アメリカ同時多発テロで世界が揺れ、劇場版仮面ライダーアギトPROJECT G4で日本の特撮が盛り上がったあの頃。
西暦2001年の秋。
日本の最果ての田舎に住む中学生の私は、地球を救うべく巨大な悪と戦っていた。
もちろん、ゲームの話である。
『スーパー特撮大戦2001』
発売されたばかりの本作に、私の心は鷲づかみにされていた。
「バランスの壊れたゲーム」
「クソゲー」
このゲームが散々な評価をされていることなど知る由もなく‥‥‥
あれから20年。
思い出す人もいないであろう本作。
それでも何かの偶然で本作を知った、あるいは気になった方へ。
そして、当時プレイした方への一人のプレイヤーの想い出としてこの記事を書く。
本作の紹介
『スーパー特撮大戦2001』は、2001年9月6日にプレイステーション用ソフトとしてバンプレストから発売された。
一言でいえば『スーパーロボット大戦シリーズ(以下:スパロボ)』の特撮版である。
スパロボのように多数のキャラクターがクロスオーバーし、原作の敵やゲームオリジナルの敵と戦いを繰り広げる。
キャラクター及びメカは、等身大ユニットと巨大ユニットに分けられ基本的にそれぞれの大きさの敵としか戦闘させられない。
プレイヤーは、バンプレストオリジナルの主人公キャラを『メタル系』と『バイオ系』から選びシナリオを進めていく。
本作はナレーションを採用しており、担当したのは昭和の仮面ライダーシリーズでお馴染みの中江真司氏。
ほぼ全話に渡って聞くことができる氏のナレーションは、本作の目玉の一つである。
主題歌『君は閃光☆THUNDERBOLT~スーパー特撮大戦2001』を歌うのは、数々のアニメ・特撮ソングを歌う串田アキラ氏。
ああ、懐かしき中二
「燃えさせてくれた」
本作に対して、素直にそう思う。
もう一度、あの熱さを感じれるのなら感じてみたいとも。
1999年から離れかけてていた特撮に再びはまった私。
折しも、仮面ライダークウガと未来戦隊タイムレンジャーという高クオリティの特撮番組が2000年に放送。
にわかに世間が特撮に沸きだしていた中で、2001年に放送が始まった仮面ライダーアギトと百獣戦隊ガオレンジャー。
同じく2001年放送のウルトラマンコスモスも合わせ、子どものみならず母親世代も巻き込んだ『イケメンヒーローブーム』が起こっていた。
学校の同級生も話題にする中、特撮に少しばかり詳しかったオタク少年の私はちょっとした優越感に浸っていた。
この時の私は中学二年生。
そう‥‥‥ 中二である。
男子の人生で最もエネルギーに溢れ、最も格好の悪い時期。
有り余る想像力で、特撮を題材に終わりのない物語を常に脳内で描いていた。
何ということはない。
あのキャラとこのキャラはどっちが強いかとか、テレビには無かったオリジナルエピソードを考えるとか要はそういうことをしていた。
だが、大抵それは一部の場面を考えたのみで全体のストーリーを考える前に終わってしまう。
だが、そんなもので満足してしまえるのが中二の頭である。
そんな私だから、特撮大戦の前に発売された『スーパーヒーロー作戦』と『スーパーヒーロー作戦 ダイダルの野望』というゲームに大いにハマった。
両方とも、仮面ライダーやウルトラマンが共演するRPGゲームである。
次はどんなゲームがくるのか‥‥‥
そう考えていた私の前に現れた決定版ともいえるゲームが特撮大戦だった。
壊れたバランスと押さえているポイント
とにもかくにも、異様なゲームバランスが本作の特徴だ。
思い出すだけでも、その壊れっぷりは色々ある。
レッドバロンが登場して、数話出番が無いかと思えばいきなりレッドバロンがメインのシナリオがやってくる。
その間、戦わせていないからレベルは上がっていない。
しかし、敵はシナリオに合わせて高いレベルが設定してある。
当然勝ち目などない。
本作は万事この調子で、一部のキャラクターは強力な代わりにそれ以外のキャラクターは本当に役に立たない。
改造してパワーアップさせようにも資金が足りない。
結果、理不尽な難易度も相成って初見の人々はクリアするのが難しい。
実はこのバランスの崩壊を理解すれば、弱いユニットをレベルアップさせる方法もある。しかし、攻略本なしにそれに気づくのは難しいだろう。
バグも多く、同じキャラが突然ステージに二人出現するなど「なんじゃこりゃ」な部分が目立つ。
シナリオも妙なところが多く、そんなに大事でもない選択肢でシナリオが分岐するなど理解に苦しむ点が多かった。
中でも、仮面ライダーBLACK・南光太郎を原作と違いヘリのパイロットにしなかったらBLACL RXに進化させられるという箇所。
原作無視もいいところの展開である。
登場キャラも、2001年の作品なのに一番新しいヒーローが1988年の仮面ライダーBLACK RXというセレクト。
冷静に考えれば、これでは若いファンを会得するのは難しかっただろう。
一方で、妙に特撮ファンのポイントを押さえた演出があるのも事実。
立花藤兵衛がシーモンスの歌を知っているとか(原作で歌を知っている船員を演じたのが小林昭二さん)、知能指数600の本郷猛がキカイダーを修理するとか。
宇宙刑事シャイダーのビッグマグナムで怪獣を倒せるのは燃えた。
「そうそう! こういうのが見たかったんだよ!」
と思ったものである。
オリジナルキャラクターも個性があって魅力的だった。
ボスキャラである皇帝ゼファスをはじめ邪学者アプファロン。
闘姫アテファリナ、ヴォルキュリア、ヴォルハザード、ヴォルフィード‥‥‥
そして主人公であるルシファード、ファディータ、ヴォルテックス、ヴェルベット。
彼らの物語をもっと見たいと思う力。
それが確かにあった。
バイオ系のヒロインに恋したあの頃
このゲームを知ったきっかけ。
学校の先輩に、ど田舎では珍しい特撮好きの人がいて彼から教えてもらった。
実際買うまで、どんな内容か知らなかった。
「うぉ! 格好いい」
OPを見た時思った。
さすがにファイナルファンタジー等には及ばないものの、初代プレイステーションにしてはよくできたCG。
ウルトラホーク1号と、普通の戦闘機が一緒に飛ぶ場面に胸が熱くなったのを覚えている。
最初の主人公はメタル系を選んだ。
が、一回目のプレイは途中で挫折することとなる。
何話か忘れたが、バルタン星人が大量に出現するステージがありどうしてもそこをクリアできなかったのだ。
仕方なく私は、バイオ系主人公で最初からやり直すことにした。
メタル系の主人公とヒロインは大人だった。
対して、バイオ系は何だか若い印象。
少年少女のコンビ。
どうやら、ヒロインは主人公に好意を寄せているらしい。
主人公の名は『叶エイジ』。ヒロインの名は『日向ラン』。
そして‥‥‥ 主人公を操作し敵と戦闘させた時、衝撃が私の身体を貫いた。
ヴォルテックスのテーマ(サントラではボルテックスのテーマと誤表記)を聴いた時の感動。
それを、何と表現したらいいのかわからない。
青春、若さ‥‥‥ そんな単語が浮かんでくる爽やかな出だし。
思いを感じるような、切ないようなリズム。 そして、一気に戦う決意を感じさせる強いメロディーへ。
冗談でなく、それまで聴いたどんな音楽よりも格好良かった。
心が掻き立てられた。
何度も何度も、この曲を聴きたいがために主人公を戦闘させる私。
バイオ系の方がメタル系より難易度が低いこともあり、一気にシナリオを進めていった。
バイオ系は主人公周りのオリジナルストーリーも充実していた。 未知の細胞に寄生され変身するエイジ。
しかし、それは自らを乗っ取る可能性のある危険なものだった。
そして敵として現れるヒロインの兄・日向サトルとその友人達。
かって親しんだ人々との戦い。
絶対絶命の主人公のピンチに、遂に変身するラン。
今思えば、色々な映画なりアニメなりの設定に似ている主人公達。
だが、当時の私は特撮以外のジャンルをほぼ知らなかった。
そのため、こうした設定の一つ一つに自分でも恥ずかしくなるくらいのめり込んだ。
中でも、普段は能天気な発言が多いながらその裏で主人公を想い続けるランの姿に惹かれた。
正直に告白するが、その頃の私はランに恋していた。
大真面目に。
だって、主人公に一途な幼馴染である。
ちょうど、自分の年齢に近いヒロインでもあったことも理由。
シナリオの中で時々見せる真面目な部分と普段のギャップへの燃え。
ゲーム中でクリスマスの時期に最大のピンチを迎え、そこから復活するという中二病をこれでもかと掻き立てる設定。
はまった。大いにはまった。
自分自身をエイジに重ねていたから、エイジも好きだった。
この二人の姿が好きで、何度も何度もゲームをやり込んだ。
わざわざ、クリスマスの日に合わせてゲーム内のクリスマスのシナリオをやるということもやった。
あまりに好きすぎて、ゲーム内で描かれていない間の二人の旅を小説で書いたこともある。
楽しかった。 二人の過去にどんなことがあったのかとか、どんな人々に出会ったのかとか想像するのが。
丁度、テレビでは2001年版の『サイボーグ009』が放送していた。
003が009を想う気持ちとか、作品のシリアスな雰囲気。
それにドハマりしていは私は、何とかそれを小説に活かせないかとあれやこれや考えたものである。
が、例に漏れず一部の場面は想像できるものの結局は書けずに終わるのだが‥‥‥
書くといえば、ヴォルテックスのテーマに詞を書いたこともある。
それも、仮面ライダーアギトに習い2バージョンも。
それは今でも思い出せるから恐ろしい‥‥‥
今思えばよくやったと思う。
勉強などそっちのけ、日々妄想に浸り続けた2001年の秋から冬。
思えば、あの頃が一番楽しかったと思う。
時間に追われ、録画した番組を作業の片手間で見ている今。
酷いのになると、何年も前の録画を溜め続け未だに見ないでいる。
自分でもわかる。 年々、エンタメへの熱が低くなっている。
中二の頃は、どんな作品も真剣に見た。
雑誌も本も、何度だって読み返した。
それが今はできない。
大人になったと言えばそうなのだろう。
だがゲームのヒロインに恋までした、あの頃の狂おしいまでの情熱。
できることならもう一度心に感じたい。
周りには『推し』に強い愛を持つ人がたくさんいる。
私の推しは日向ランだった。
うん、本当にそうだなったなあとしみじみする。
散々な評価をされる本作。
その理由は全て納得できるものであるが、一方で本作に夢中になった人間も確かにいるのである。
特撮大戦のラストは、続編を期待させる終わり方で幕を閉じた。
2002年、2003年、2004年‥‥‥
まだか、まだかと待ち続けた。 仮面ライダー龍騎が、超星神グランセイザーが、ウルトラマンネクサスが戦っていた時代。
それでも私は続編を待った。
だが、続編は出なかった。
本作の売り上げと評価が、あまり良くなかったことを知ったのはもう少し後の話である。
想い出の中で
あれから20年の月日が流れた。
時代は変わり、私自身も変わった。
ゲームを取り巻く環境も、随分と様変わりした。
特撮物は相変わらず元気だ。
というより2021年はライダー、戦隊、ウルトラに加え『ゴジラVSコング』や『シン・ウルトラマン』の公開を控え例年以上に盛り上がっている。
まるで、2001年のあの頃のように。
だが、彼らが共演する姿をゲームで見ることはできない。
小さい頃‥‥‥ まだゲーム機がファミコンやスーパーファミコンだった頃。
ヒーロー達は当たり前のように、一緒に戦っていた。
特撮大戦のようなシステムでヒーローを共演させるのは、確かに難しかったのだろう。
だけど、その後しばしの復活を経てこの手のジャンルは完全になくなってしまった。
何故だろう? ヒーロー物は変わらず人気を得ているのに。
私にはわからない。
作品として毎年ライダーもウルトラもテレビにいるから、ゲームで共演する必要がなくなったのかもと考える。
スーパー特撮大戦2001
それは、特撮が熱かった時代に打ち上げられたヒーロー達が共演する最後の花火。
誰も思い出す者がいなくなったとしても、地球滅亡に立ちむかったヒーローの戦いがあったこと。
そして、確かに自分も一緒に戦ったと感じたあの中二の頃の熱。
そうしたものを、自分だけは覚えておきたいと思う2021年である。