ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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舞台『新選組ロッケンロール』感想

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個人的に日本の歴史を題材とした作品において最も選ばれている時代を3つ選ぶとすれば戦国、幕末、太平洋戦争だと感じている。

どの時代もその背景にあるのは争いだが、だからこそエンターテインメントの題材として使われた時に強いメッセージ性を持った多くの作品が生み出されてきた。

特に幕末は司馬遼太郎の『竜馬がゆく』や『燃えよ剣』をはじめ漫画『るろうに剣心 明治剣客浪漫』、さらに黒船来航を宇宙人の来訪に置き換えた漫画『銀魂』など現代でも人気の高い作品の世界観として使用されている。

これに映画やドラマなどを加えればそれこそ無数の作品が存在し、それらの製作者の数だけさまざまな幕末のドラマが描かれてきた。

 

なぜ人々は幕末という時代に魅了されるのだろうか?

 

それは日本が鎖国から現代に続く時代への転換期となった時代背景もあるだろうが、最大の魅力はその時代に生きた人々の生き様だと考えられる。

幾度となく創作物の主人公となった坂本龍馬をはじめ桂小五郎、高杉晋作、西郷隆盛をはじめ武市半平太、岡田以蔵、新選組など歴史に詳しくない人でも名前を聞いたことのある人物が数多く活躍した時代。

そんな彼らの姿は時を越えた現代でも我々の心を惹きつけてやまない。

 

福岡を拠点に活動する劇団・陽projectの新作『新選組ロッケンロール』でもそんな熱き人々の姿が描かれていた。

 

自殺した女子高生が幕末にタイムスリップし、新選組をはじめとした人々と出会うことでお互いに影響を受け合いながら成長していく本作。

 

主役の沖田総司役を女性であるソフィアが演じたことが本作の独自性を高めている。

ティーンエージャーの彼女が主人公を務めることで、本作が大人だけでなく子どもにも鑑賞しやすい空気を作り出していた。

例えば老若男女楽しめるジブリアニメにおいて、多くの作品で女性が主人公であることに似ている・・・ といえばこの感覚が伝わるだろうか?

 

陽projectの代表であるシマハラヒデキが演じる近藤勇も魅力的だ。

創作物の中心としての立ち位置は土方歳三や沖田総司と比較した場合、一歩譲っている感のある近藤だが本作では圧倒的な存在感で物語を引っ張っている。

これは新選組のリーダーであり皆を導くポジションにいる近藤と、それを演じるシマハラ氏の存在が絶妙にリンクしその台詞に説得力を持たせているからに他ならない。

作中のさまざまな人物を時に厳しく、時に優しく導く近藤の姿は出演する若い俳優陣を指導するシマハラ氏の姿そのものであるといっても過言ではないだろう。

 

そうしたことを考えながら本作を観れば、不完全でも大きな可能性を秘めた若者たちが抗えない大きなものに必死に戦いを挑み、自分の限界を越えて殻を破っていく物語というテーマがうかがえる。

 

それは新選組だけでなく、窪津りの演じる桂小五郎や今中智尋演じる岡田以蔵にも当てはまるように感じた。

 

魅力的な登場人物の多い本作の中でも際立った存在感を示していたのが宮崎美光演じる高杉晋作。

大義名分以上に狂気の復讐者といった感のある高杉晋作を、独特の色気を感じさせる芝居で見事に表現していた。

この高杉に女性が演じる桂小五郎が絡むことがこの2人の間にある友情、そして恋愛的な意味ではなく互いを尊敬する極めてピュアな愛情の表現に一役買っていたように思う。

幕末という血なまぐさい時代の中で散っていく命の儚さ、それを受け止める大きな愛。

本来は男性であるはずのキャラクターを女性が演じることにより生まれてくる優しさを全面に押し出した魅力が本作にはある。

 

もちろん新選組を演じた俳優陣の、体育会系のようなのりの良さも物語の緊張感をいい意味で和らげる効果を発揮していた。

 

しかし何といっても最大の見所であり圧巻なのは、戦乱を鎮めようとする時の沖田総司の熱のこもった長台詞。

「生命力を売る」という陽projectのモットーをそのまま体現したような沖田の言葉には、創作物と現実の垣根を越える力が溢れていた。

もちろん、沖田をベテランの俳優が演じたとしても説得力のある力強い言葉にはなっただろう。

しかしこの台詞を若いソフィアが叫ぶことにより、世界を憂いながらも未来を諦めない若者の意思がこれ以上ないほどにストレートに伝わってくる。

 

舞台『新選組ロッケンロール』の魅力は役柄と俳優陣の奇跡的なリンクだ。

もちろん、作品を観劇する上でそこまで考慮して観る必要はないのかもしれない。

だがこうした観点から観た時に、台詞の1つ1つを迫真性を持って捉えることができるというのも本作の楽しみ方だ。

 

何かと閉塞的な現代において、とにかく熱さを感じられる何かを観たいという人にはぜひ本作の鑑賞を勧めたい。

 

最後に岡田以蔵を演じた今中智尋について少し。

個人的に以蔵といえば、ダウンタウンの浜田雅功主演『竜馬におまかせ!』の反町隆史と大河ドラマ『龍馬伝』での佐藤健が印象深い。

どちらも口数は少ないが、人斬りの裏に純粋な心を持った人物として描かれていた。

そうした一面は本作でも描かれており、今中智尋が演じることでそれにエネルギッシュさがプラスされた新しいイメージの以蔵が構築されていた。

彼女が持つまっすぐな魅力が、目的のためにはなりふり構わない以蔵の狂気・・・ 極限まで研ぎ澄まされた純粋な思いは狂気と紙一重といっても過言ではないと感じるが、それに絶妙にマッチして強い存在感を放っていた。

悲しみを抱えている故に無口で無愛想、そうした記号的になりがちな以蔵という人物に前向きな元気さを加えた今中智尋。

『こういう解釈もあるのか』という意味でもぜひとも注目してもらいたいキャラクターだ。

※『新選組ロッケンロール』は陽project公式ホームページからDVDの購入が可能。

 

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