はじめに
かって『コミックボンボン』という雑誌がありました。
講談社から出版されていた小学生向けのホビー誌で、『コロコロコミック』のライバル。
スーパーマリオやストリートファイターシリーズなど両者共通のコンテンツがある一方、ガンダムやトランスフォーマーを取り扱うボンボン。
対してミニ四駆やビーダマンを取り扱うコロコロと、子どもだった私はたくさん楽しませてもらいました。
多分同じ世代の方に聞くと、どっちの雑誌派かで別れると思うんですが私は断然ボンボン派でした。
一時は両方買ってたんですが、長く買い続けたのはボンボン。
連載された中で好きな漫画はたくさんあるんですが、今でも大好きで自分のマイベスト漫画を聞かれたら私はこの作品を答えます。
岩本佳浩先生の『ロックマンX』シリーズ。
もう本当に大好きで、今でも時々読み返します。
主人公・エックスと数々のボスキャラが繰り広げる激戦。
数々の名バトルの中で、シリーズ二作目『ロックマンX2』で展開されたカウンターハンター戦は個人的に、シリーズ最高のバトルだと思います。
この記事では、何故私がこのバトルに魅力を感じるのかをまとめました。
あらすじ紹介
第一作『ロックマンX』
『レプリロイド』と呼ばれる、自我を持つロボットと人間が暮らす未来。
故障等で、頭脳に異常をきたしたレプリロイドは『イレギュラー』と呼ばれています。
そのイレギュラーを鎮圧するためのレプリロイドの組織が『イレギュラーハンター』。
主人公・エックスはそれに属するレプリロイドです。
ある日、最強最高のイレギュラーハンターと呼ばれる『シグマ』が人類に反旗を翻しました。
エックスは親友・ゼロと共に、シグマと彼の配下になったイレギュラーハンター達に立ち向かいます。
第二作『ロックマンX2』
シグマの反乱は、ゼロの死がありながらもエックスの勝利により終結しました。
それから半年後。一度は減少したかに見えたイレギュラーが再び増加。
その背後で暗躍する『カウンターハンター』と呼ばれる謎の存在。
事件を追うエックスの前に立ちはだかる、新しいボスキャラ達。
エックスの新しい戦いが幕を開けます。
漫画『ロックマンX2』とは
漫画『ロックマンX2』は、スーパーファミコンソフト『ロックマンX2』を原作にした漫画です。
ゲーム自体の内容がボリュームアップしていたため、漫画版もそれに合わせて一作目以上のドラマ性の高い展開が繰り広げられました。
中でも、前作で死亡したエックスの親友・ゼロの復活は本作の重要な柱となっています。
漫画ならではの要素として、ゲームには登場しない漫画オリジナルのキャラクターが前作から続けて登場。
単なるゲームの漫画化にとどまらない、一つの作品として非常に面白い作品になっています。
エックスを苦しめる強敵として、本作では『カウンターハンター』が登場。
恐るべき剣の使い手・アジール。驚異的なパワーを持つ・バイオレン。ゼロを復活させた頭脳の持ち主・サーゲス。
漫画では、カウンターハンター三人とたった一人で戦うエックスの三対一の戦いが描かれました。
ゲームでは描けない展開
カウンターハンター戦の魅力は何と言っても、三対一というゲームでは絶対にありえないハンディマッチです。
ゲームだと、一つのステージのボスとして一体のカウンターハンターと戦う構成。
ゲームとしては当然こういう作りにならざるを得ないんですが、敢えてそうせずに卑怯極まりない反面、悪役の戦法としては至極真っ当な数の暴力と戦うエックスの姿がとにかく熱いんです。
基本、ゲームと同様に一体のボスとの戦いに他のボスが乱入することは漫画でもありません。
ドラマ性の高められている漫画版ですが、やはりそこは守られている部分でした。
カウンターハンター戦で、それがはじめて破られた。
しかも、これまでのボスより強い奴三人と同時に戦わないといけない。
対してエックスは味方もおらず一人。この絶望感がとにかく半端ない。
読者として作品を読んでいて、勝てる要素が一個も見つけられないんです。
一応ゲームでは、それぞれのカウンターハンターに苦手な武器が設定されていますが漫画ではそれを使っても倒せない。
倒せないどころか傷一つけられない。
これもゲームでは絶対にありえないことです。
漫画版では作者の岩本先生の考えで、なるべく特殊武器(エックスが使える倒したボスキャラの武器)の活躍が抑えられていました。
だから、例えばあるボスに効果のある武器を既に入手していたとしてもそれを使わずにエックスが勝利する展開が多く見られます。(例えば本作では、ソニック・オストリーグにエックスはクリスタルハンターを使わない)
こうした構成はエックスの努力が伝わり燃える反面、特殊武器を使えばもっと楽に勝てるのではと勘繰る自分もいました。
カウンターハンター戦には、そうした勘繰りを入れる余地もない。
ゲームの要素を描きながら、ゲームでは絶対にありえない展開にもっていく。
カウンターハンター戦の後にラスボスのシグマとの戦いが控えていて、それもこうした構成でした。
でも、やはりこの三対一のインパクトは強大です。
そして、ゲームでは描けないことはエックスの勝利の仕方で最高潮を迎えます。
神業の勝利
勝機を見出せずボロボロにされながらも、それでも立ち向かうことをやめないエックス。
誰がエックスを仕留めるか。カウンターハンターの懸けの対象にされながらも、エックスは自分自身に懸けます。
『ギガフラッシュ(強烈な閃光を放つ技)』でアジールの目を破壊したエックスは『ダブルバスター(両腕から放つ強力なエネルギー弾)』でアジールとサーゲスを撃破。
二発までというダブルバスターの弱点を突いて襲い掛かるバイオレン。
勝利を確信したサーゲスが見たのは、アジールの剣をバイオレンに突き刺すエックスの姿。
懸けに勝利したのはエックスでした。
もうこの一連の流れは、何度読み返したことかわかりません。
圧倒的ピンチからの大逆転。その鍵は敵が使っていた武器。
この展開を誰が予測することができたでしょうか?
恐らく、ゲームをやっているだけでは絶対に思いつくことができない勝利の仕方です。
ダブルバスターというのはX2で採用され、ゲームの次作『ロックマンX3』でもダブルチャージという形で登場されました。
カウンターハンターはこれを警戒していて、だからこそ三対一で仕掛けてきたわけなんですがそれがものの見事に打ち砕かれました。
このカタルシスがたまりません。
なんせ、ここに至るまでとにかくエックスがやられっぱなしだったわけですから。
互角だとかだったら、絶対こうはならなかったはずです。
一人のヒーローが、数的にも戦力的にも圧倒的不利の状態から勝利する。
その後も漫画は『ロックマンX3』『ロックマンX4』と続くんですが、複数のボスキャラとエックス一人が戦うというバトルはカウンターハンター戦だけです。
後続の作品ではバトルよりエックスの心情が中心に描かれている印象で、それはそれで感じるものはあるんですが純粋な『バトル』の描写はやはりこの戦いが頭一つ抜けています。
個性豊かなカウンターハンター
カウンターハンターと言えば、その強烈なキャラクター性。一言でいえば全員が「憎たらしい」。
丁寧語で話しながら、絶対の自信を持ち相手を見下すアジール。
頭脳は鈍いながら、それ故に容赦のない残虐さを持ち破壊を楽しむバイオレン。
冷静でリーダー格でありながら、卑怯な手段を好むサーゲス。
漫画『ロックマンX2』には、色々なボスキャラが登場しました。
勿論凄く悪い奴もいたんですが、どのボスも生物をモデルに凄く格好いいデザインをしているので心底嫌いになることはなかったんです。
でもカウンターハンターは人間の姿に近いアジールとサーゲス、生き物がモデルかわからないバイオレン。
格好いいというより、純粋に『悪役』と感じられるデザインのキャラばかりです。
基本的にゲームと同じキャラクター付けなんですが、ゲームより圧倒的に台詞が多い分各人の個性がより明確になっていました。
そんな個性を持った悪役が同時に三人もいるのだから憎らしさは三倍。
だからこその勝利のカタルシスなわけで、彼らは悪の役割をしっかり果たしてくれました。
カウンターハンター的な役割として、一作目と三作目には『VAVA(ヴァヴァ)』という敵が出てきます。
VAVAとのバトルも語りたいことが多い名編ですが、強い心情を持ち「ライバル」という表現が似合うVAVAに対してひたすら悪に徹したカウンターハンター。
両方とも魅力ありますが、エックスが勝った時のカタルシスからやはり自分はカウンターハンター戦がバトルとして最高峰と推したいです。
まとめ
いかがだったでしょうか?
ロックマンX、または本家ロックマンもなんですがゲームの仕様上その戦いはジャンケンに似た部分があります。
つまり「この敵にはこの武器が効く」というのが決まっているので、それに合わせた手を出せばいいわけです。
漫画の『ロックマンX』はそのジャンケンの要素を極力排除し、特殊武器の使い方に合理性を持たせていました。
それ故、使われる頻度が少ない代わりにいざ使われればそれは状況をひっくり返す『切り札』となっていました。
カウンターハンター戦はその切り札を使うことをしっかり入れ込みながら、あくまで漫画独自の展開を貫いた一編。
悪役の描写、勝利までの緻密で説得力ある戦術、そこから伝わってくるエックスの成長。
様々な要素が奇跡的に融合した名バトルです。
挫けそうになった時にいつも思い出したいエックスの姿が、これからエックスに新たに出会う方に一人でも多く伝われば幸いです。
- ゲームで描けない構成をしている
- 緻密な勝利への展開
- カウンターハンターの悪役としての個性の強さ