ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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仮面ライダーアギトを振り返って ~アギトの面白さはテレビショッピングだった~

はじめに

早いもので、仮面ライダーアギトの放送から今年で20年。

当時中学生だった私。今思えば、一番特撮に熱を上げていた時期でした。

仮面ライダーアギトはクウガからバトンを引き継ぎ、平成ライダーシリーズ化を決定づけた作品です。

ここから記事の本題。

アギトを振り返ると「込み入った話だった」という印象が強いです。

前作のクウガが、脚本に連続性を持たせながら「2話完結(例外有り)」を原則としていました。

アギトも同じなんですが、登場人物と謎がクウガより増えたことでより込み入った、一見すると見辛い作品のように思えます。

でも断言できるんですが、私がアギトを見た感想は「面白い」だったんです。

本当に夢中になって見た面白い作品でした。

では何故「込み入った話」なのにアギトが面白かったか。

当時リアルタイムで見ていた視聴者として、この記事で考察します。

 

着地点(ゴール)の見えないアギトのストーリー

アギトのストーリーを振り返って感じるのが「着地点(ゴール)が見えない」こと。

前作のクウガでは「未確認生命体第0号(ン・ダグバ・ゼバ)を倒す」。

次回作の仮面ライダー龍騎では「13人のライダーが戦い、最後の一人になる」。

このようにクウガと龍騎はストーリーの早い段階で、視聴者は作品がどういうラストを目指すのか理解することができます。

他の平成ライダーで考えると‥‥‥

仮面ライダー剣→「全てのアンデッドを封印する」。

仮面ライダー響鬼→「明日夢が鬼になる(これは外れました)」。

仮面ライダーオーズ→「甦ったグリード4体を全部倒す」。

といった感じでしょうか。

逆に平成ライダーの中にも、アギトと同じくなかなか着地点が見えない作品もあります。

仮面ライダー555、仮面ライダーキバです。

実はアギト・555・キバは、脚本家の井上敏樹さんがメインライターを務めたという共通点があります。

主人公は確かにいるのですが、3作とも群像劇の割合が強く主人公以外のキャラクターのドラマにも時間が掛けられています。

555の主人公・乾巧は夢のない青年。だから、彼が最後に夢を見つけるのかなと想像することはできます。

キバは主人公・紅渡が父親の残したヴァイオリンを越えるものを作るという目的が描かれています。

ただ、それが「何かを倒す」というライダーの物語とどう結びついていくのか。

それが作品の先の見えなさに繋がっていたと感じます。

話をアギトに戻しますが、普通に考えればアギトは敵であるアンノウンを全滅させれば終わりと考えがちです。

それは間違いではないのですが、群像劇であるアギトはそれだけにとどまりません。

主人公・津上翔一の記憶喪失。仮面ライダーギルスに変身する葦原涼の不幸続きの状況。

仮面ライダーG3・氷川誠をサポートするG3ユニットの小沢澄子と彼女に嫌味を言ってくる北條透刑事の確執。

そして何より、正体がわからない(実はわかってもスケールの大きすぎる)アンノウン

こうした物語を構成する要素が多いため「これって、ラスボス倒せば全部解決するの?」と感じてしまうのです。

特撮ヒーロー物は、身も蓋もない事を言えばライダーに限らずどの作品も「敵を全滅させれば終わり」というのはあるんです。

でも井上敏樹さんが手掛ける作品は、もうひと捻り加えられている。

代表的なのが、井上さんがメインライターを務めた「鳥人戦隊ジェットマン」という作品。

スーパー戦隊の一つで、ジェットマンが敵を倒した後にメンバーのレッドとホワイトの結婚式が描かれます。

そして、そこに現れるブラックの運命‥‥‥

特撮ファンには説明するまでもない伝説の最終回。

井上さんの描くラストとは、人間関係が落ち着くところに落ち着くこと。

ただこうした着地点は、敵を倒すことが原則の特撮ヒーローでは一般的にはイメージし難い。

悪の組織の構成が分かりやすい戦隊と異なり、アギトは敵の正体がわからない。

それが余計に、アギトのストーリーがどこに向かって進むのかを予想し辛くしていました。

 

隠すならとことん隠せ

では、そんなアギトが何故面白かったのか。

それは、まさにその「着地点が見えない」ことを徹底していたからです。

最初からいくつか謎がある。それが話数を重ねるごとに増えてくる。部分的なヒントは出てくる。

だけど結局わからず、さらにまた謎が出てくる。

特にアギト前半はそのような感じで物語が展開されます。

前作のクウガもいくつもの謎が散りばめられていました。しかし、古代文字の解読などの描写で少しずつそれは明かされていきます。

対して、アギトは明かされないままかなりの話数が消化される。

まるでミステリー小説の上巻のように。

アギトの面白さは、謎を追う面白さ。

「意地でも謎を明かさないぞ」という感じになっているので、続きが気になってしょうがない。

これが、もし部分的に明かされていったら?

例えば5話とか6話くらいで明かされた謎が、第40話くらいで明かされる謎と繋がってても「そんなのあったっけ?」となるわけです。

そうなるくらいなら、いっそ隠す部分は時がくるまで隠し続ける。

だからそれまでは個性あるキャラクター達のドラマを見てくれ。

これが前半のアギトだったと思います。

クウガは「クウガが敵のグロンギを倒す防衛戦」がメインなので、戦いを盛り上げるために謎という要素がある。

アギトは逆に「謎を追っていのがメイン」なので、謎解きを盛り上げるために戦いという要素がある。

だから、謎解きの要素が密接に繋がって描写されていないと作品がひっちゃかめっちゃかになるわけです。

アギトの物語の謎は、後半で一気に明かされていきます。

前半で謎を何も明かさなかったことで、後半でそれが解き明かされていくことに爽快感さえ感じました。

この前半と後半の良い意味でのギャップ。

前半は謎を追うことに見るのが止まらず、後半は次は何が解けるのかわからないことに興味が止まらない。

だから、アギトを面白く見ることができました。

今思えば、前半の展開は人によっては飽きられるのと紙一重だったと思います。

そうならなかったのはさすが、実績ある井上敏樹さんの手腕。

振り返ると、アギトは複雑だけどメリハリある構成だったのですね。

 

アギトの面白さはテレビショッピング

こうしたアギトの面白さって、何かに似てると思ったんです。

それはテレビショッピング

「仮面ライダーとテレビショッピング? なんだそれ?」と思われるでしょう。

説明しますね。

テレビショッピングってその商品の概要をまず説明します。

その後「売り」とか「特典」を最後まで隠して、見てる人の興味を引いて最後に全部明かして買ってもらおうという作りになってます。

たとえば、こんな風に(あくまでこんな感じだよねという程度に考えてください)。

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さぁ! 本日ご紹介するのはこの最新式のパソコン。最新のOSを搭載し、操作性も抜群。さらにデザインもこれまでにない斬新さ。

それだけじゃないんです。これまでの機種ではできなかった〇〇機能が搭載。

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大体こんな感じ。では、これを仮面ライダーアギトでやってみると‥‥‥

↓ ↓ ↓

さぁ! 今度放送が始まる仮面ライダーアギト。

3人の仮面ライダーが登場し、それぞれが違う個性を持っている。謎が謎を呼ぶこれまでにない作風。

それだけじゃないんです。実は大サービスで4人目のライダーも出しちゃいますよ。

凄いでしょ! でも待ってください。これで終わりじゃないんです! 

敵は何と神様! これは見ない選択肢は無い!

視聴はご覧のチャンネルで。

とまあ、ざっくりですけどアギトは徹底的に作品の重要な部分・根底に関わる部分をブラックボックス化することで視聴者の興味を引き続けたわけです。

作品なので、正直「う~ん」と思う部分ももちろんあります。

特に前半で、3人も仮面ライダーがいるのに彼らがなかなか揃わないところ。

アギト・津上翔一とギルス・葦原涼がようやく出会うかというところでニアミスした話がありました。

その時は先の展開への興味ではなく、フラストレーションが溜まったことを覚えています。

中盤でようやくアギト・ギルス・G3が同じ場所で集まり戦闘になるんですが、ここまで引っ張った展開は今ならできないでしょうね。

さすがにライダーが何人もいるのなら、早く会って一緒に敵と戦えよと思いますもん。

ただアギトでこうした展開が可能だったのは、平成ライダー2作目で色々な試行錯誤も許されたという背景があるのでしょうね。

今はスポンサーの要望とか、シリーズを見続けた視聴者の声とか色々ありますから。

ただ時代時代のシリーズにおける作品の立ち位置を考え、その中で試せることをやれば面白い作品って今でもできると思うんです。

例えそれが何年と続いているシリーズであったとしても。

人生に迷ったら本に先人の知識が詰まっているように、過去の作品から得られるものってたくさんあると思う。

作り手でもない私がいうのはおこがましいのですが・・・

アギトは視聴率も良くて、多くの人が見ていた実績が確かにある作品です。

そしてアギトの大事な部分をブラックボックス化して人の興味を引きつける展開。

これは記事でも物を売る時でも使える、マーケティングを理解するのに参考になってビジネスを学べる部分だと私は思います

これは子どもだった当時では絶対に無い視点ですね。

時は流れたということですか‥‥‥

終わりに

アギト放送時の2001年と言えばウルトラマンコスモス、百獣戦隊ガオレンジャー、ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃と特撮が盛り上がっていた年。

「スーパー特撮大戦2001」という、私が死ぬまで続編を待っているゲームも発売されました。

実は2021年の今年もウルトラマン、戦隊、仮面ライダー、ゴジラが揃っているのですが、当時はコスモスがウルトラマンガイアから約2年のブランクを経ての再開で仮面ライダーが前年の仮面ライダークウガで復活したばかりでしたので、今以上にこの顔ぶれが揃うことがレアなことに感じて興奮していました。

複数の仮面ライダーの登場、主役以外のサブライダーのパワーアップ、戦闘中に流れる曲をエンディングとして扱うこと、劇場版の公開‥‥‥

賀集利樹、友井雄亮、要潤といった俳優陣がイケメンヒーローとしてメディアで取り上げられ、他の特撮作品の俳優陣にも注目が集まっていたことも強く記憶に残っています。

恐らく多くの人が平成ライダー及び令和ライダーに抱くイメージは、アギトから始まりました(これは個人的な意見ですが、作品としてクウガは平成ライダー0号。アギトが平成ライダー1号だと思っています)。

こうしたことは少し特撮に詳しい方なら先刻承知の出来事。

でも20年の間にアギトが放送していた時代を知らない方も増えました。

だからこそ未見の方には是非一度見て欲しい作品です。