ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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九州戦風カミカゼバイト感想 〜ヒーロー物の新しい形〜

21世紀も気がつけば20年の歳月が過ぎようとしている。

昨今の社会状況による様々な分野への影響、とりわけエンタメ業界への影響は未だ深刻なものがある。

その中でテレビに目をやればウルトラマンシリーズ、仮面ライダーシリーズ、スーパー戦隊シリーズが継続して放送中であり毎年の楽しみを提供してもらえることに感謝は尽きない。

 

その一方で2000年代には先に挙げたシリーズ以外にも、『超星神シリーズ』や『魔弾戦記リュウケンドー』など多数の作品が制作されたヒーロー物もおよそメジャー3作のみに絞られている現状にはやはり寂しさを感じる。

 

もちろん『牙狼シリーズ』など定期的に新作が放送されるコンテンツがあることは忘れてはならない。

2021年には『ザ・ハイスクールヒーローズ』や『スーパー戦闘純烈ジャー』といったこれまでとはまた違ったテイストを持つ作品も制作され、新しい作品へのチャレンジは続いている。

 

中でも2020年に福岡県で放送され話題となったヒーロー番組『ドゲンジャーズ』の成功は特筆に値するだろう。

福岡で活躍していたヒーロー達が出演した本作は、ヒーロー物というジャンルの中でローカルヒーローが活躍する作品の存在感を高めたといえる成功を収め続編が制作される程の人気を得た。

前置きが長くなってしまったが、このように現代でも広がりを見せるヒーロー物のジャンルにおいて新しい流れを起こすかも知れない作品に出会うことができた。

 

『九州戦風カミカゼバイト』

 

福岡で活動する『劇団ZIG.ZAG.BITE』の舞台作品である本作は、テレビ特撮ともヒーローショーともまた異なる魅力を持った作品だ。

同時に確かな芯の通った芝居であり、ドラマであり、そしてヒーロー物でもあった。

 

あらすじ

都道府県が廃止され『大九州』となった九州で、太古の時代に封印された悪の女神・マガツが復活する。

マガツと敵対する神である龍神は、地元を愛する気持ち『ジモソウル』を強く宿す者達を集め『九州戦風カミカゼバイト』としてマガツの討伐を命じた。

果たしてカミカゼバイトはマガツを倒し九州を守ることができるのだろうか?

感想

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本作の鑑賞後、地方を舞台にしたヒーロー物という作風でも切り口を変えることで『ドゲンジャーズ』とはまた異なる作品になっている部分に面白さを感じた。

 

例えば既に活動していたヒーロー達が登場するドゲンジャーズに対して、カミカゼバイトでは0の段階から主人公達がヒーローになっていく過程が描かれている。

また今ある風景とそこに暮らす人々を守ることでヒーロー達が守りたい日常が強調されるドゲンジャーズに対し、一度故郷という概念が破壊されその中で自分たちが守るべきものを見つけていくカミカゼバイトの対比も個人的に面白かった。

 

物語に目を向ければ、突然集められたカミカゼレッド、カミカゼグリーン、カミカゼイエローがヒーローとなり戦う中で一つにまとまってく姿はスーパー戦隊シリーズのノリで見ていて実に気持ちがいい。

さらに追加戦士であるカミカゼブルーとカミカゼピンクが最初はレッド達との共闘を拒む展開も、スーパー戦隊を知る世代なら誰もがどれかの作品で見たことがある展開だろう。

 

これはこの展開にオリジナリティがないということでは決してない。

こうした展開はいわばストーリー作りにおける普遍のパターンであり、あらゆる作品に通用するものだ。

ポイントになるのはそのパターンの中で如何にして作品独自の個性を出せるかにある。

その点においてカミカゼバイトは、ブルーとピンクをレッド達とは異なる時代の人間とにしたことで心情面での立場の違いを明確化することで個性を出せていたと感じた。

 

そして終盤、カミカゼレッドの力が彼の息子へ受け継がれる展開は本作が家族物でもあることを印象付け、なおかつ戦隊でいうところの6人目の戦士の誕生イベントも兼ねているように感じ胸が熱くなった。

 

ところどころに見られるスーパー戦隊シリーズ以外の特撮作品へのオマージュも、ファンなら思わずニヤリとした。

 

キャラクター面においても、熱血漢のレッド、若さでぶつかるグリーン、元気なヒロインのイエロー、クールなブルー、落ち着いたヒロインのピンクというバランスの取れた組み合わせがなされている。

特にヒロイン二人のキャラクターはどことなくスーパー戦隊シリーズ30作目『轟轟戦隊ボウケンジャー』を彷彿とさせイエローを演じた心乃音、ピンクを演じた萩尾ひなこの演技も相成って実に魅力的なヒロイン像を作り出していた。(私が観劇した日程でのキャストさんです)

 

そして圧巻の存在感を見せたのがマガツを演じた紅月まきだ。

悪の大ボスでありながら常にハイテンションのマガツだが、その姿に私はある一人の悪役を重ねた。

その名は『魔女バンドーラ』。

スーパー戦隊シリーズ16作目『恐竜戦隊ジュウレンジャー』に登場した悪のボスにして史上最大の魔女。

東映特撮作品で数々の悪の女性キャラを演じた故・曽我町子氏の代表作ともいえるキャラクターだ。

 

当時私は5歳だったがその圧倒的な存在感は子ども心に強烈だった。

その一方で悪役にしては部下を家族同然に扱う優しさを持ち、曽我氏ならではのどこかコミカルさを感じさせる性格は憎むことができなかった。

私の周りではジュウレンジャーよりバンドーラの真似をする子どもが多かったほどだ。

 

舞台で演技をする紅月氏の姿に、子どもの頃見たバンドーラの姿が重なる。

禍々しくもどこか憎めず、恐らく親しみを感じる子どももいるだろう。

だが紛れもなくスーパー戦隊シリーズにはそんな悪役がいたのである。

紅月氏の演技は懐かしい思い出を蘇らせてくれると同時に、氏の持つ確かな演技力をこれでもかというくらい表現していた。

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とはいえ本作はヒーローショーではなく舞台である。

その魅力は観客が近いところで俳優の演技を感じられることと、上映時間に相応しいドラマ性に他ならない。

その点においても、前半でヒーローの誕生から絶体絶命のピンチ。

後半は荒れた世界からラスボスとの対決というメリハリのある構成がなされ、約2時間の公演時間があっという感じられた。

例えば中盤でレッドがマガツに捕まってから各メンバーが散り散りになり再び集まる展開は、ゲーム『ファイナルファンタジー6』を彷彿とさせ中だるみなく高揚感をもって後編を見ることができた。

 

このように本作はそのテイストに本家スーパー戦隊シリーズを添えながら、地域色を加えることで独自の作品へと昇華することに成功した作品だ。

そして、本作のクオリティに触れることでメジャーヒーローともローカルヒーローとも違う『ローカル舞台ヒーロー』というジャンルが生まれそうな勢いを感じた。

 

昨今のヒーローコンテンツも、展開の場をYou Tubeといった動画配信サイトへ広がり勢いを増しつつある。

ウルトラマンシリーズといったメジャーな作品だけでなく、各社のオリジナルヒーロー作品が制作されるなどテレビとは違う媒体でヒーローが活躍する時代が来た。

 

こうした時代だからこそ、舞台あるいは演劇といった場でしか見ることができないヒーローがあってもいいと考える。

どれほどネット環境が普及しても、未だテレビの力は強い。

やはり誰もが共通して見られる媒体としての役割は大きく、話題作が放映される度にSNS等で盛り上がれる楽しみもある。

 

だからこそどうしてもテレビでの新作を求めてしまうのがファンの心理だが、現状ではそれが難しい状況もある。

しかしどのようなジャンルもそうだが、新しい作品に挑戦していかなくてはいずれジャンルそのものが滅びることになるだろう。

かってはウルトラマンや仮面ライダー、スーパー戦隊以外の多くのヒーローが見られる時代もあった。

ヒーロー物が絶えず続いてきたのは、そうした歴史に消えた作品たちの血が現行の作品に脈々と受け継がれてきたからに他ならない。

 

今少しずつではあるが、様々な媒体を通してそうしたかっての勢いが盛り返しつつある。

その中で新しいキャラクターの創造という観点からもカミカゼバイトのような作品が各地で増えていくことを期待したい。

 

九州旋風カミカゼバイトはそんなヒーロー物の新しい形を期待させてくれる力作だった。

 

劇団ZIG.ZAG.BITE公式Twitter