小学3、4年生の頃だ。
当時の私は『ビーロボカブタック』や『ウルトラマンティガ』を見ていたが、仮面ライダーシリーズは休眠期ということもあり見る機会がなかった。
ライダーに触れていいなかった理由はもう一つある。怪人たちが怖かったのだ。
巨大な怪獣や戦隊の怪人と比較しても、仮面ライダーに登場する怪人には独特の恐ろしさがある。
保育園の時に『仮面ライダーアマゾン』や『仮面ライダーストロンガー』を再放送で見たが、ライダーとの繋がりはそれきりだった。
小学生になっても、やはり私は怪人が怖かった。
毎週ライダーを視聴している今では考えられないことだが、当時の私にとって仮面ライダーはあまり馴染みのないシリーズだったのである。
『仮面ライダーZO』のビデオをレンタルするまでは。
「カッコいい!」
見終わった後に心からそう思った。どこがというより全てがカッコよかったのだ。
物語、キャラクター、音楽・・・ 仮面ライダーとはこんなに素敵なものだったのかと感動したのを覚えている。
ZOが上映されていた頃、映画のCMをテレビで見た。
劇場に行く機会はなかったが、当時の児童誌やゲーム「ザ・グレイトバトル4」でZOがプッシュされていたことを覚えている。
ビデオで見た後、こんなに面白いのなら劇場で観たかったと後悔したものだ。
子供の頃はZOとドラスのアクションや、主人公・麻生勝を演じた土門廣さんの渋さに夢中になった。
それらは作品の魅力として今でも輝いてるが、大人になって改めて鑑賞すると以前は見えなかったものが見えてくる。
それは作品に流れるテーマ・・・ 「人間の繋がり」についてだ。
48分という短い上映時間だが、DVD収録のメイキングで雨宮慶太監督が語っているように本作には色々な人間関係が存在している。
最近になって特に「これはいい」と感じたのが、望月宏少年が通う道場の面々だ。
特撮ファンならご存知だと思うが道場の人々を演じたのは大葉健二、森永奈緒美、山下優、榊原伊織といったメタルヒーローシリーズに出演した俳優陣であった。
一見すると道場の要素はファンサービスだと捉えがちになるが、実はこの場面に登場する人々こそ作品テーマの一翼を担っている。
道場の人々はこれからも宏少年を支えていくだろう。
それは改造人間故に人間社会にはいられない麻生勝にはできないことだ。
ここには『人間の繋がり』がある。
仮面ライダーZOは一人きりではドラスに勝つことはできなかった。
ZOがドラスに勝てたのは、宏少年の叫びと望月博士の援護があってこそである。
どれほど人間を超えた力を持っていても、一人ではできないことがあった。
仮面ライダーは孤独のヒーローだ。
常人離れしたその力があれば、彼らは何でもできてしまうと視聴者は錯覚してしまう。
だが決してそうではない。
最初の仮面ライダーを思い出してほしい。本郷猛は一人で戦えただろうか?
本郷の側にはおやっさんこと立花藤兵衛がいた。FBI捜査官の滝和也もいた。
ライダーガールズ、少年仮面ライダー隊、そしてライダー2号こと一文字隼人・・・
本郷猛が挫けることなく戦えたのは仲間の存在あってこそだ。
『改造された男の苦悩』や『間違った科学の行末』といったテーマが語られる仮面ライダーだが、それと同じくらい『人間の繋がり』がテーマにあると思う。
ドラスを倒したZO・麻生勝だが、父親を失った宏少年を支え続けることはできない。
戦うことはできても仮面ライダーの力は万能ではないのだ。
しかし宏少年には彼の祖父や道場の面々がついている。一緒に下校していた友達だっているだろう。
ZOという作品は短い時間で仮面ライダーの魅力を描いた作品といわれている。
そうした高い評価を受けるのは、初代ライダーから描かれてきた『人間の繋がり』というテーマをきちんと内包していたからだと私は思う。
だからこそラストで、まるで人間社会から離れるように旅立った麻生勝がその後どうなったのか考えてしまう。
果たして麻生は彼を支えてくれる新しい『人間の繋がり』を見つけられただろうか。
いや・・・ 心配はいるまい。麻生にも宏との繋がりがある。
二人はいつか再会しただろう。そうであって欲しいと願う。
平和のために戦う仮面ライダーだが、これは裏を返すと平和になれば仮面ライダーは必要ないということを示している。
もちろん彼らの願いはそんな世界が来ることだろう。
だが人を超える力を持った彼らを受け入れ、共に生きていける社会こそ本当の目指すべき社会だ。
なぜならライダーも一人では生きていけないから。
初代ライダーから受け継がれZOにも取り入れらた『人間の繋がり』は、後の平成ライダーでも数々のドラマを私達に見せてくれることになる。
だが仮面ライダーシリーズは作品が多いため、どれから見ていいか悩む方もいるだろう。
そんな時はヒーローのカッコよさと爽快さ、それと同時に万能性の否定が描かれた仮面ライダーZOは間違いなく最適の作品だ。