ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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舞台感想『キグルミオッカナイト』

 

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先日観劇した『控えめに言って、崖野は殺した方がいい』で、改めて俳優が演じる生の感情が舞台演劇の魅力だと感じた。

その感情が、思いっきり『笑い』というポジティブな方向に向けられた作品がこの記事で紹介する『キグルミオッカナイト』だ。

本作は福岡で活動する劇団ジグザグバイトの作品である。

物語は架空のテレビ局である『NHA』を舞台に退魔士(エクソシストのようなもの)のショウコが、弟のユウゾウにかけられた呪いを解くために二人でNHA内で発生している子どもの失踪事件に立ち向かうというもの。

 

放送局、NHA・・・・・・ この単語に何かを感じる人も多いだろう。

そしてこの時点で察しのいい人は気が付くと思うが、本作は誰もが一度は目にしたことのある放送局のキャラクターを題材にしたコメディ作品だ。

 

舞台の始まりは何やら暗い雰囲気で幕を開ける。しかし次の瞬間には、180度真逆の子ども向け歌番組のセットらしき場所に場面が切り替わる。

歌のお姉さんに扮したショウコと、同じく歌のお兄さんに扮したユウゾウが軽快に歌を歌っていた。キグルミのキャラクターも一緒である。

正直何が起こっているのか最初の場面とのつながりが全くわからなかったのだが、この歌の場面がとにかく楽しくてそんなことは気にならなくなった。

 

この場面の何が面白かったのだろう?

 

それはたぶん大人が、しかも演技力のある俳優たちが全力で悪ふざけをしているような緩さが心に刺さったのだと思う。もちろんいい意味での緩さだ。

そしてその緩さは作品全体を貫き、気が付けばキグルミオッカナイトは最初から最後まで笑いの絶えない楽しい作品となっていた。

 

ドラマでも映画でも笑えないギャグというものがある。

それが生まれてしまう理由は、ギャグが作品の雰囲気に合っていない、そもそも作品の世界観がギャグ向きでないのに無理やり入れてしまったなどが考えられるだろう。

 

最初の段階で「これはコメディですよ」と示されたことにより、観客である私はその後に展開される怒涛のギャグラッシュを違和感なく受け入れることができた。

なんせどこかで見たことのあるようなキャラクターや、どこかで見たことのある番組の概念を擬人化したようなキャラクターがわんさか出てくる。

それでいて主人公たちの存在感が薄くならないのは凄いことだ。

強烈なキャラクターたちが登場する一方で、本作はショウコとユウゾウの物語であることだけは最後までぶれることはなかった。この絶妙なバランス感覚も本作の魅力だ。

 

強烈なキャラクターたちの中でもひときわ存在感を放っていたのが、來人演じる体操のお兄さんこと外道本道である。

ある意味で三人目の主人公といえるほど彼の体を張った存在感は凄い。

ネタバレになるので詳しい内容は書けないが、文字通り体を張って観客を笑わせにきていた。

本作がシリアスな場面でも空気が重くならなかったのは本道の存在あってのもの。

 

実は本道のようなキャラクターは作品によっては諸刃の剣にもなりえる。

こうしたキャラクターが作品の世界観を壊してしまった場合、途端に作品全体を冷めた目でしか見れなくなるのだ。

だが本作の場合それはなく、ひたすら笑いに徹することで俳優の体を張った演技を観れる生の舞台の面白さを再確認させてくれた。

 

本作が真面目に笑える作品になっていたのは世界観の構築はもちろんのこと、俳優陣の熱演あってこそだ。

ショウコを演じた佐藤柚葉は歌のお姉さんとしてぴったりだったし、ユウゾウを演じた八坂桜子も呪いに蝕まれる繊細さと歌のお兄さんの元気さを力強く表現していた。

 

ショウコたちと敵対するNHA八人衆も個性的な面々が揃っていた。

この八人衆はそれぞれが有名キャラクターたちのパロディになっている。元ネタのキャラクターの特徴や個性をきちんと押さえていたことに好感が持てた。

個人的に立花恭平演じる見所萬斎のキャラクターが面白い。

八人衆の中では比較的まともな悪役なのだが、だからこそ本作の世界観の中で存在感を放っていた。

 

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立花氏のことは書店で上演されるという少し特殊な演劇作品『極楽こたつ』で知り、非常に演技力の高い人だと感じている。

それは本作においても遺憾なく発揮され、棒を使ったアクションシーンの中でも余裕を崩さない萬斎のキャラクターを魅力的に表現していた。

 

大変面白かった本作だが惜しむらくは怒涛のギャグに流され、冒頭の話の発端となった部分が何を意味していたのかが少し分かりづらかった。

あくまでも個人的な意見ではあるが、冒頭のドラマが中盤辺りにまとめて組み込みこまれていたら、全体の話やキャラクターたちの関係や気持ちを理解しやすかったように思う。

 

最後にもう一つだけ個人的な思いを。

本作にはエンタメ集団『トキヲイキル』のメンバーである岸田麻佑が女忍者役で出演している。

グループのメンバーである桃咲まゆは福岡を舞台にした特撮ドラマ『ドゲンジャーズ』でヒロインを演じていた。

またシリーズ3作目である『ドゲンジャーズハイスクール』で主演を務めた藤松宙愛も、以前はトキヲイキルに所属していた。

 

もともと劇団ジグザグバイトに出会ったのもドゲンジャーズがきっかけだった部分もあり、そうしたことからも縁というものを感じる。

ライブでしか見たことがなかったが、本作で岸田麻佑の演じる姿を見ることが出来て嬉しかった。