ネコはミカン片手に夜明けを待つ

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『過狩り狩り』感想 ~鬼滅の刃の源流を求めて~

 

『鬼滅の刃』の作者・吾峠呼世晴先生。

吾峠呼先生は、鬼滅の刃を連載される前に四本の読み切り作品を描かれていました。

吾峠呼世晴短編集』は、その四本の作品を収録した本です。

それぞれの作品が独自の魅力を放つものであると同時に、一作一作に鬼滅の刃の源流を見て取ることができます。

中でも『過狩り狩り』という作品は、鬼滅の刃に魅了された方は是非一読されることをお勧めします。

過狩り狩り(かがりがり)

本作は第70回(2013年)JUMPトレジャー新人漫画賞で佳作を受賞した作品です。

少年漫画でありながら、まだまだ荒い絵柄と相成って一種独特の『乾いた世界観』を感じることができます。

この作品は短編集に収録されている作品の中で、最も鬼滅の刃の『色』を感じることができる作品です。

なんせ人を襲う存在と、それを狩る剣士が登場するのですから。

それどころか、珠世愈史郎という鬼滅の刃本編に登場した二人まで本作に名前もキャラクターデザインもほぼそのままで登場しています。

さらにさらに顔立ちは随分違うのですが、白いスーツに白いハットを被った時川という鬼舞辻無惨を思わせる人物も登場。

剣を使う主人公と合わせて、鬼滅の刃の世界観がこの段階で概ね固まっていることに驚かされます。

本作では、鬼ではなく吸血鬼が登場します。珠世や時川も吸血鬼です。

鬼滅の刃を知っていれば話を理解しやすい反面、私は知っているが故にはじめて読んだ時に内容を理解するために読み直す必要がありました。

物語は大正時代の日本で夜な夜な殺人を繰り返す海外の吸血鬼と、それに敵対する珠世達と主人公の過去が入れ替わり立ち代わり語られる構成。

主人公が吸血鬼狩りになる訓練や試験を受けている過程は、鬼滅を読んでいたからすんなり理解できた所でした。

一方で鬼滅を読んでいたから、吸血鬼同士の縄張り争いという構図が最初よくわからなかったですね。

鬼滅の刃では鬼同士が争う場面ってほとんど無かったので。

自分の中の鬼滅というフィルターを外して冷静に読めば、実は全然ややこしいことはないんですけどね。

無惨と時川も全然違う人なんですが、やはり格好からどうしても無惨に見えて海外の吸血鬼に苦戦する姿に違和感を感じました。

でも考えてみれば、この漫画が描かれた時には鬼滅の刃はまだ影も形もなかった。

だから当たり前なんですが、この漫画は鬼滅の刃という作品を一回頭から追い出して読むのが正しい読み方だと思います。

 

特徴的なのが主人公の描かれ方。まともな台詞は最後だけ。主人公が何も喋らないまま物語は進行します。

この主人公が物凄く強くて、片腕であるにも関わらず珠世達が苦戦していた海外の吸血鬼をあっという間に倒してしまいます。

主人公が圧倒的に強い。もしこのまま物語が続いていたら、主人公が徐々に人の温かさに触れて変わっていく展開になったのかなと思います。

一ページをまるまる使った、海外の吸血鬼の後ろに主人公が立つ場面がいいですね。

隠し玉がやってきたという感じがします。

絵は本当に荒削りなんですが、例えば主人公の仕事を知っているらしい警官が登場するなど短いページ数の中で世界観が作り込まれています。

ここだけで、吸血鬼狩りというのは公的機関に認識されているんだなと想像ができて世界観が広がりますし。

鬼滅を読んでいれば理解しやすい面はあるんですが、必要なことはきちんと作品の中で語られている。

この構成のセンスは本当に光っているなと思いました。

優しく明るい竈門炭治郎の源流にあるのが、非常に寡黙なキャラというのも面白いですね。

『過狩り狩り』の主人公の印象は、私は鬼滅本編で言えば冨岡義勇が一番近かったです。

そういえば、鬼滅本編でも炭治郎達がよく食べていたそばが本作にも登場。

吾峠呼世晴先生は、そばがすきなのかもしれないですね。

主人公の修行の様子から、吸血鬼を狩る組織みたいなのも想像できてそれが鬼殺隊に繋がったのかなとも感じます。

一度頭を真っ白にして本作を読んだ後「この部分は鬼滅のあの要素になったのか」と想像して楽しむ。

一粒で二度美味しい作品です。

最後にタイトルの意味。

作中の珠世の言葉から察するに、ある程度この世界は吸血鬼と人間が共存してる世界なのかなと思います。

それで、あまりに暴虐武人に人を殺してやり過ぎた吸血鬼は剣士に狩られてしまうと。

そう考えると、鬼とほとんど共存の可能性がなかった鬼滅本編と比べると世界観の違いがより明確になります。

確かに作中の様々な部分に鬼滅の刃を感じることはできる。

でも本質はまったく違う作品で、同時に本作は一本の独立した話なんだということを私は感じました。

鬼滅のようで鬼滅でない。

しかし、吾峠呼先生の作品をもっと読みたいと思われた方は満足できると私はお勧めします。