ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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音楽劇『三人姉妹』感想 ~『愛と青春のふる~れ』で初観劇~

福岡市東区に『愛と青春のふる~れ』というシアターカフェがある。

九州を拠点に舞台女優として活動し、長い芸歴の中で全国で公演も行った玄海椿さんが店主を務めるお店だ。

ここでは玄海さんがプロデュースする公演が行われており、俳優だけでなくアイドルなど主に福岡を中心に活動する人々が出演している。

 

2022年8月20日から26日まで公演される『三人姉妹』は、ロシアの作家であるアントン・チェーホフの原作をアレンジしたものだ。

舞台となるのは1917年のロシア革命前夜の時代。

高級軍人一家に生まれた三姉妹が父親を亡くし次第に家は没落。

一家に出入りするロシア軍人や街の人々との関わりの中で、最終的に強く生きていくまでの過程が描かれている。

 

三姉妹の長女オリガを玄海椿(@gtsubaki1122)さん、次女マーシャを若手女優のソフィア(@SOFIA69_7n)、三女イリーナをアイドルグループ『anomaly』の心乃音(@anomaly_konone)が演じそれぞれが歌も披露していた。

 

以前出演された作品を鑑賞した経緯もあり、この記事では本作の感想を二人の女優をメインにつづりたい。

 

海外文学をもとにした作品であるため、事前に知識がなければ登場人物たちの背景や心情が捉え辛い一面も本作にはある。

ただ作品の理解に必要な事柄は作中で説明されており、ロシア革命前のある街のある一家の話という知識さえあれば理解することに支障はなかった。

また作中では数年の時間経過が描かれるが、これに関しては登場人物が年齢を口にするなどして時間が経ったことを知らせる構成になっていた。

 

作中の中で大きなウェイトを占めるのが、次女マーシャとロシア軍中佐であるヴェルシーとの関係。

理想の結婚とはほど遠い生活と夫に不満を持つマーシャ。情緒不安定な妻を持つヴェルシー。

三姉妹の中で唯一結婚していながらも、そのことに後悔するマーシャ。彼女の存在が物語の中で人間の幸福とは何かを訴えかけるものになっていた。

 

舞台『新選組ロッケンロール』で世界に不条理に対し熱い言葉を叫ぶ沖田総司を演じたソフィアだが、本作でもままならない運命に翻弄される一人の女性を演じきっている。

 

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特にラストでヴェルシーとその妻カミラとの別れの際に見せる表情。

冒頭では三姉妹の中で一番捉えどころのない印象を持つマーシャだったが、叶わぬ恋を経験し人間的に成長した姿を見ごとに表現していた。

また歌においても他の二人に引けを取らない歌声を披露。

その時間はまさに彼女のためだけの舞台といっても過言ではない歌唱力だと感じた。

 

一方で舞台『露出狂』や『九州旋風カミカゼバイト』などで明朗快活な少女を演じてきた心乃音も、一見明るく見えながら運命に翻弄されるイリーナの表現に挑戦していた。

ある意味では三姉妹の中で最も悲しい運命を背負うイリーナ。

姉妹の中では一番年下で、役柄的にも配役的にも明るいイメージのある心乃音が演じるからこそ悲劇の場面で訴えかけてくる悲しみがあった。

個人的にやや唐突に感じられた歌の演出であったが、三人の女優の歌声は聴いていて心地よいものであり場面転換の効果を発揮していた。

特にアイドルとしても活動する心乃音はさすがの歌唱力であり、イリーナの心情をストレートに感じられるものとなっている。

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本作は人の力が世界を変える物語ではなく、抗えない運命に人が翻弄される物語だ。

だからこそ、2022年という時代に訴えかけてくるものがある。

運命の残酷さや人の業を描いた普遍性がある。

フィクションであっても三姉妹の物語は過去に世界のどこかで、そして今もまたどこかで起こっている物語だ。

そう考えた時、今の私たちの平和もこうした物語の上にあることを忘れてはならないと思った。

最後にもう一つ印象的な女優について。

本作で三姉妹を演じた女優と並び、彼女たちに仕えるメイドのアンフィーサが印象的だった。

ミズキという女優が演じたこの役は原作では老人である。

それを若いミズキが演じることで、まるで四姉妹のような存在感を放っていた。

シリアスな雰囲気の本作の中で一番コミカルな芝居の多いアンフィーサだが、彼女の存在が一種の清涼感となって作品を重くなりすぎないようにしていた。

 

こうしたアレンジはもし原作を知る人が観劇した場合、賛否の出る部分かもしれない。

しかしその姉妹感がアンフィーサの苦しさや希望をより深く伝えることに貢献したいたと感じたので、そうした意味でも印象的なキャラクターであった。

 

『愛と青春のふる~れ』

福岡県東区箱崎1丁目33-9ウインドウビル3階