ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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『ゴジラVSコング』感想 〜本作を観るのにコングのような頭脳戦は必要ない〜

※この記事は映画のネタバレを含みます。

新型コロナウイルスによる公開延期により、日本でようやく2021年7月2日から『ゴジラVSコング』が公開された。

紆余曲折を経てようやく本作を鑑賞できた事実にまずは感謝したい。

 

思えば前作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の公開からそう間をおかず2020年公開とアナウンスされていた本作。

だが様々な事情から、一時はまったく情報が伝わってこず本当に制作されているのかすら疑問に思った時期もあった。

 

今思い返すとまったくの杞憂であったが、それほど本作にかける自分の期待も大きかったのだと思うし、それは世界中のゴジラやキングコングのファンも同じだろう。

なんといっても、映画界を代表する2大怪獣の激突である。

 

今更説明するまでもないが両者は1962年の『キングコング対ゴジラ』で一度手合わせし、最終的に両者引き分けという見方が強い終わり方で映画は締めくくられた。

今回の『ゴジラVSコング』では、両者の戦いに明確な勝敗が描かれると監督のアダム・ウィンガードが事前に語っておりそれが本作最大のポイントとなっている。

 

海外で本作が爆発的なヒットをしているという情報に否応なく高まる期待。

それを胸にようやく本作を鑑賞した。

結果・・・・・・ 面白かった。素直にそう思う。

ただし、同時に本作はそれ以上の感想を抱けない作品でもあった。

 

まず良かった点としては怪獣の描き方だ。

前作と比較して登場する怪獣が絞られている分、それぞれの活躍場面が多く描かれ見ていて飽きなかった。

中でもやはりコングだろう。本作の主役は実質コングといっても過言ではない。

少女・ジウと心を通わせる人間味を見せる一方、ワーバットを引きちぎった後にその血を飲む姿は間違いなくコングも怪獣であることを思い出させてくれた。

本作のコングはこの人間味と怪獣であることのバランスが非常によくとれている。

それが悪役として描かれているゴジラと対になり、コングのキャラクターを立たせていた。

 

一方のゴジラも素晴らしい。

天敵としてコングを徹底的に痛めつける姿はまさに悪役(ヒール)。

観客の感情移入を拒むように、熱戦を吐く際に目まで発光する姿は明らかに前作までとは異質の存在感を放っていた。

 

映画の見せ場である怪獣バトルも、それぞれの特性が反映されていて非常に見応えがあった。

すなわち、陸上の生物であるが故に海の戦いが苦手なコング。

反対に陸上でも活動できるが、海のほうがより能力を発揮できるゴジラ。

 

多くの怪獣は自身に備わっている能力で戦うが、コングはその知恵を活かして身の周りにあるものを使って戦う。

それこそが陸の王であるコングの能力なのだと見せつけられる。

この辺りの両者の能力の差を突き詰め描いたバトルは、荒唐無稽でありながらも確かな説得力があった。

 

そして忘れてはならないのがメカゴジラだ。

人間が操る存在でありながら、人間味を微塵も感じられない暴れっぷり。

ゴジラとコングがそれぞれの感情を描かれる中で、メカゴジラにはそんなものは全く無い。

ただ強さのみで2大怪獣を追い詰めていく様は、キングギドラとはまた別方向の恐ろしさがあった。

また、ついに映像化された地球内部の世界も印象深い。

その世界をコングが駆け抜けていく疾走感は、劇場で鑑賞した時に自分の心も高揚していく気持ちよさを感じた。

未知なる世界に向かっていく冒険感。

コロナウイルスでステイホームが叫ばれる時間が長かった反動もあり、どこまでも遠くへ行けるような地底世界の描写はある種の『癒やし』の効果もあった。

 

次に本作の「う〜ん」と感じた点について。

残念ながら人間ドラマの薄さは覚悟していたものをさらに下回っていた。

いや、薄いのはかまわないのだ。

怪獣が主役の映画だし、人間が出しゃばってそれに時間をとられるくらいなら薄いくらいが丁度いい。

 

だが薄いを通り越して「このキャラクターは本当に必要?」とまで感じてしまっては問題だ。

本作でその筆頭となるのが小栗旬演じる芹沢蓮だろう。

 

誤解がないように先に書くが、小栗旬は確かな演技力を持った俳優だと思う。

然程多くない登場時間の中で蓮が存在感を出せたのは、間違いなく小栗の演技あってこそだ。

 

だが本作では、メカゴジラを操縦するのが芹沢蓮でなければならない理由が全く無い。

彼自身のバックボーンが語られないせいもあり「このキャラは小栗以外でもよかったのでは」というのを通り越していなくても話が成り立ってしまうのだ。

 

それは本作のほとんどの人物に当てはまってしまう。

あくまで個人的な意見だがジア、ネイサン、アイリーン、シモンズの四人に絞ったほうが話はよりまとまったように感じる。

 

怪獣映画において、人間ドラマは決して添え物ではない。

そもそも怪獣映画とは怪獣の驚異を見せながら、その実は怪獣の驚異により浮き彫りになる人間の様々な姿を描いたものだと私は思う。

 

その意味で本作はあまりにキャラクターが活躍しなさ過ぎた。

この辺りは怪獣映画に何を求めるかによって、人それぞれ満足感が違うと思う。

だが上手くいけば物語を面白くできたと感じるキャラクターもいたので、個人的にはあまり満足できなかった。

 

音楽面に関しても、今回は前作ほど耳に残る曲がなかったことが惜しまれる。

最も前作に関しては、ゴジラへの愛が振り切っているマイケル・ドハティ監督あってこそという部分も大きいのだが。

 

ゴジラとコングに関しても、両者が戦う理由に限っていえばあまり腑に落ちなかった。

古代からの天敵ということだが、では何故そうなのかは何も語られず今一気持ちがのらない部分もあった。

ただこれに関しては、怪獣同士が戦うことに深い理由はいらないとも思うので許容できることではある。

 

全体的に「面白い」作品ではあっても、強い印象とはならなかった本作。

だが本作の価値は、考察や小難しい理屈は抜きに見始めたら最後までノンストップで楽しめる点だ。

 

例えるなら本作は1980年代のスタローンやシュワルツネッガーのアクション映画だと思う。

ツッコミどころはあっても、その勢いで最後まで突っ走っていく映画。

家族や友人と一緒にお菓子などを食べながら気楽に観て楽しむことができる映画。

 

楽しいことは間違い無しの映画なので、怪獣ファンはもちろん日常で辛いことがあり気分を変えたい時などには一度鑑賞されることをお勧めしたい。