「なぜいまさら初代をリブート?」
『シン・ウルトラマン』と『シン・仮面ライダー』を観るにあたり、常に抱いていた疑問だ。
自分なりの答えとしては、既に高い知名度のあるキャラクターの最初の作品を現代に作り直すことでその普遍性を証明するため。
しかしこうした試みは、映画でなくてもシリーズの最新作が何らかの媒体で制作される度に行われれていることだ。
例えば仮面ライダーに関しては、1992年発売の『真・仮面ライダー序章』で仮面ライダーをテレビシリーズ以上に掘り下げたバッタ怪人として描く試みがなされていた。
ウルトラマンにしても、1993年発売の『ウルトラマンパワード』において初代ウルトラマンに登場した怪獣がアメリカでリメイクされて登場。
2000年代には映画『ULTRAMAN』や『仮面ライダーTHE FIRST』でも初代のリメイクが行われ、大成功とはいえないまでも最初のウルトラマンや仮面ライダーが持っていたキャラクターの普遍性を証明することに貢献している。
そして2023年の『シン・仮面ライダー』である。
結論からいえば、本作も最初の仮面ライダーの魅力が現在でも通じることを証明した作品だと感じた。
バイクに乗り、徒手空拳で戦い、過酷な運命に翻弄されながらも人間愛を忘れず人類の自由のために戦うヒーロー。
もっといえば、心優しき本郷猛という主人公の物語としては完成されたものだったと思っている。
一方で本作は、これまでの初代ライダーのリメイク作の中で一番監督の作家性が強い作品でもある。
その理由は言わずもがな、監督が庵野秀明だからである。
その結果、本作は確かに仮面ライダーではあるが同時に庵野秀明の映画でもあるという当然の、しかしどことなく奇妙な形の作品となっていた。
一本の映画でありながら、複数のオムニバス形式の展開であり登場人物たちの感情や背景が多くは語られないまま進行する物語。
説明のための長い説明台詞が多く、しかも物語に関わる設定が膨大なためどことなく不自然になる会話のテンポ。
そうした要素は、どちらかといえば登場人物の少ない本作においては上手く機能していたとは言い難い。
確かに初代の仮面ライダーにおいても、メインとなるのは怪人とライダーの格闘であって登場人物の内面がそのものが主題となるエピソードはほとんどなかった。
そうしたところまでを現在に再現し、その上で初代の魅力を再確認できる作風を目指すという試みは理解できる。
しかし、それが却って本作から独自性を奪っていたようにも感じた。
登場人物たちの感情や背景を深く描き、過去の作品でできなかったことをする。
実は本作ではその挑戦はなされている。本郷猛の父についてのエピソードだ。
初代ライダーでは本郷の家族についての話は全く描かれない。
だからシン・仮面ライダーではそれが物語に取り入れられたのだろうが、本郷というキャラクターの背景としては弱かった。
理由は、父のエピソードと本郷のキャラクター性に今ひとつ結びつきが感じられなかったからだ。
もしも父の一件がトラウマとなり、その結果人間を恐れるようになりコミュニケーションが上手く取れなくなった、などの背景があればもう少し本郷の人柄も見えてきたと思う。
もしかしたら庵野監督の中には『シン・ゴジラ』のヒットにより、特撮物がオタク層以外の一般層を呼ぶためには、できるだけよくある人間ドラマを廃した作風にするのがいいという考えがあったのかもしれない。
しかしゴジラではよくても、登場人物が主人公側も敵側も人間である仮面ライダーではそれは当てはまらなかった。
もちろん、庵野監督の仮面ライダーに対する愛やリスペクトは作品全体から伝わってくる。
賛否両論あるBGMの使い方も、世代ではないが初代ライダーをDVDや配信で何度も見た私にとっては燃えるものだった。
また本作の高評価の理由となっている仮面ライダー第2号・一文字隼人についても、初代の熱血漢とは違った、しかし現代に一文字隼人を蘇らせるならまさにこういうキャラクターと納得感のある人物となっていて素晴らしかった。
一方でショッカーの怪人については、私の中で明確にこれは違うと思った。
芸達者な俳優陣が演じているため、正体である人間の狂気は確かに感じる。
しかし初代ライダーにあったおどろおどろしさはない。
『仮面ライダーTHE FIRST』以来、どうもショッカーの怪人を現代風にアレンジするならば強化服と仮面にしなければならない決まりがあるのだろうか。
だがその弊害として、どのオーグも妙に小綺麗で怪人として見た場合魅力がない。
人間が仮装しただけのように見えてしまう。
画面越しにも怪人の悪臭が漂ってきそうな、初代の怪人の肉体が変化し人間性が消失したような恐ろしさがない。
初代の怪人に遭遇したら命乞いをしても無駄な恐怖感かあるが、本作のオーグからは話せば逃してもらえるような人間性を感じてしまう。
ここは大きなマイナス点であった。
また終盤のショッカーライダー戦は敵も味方も真っ黒で、正直何をやっているのかまったくわからなかった。そのため、戦いの盛り上がりが感じられない。
制作陣には申し訳ないが、ここはきちんとライダーたちの姿を見せて熱いバトルを見せてほしかった。
それこそが、子どもたちが見て楽しいものを命がけで作っていた初代ライダーをリスペクトすることにつながったのではないだろうか。
色々とマイナス点も書いたが、ラストはとても好きだ。暗い物語の中で、それでも希望を感じさせるラスト。
科学の負の部分から生まれながらも、それでも人間の持つ希望を信じ自由を守るためにバイクに乗る仮面の戦士。
「ああ、仮面ライダーだ」
素直にそう思い感動した。
『シン・仮面ライダー』は名作にまでは届かなかったが、2020年代に仮面ライダーの普遍性を再確認させてくれるだけの力を持った作品。
一見の価値ある映画だと記し、この記事を終えたい。