※この記事は映画のネタバレを含みます。
銀魂との出会いは偶然だった。
たまたま実家でCSのアニメ専門チャンネルを見ていた私。すると『ペガサス流星拳』という聞き慣れた単語が耳に入ってきた。
画面を見ると、侍のように見えなくもない男達がペガサス流星拳の構えがどうと騒いでいた。
「何だこれは!?」
そう思い内容もろくにわからぬままそのアニメを見ると、小気味いいギャグのオンパレードでぐいぐい作品に引き込まれてしまった。
番組表を見て、そのアニメのタイトルが『銀魂』ということを知った。
これが私と銀魂との出会いである。
その後このアニメが現在進行形で地上波で放送中であること、ジャンプで連載中の漫画であることを知った。2008年くらいの出来事だ。
思えば、もしこの時見ていたのがシリアス回だったら銀魂のアニメを追ってみようと思わなかったかもしれない。
私は元々、アニメをそこまで見ない人間だが心のどこかで面白い作品に飢えていたように思う。
その後の銀魂との付き合いは、主にアニメを見る形で続いた。
就職活動が上手くいかずどん底の時。やっと就職した右も左もわからぬ街で苦しんでいた時。色々あってまたも人生がどん底の時。
暗いことばかり思い出すが、いつでも銀魂のアニメは生活の中にあった。
何度かの中断と再会を繰り返しながら、アニメは今回の『銀魂 THE FINAL(ザファイナル)』で完結を迎えたわけだが、銀魂があると生活に落ち着きを感じる時代が確かにあった。
アニメ銀魂の歴史は15年。その間、恐らくは作品から離れていった人もいると思う。
一口に15年といっても、その間の世の中の変化は凄まじい。銀魂が始まった頃はスマホのスの字も誰も知らなかった。
大人なら、確実に大きな生活の変化を何度かは経験する時間だ。そうした忙しさに追われれば、離れてしまう作品があることも仕方ないのかもしれない。
今回の『銀魂 THE FINAL』はずっと応援してきたファンは勿論のこと、作品から離れてしまった人‥‥‥ 銀魂に触れた全ての人へと送られた祭りだった。
2018年に放送終了したアニメの続きであり、今回の映画をもって物語の全てに決着がつけられることになる。
アニメの終了から本作の公開までいささか間が空いてしまい、内容がうろ覚えになっている人もきっといるだろう。
そんな人達に向けて、いかにも銀魂らしいギャグで彩られたこれまでの粗筋が語られ、すんなりと作品に入れるようになっていた。
多数のキャラクターが登場する本作。
しかし何と言っても本作のコアは主人公・坂田銀時。
銀魂はギャグ漫画だが、同時にメインとなる柱の部分は銀時が大切な物を取り戻していく過程だ。
何気に映画が終わった後も謎の多い主人公ではあるが、銀時を巡る様々な人間関係が決着を見せることで、即ち銀魂そのものの完結としている構成は見事だった。
銀魂にどれほどの数のキャラクターが登場するかは、途中で本作から離れた人でも簡単に想像できると思う。
それだけのキャラクターがいながら、通常のギャグ回ではそれらのキャラクターを目立たせながらメインの部分ではきっかりと主人公を描き切る。
文章に書くと簡単だが、長期に渡る連載にも関わらずそこをきっちりとこなした原作者・空知英秋氏の手腕は凄いとしか言いようがない。
また、特に本作を鑑賞して印象に残ったのは『音』の使い方だ。
個人的な印象だが、本作は極力BGMを使うことを抑えている印象を受けた。
BGMだけではない。キャラクターの台詞も一つ一つ隙がまったく無かった。
銀魂と言えばマシンガンのようなギャグが印象的。
シリアスな本作ではそれを披露しようもなかったのかもしれないが、抑えられた音がラストに相応しい一種異様な雰囲気を醸し出していた。
まるで、初代ウルトラマンとゼットンの戦いがBGMを排してゼットンの電子音のみで展開されたように。
最大の敵・虚に象徴されるように、個人的に銀魂のテーマには「生と死」があると感じている。
それは具体的な形での『死』にとどまらない。
仲間も師も全てを失ったかっての銀時。何をしても上手くいかず自信を失くしていた、銀時に出会うまでの志村新八。
あるいは、天人に侵略された『国』そのものが一心を失ってしまったとも考えられる。
命はあるものに、一度は死んだ状態まで追いつめられた人々が大切なことを取り戻し、生きる力をみなぎらせていく。
振り返れば銀魂とはそんな物語だった。
アニメの展開も終盤に入り、それまでギャグを披露していたキャラクターが次々と死んでいく姿に衝撃を受けた。
だが、今思えばそうした描写は本作のテーマを描くうえで必要不可欠なものだったことに気づく。
『銀魂 THE FINAL』での高杉晋助の死をもって、本作の「生と死」を巡るドラマは完結を迎える。
だがそれは決して後ろ向きな内容ではない。
何度心が砕かれ、何度泥を喰おうとも生き続けていれば結果はどうなっても人は生きる力を取り戻すことができる。
それが幸せに続くのだと、いつもの銀魂の小気味良いギャグで語られていた。
長きにわたる壮大な物語は、キャラクターがいつもの日常に戻っていく姿で締め括られる。
これからも近藤はお妙をストーカーし続けるだろうし、土方はマヨネーズを喰らい続けるだろう。
桂はギャグを繰り返し、長谷川はダンボール生活を続ける‥‥‥ かもしれない。
キャラクターの誰もが何かを失いながら、それでも日々を過ごしている。それは生きることそのものだ。
では現実世界の私達にそれはできないのだろうか?
できるはずだ。私達も生きているのだから。生きることを肯定する作品・銀魂。
その完結が描かれた本作は、銀魂に触れた全ての人にエールをくれるだろう。
願わくば、ドラえもんやサザエさんのようにずっと銀魂を見ていたい。
いつも日常に銀魂がある安心感。またいつかそれを感じたいので、未来で万事屋の面々と再会できることを願っている。
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