を動かしていくことを信じています。
この場所に来てくれて、出会ってくれてありがとう。
想い出を胸に新しい夢に向かって・・・・・・
いってらっしゃいませ。