矢崎存美さんの小説『ぶたぶたシリーズ』が好きです。
このシリーズとの出会いは確か図書館のコーナーで特集が組まれていたことだったと思うのですが、『ぶたぶた』という聞き慣れない言葉に興味を惹かれました。
あと置いてあった作品の表紙を一通り見た時に、凄く可愛くてどう見ても殺伐とした話ではないだろうと。
それで借りてみたら見事に自分の好みにマッチして、とても好きな小説になりました。
最近は色々あって本も読めてなかったのですが、そんな中で久しぶりに読んだのが『森のシェフぶたぶた』です。
2018年の作品なのでこの記事を書いている時点の最新刊ではないのですが、自分にとっては久々のぶたぶたさんとの再開。
内容は安定の面白さだったんですが、本作を読んで今まで考えたことがなかった『ぶたぶたシリーズ』の根底というか本質というか、そんな部分に気づけました。
このシリーズは意思を持つぶたのぬいぐるみ『山崎ぶたぶた』というキャラクターこそ登場するものの、基本的に各作品の繋がりは曖昧でどの話から読んでも問題ないようになっています。
ぶたぶたが登場する舞台もその都度違うのですが、今回の舞台は宿泊型レストラン『オーベルジュ』。
そこのシェフとしてぶたぶたが登場します。
いきなりですが『オーベルジュ』なるものを全く知らなかったので、本作を読んで勉強になりました。
こういうことも読書の楽しみの一つですね。
私が特に印象に残ったのが『二人でディナーを〈秋〉』という章でした。
この章の主人公は婚活の上手く行かない中年の男性なんですが、それが何なとなく自分に重なりました。
その主人公がようやく見つけた気の合う女性とオーベルジュに来たものの、その中で相手の本質を知ることになる・・・ というのがお話の流れです。
私自身も30代をむかえ同級生も次々に結婚し子どもも生まれる中で、そういったことに無縁な自分をどこか卑下する気持ちがありました。
だけど作中で主人公がぶたぶたと触れ合う中で自分が何を求めているのかと考え直した末に得た答えは、私の心を助けてくれました。
一人は寂しい。でも残りの人生、一緒に気持ちよくいられる人と過ごしたい。結婚するとかしないとかはまた別の話だ。
引用:矢崎存美/『森のシェフぶたぶた』 135P 光文社
人生って努力は勿論だけど、一方でやはり縁というものもあると思うんです。
周りの人を見てるとみんなが幸せそうに見えて焦ってパートナーを探したくなります。
だけどそれは人間と付き合うというより物を品定めするようなものなんですね。
何でパートナーを求めるかといえば『孤独を癒やすため』という方が多いでしょう。私もそうです。
でもそれって必ずしも結婚相手でなくてもいいんですよね。
友達とか、時折会う趣味の仲間とか、あるいは言葉では言い表せない距離感の関係の人。
そういう人たちのことを大切にしていければ、もし結婚できなかったとしてもそれはそれで孤独ではない人生を歩めるのかなと本作を読んで感じました。
もちろん家族を作るというのは尊いことです。
だけどその過程で世間が押し付けてくる年齢とかの限界とか条件ばかり気にして、大切なことを忘れちゃ駄目だぞと。
まるで私自身がオーベルジュでぶたぶたと話をした後のように、そんなことを感じました。
このシリーズも何作か読んでいますが、今回『森のシェフぶたぶた』を読んで唐突に腑に落ちたことがあります。
ぶたぶたは何もしてない。
『ぶたぶたシリーズ』は各章に何らかの問題を抱えた主人公がいて、ぶたぶたとの出会いを経て主人公が変化し問題が解決されるというのが基本的な流れです。
その話の中でぶたぶたは求められたら話を聞くしアドバイスもするけど、自ら積極的に他人を変えるための行動はしていなかったんです。
『森のシェフぶたぶた』でもぶたぶたがやっていることはあくまでシェフとしての仕事をこなしているだけ。
主人公たちはぶたぶたに変えてもらったわけじゃなくて、ぶたぶたとの交流の中で自分の意思で変わっていきました。
不思議なものでどの作品もそうなのに、何故か私はこのシリーズをぶたぶたが人を変える話だと記憶に刷り込んでいました。
ある意味では、ぶたぶたが人を変えるというのは間違ってはいません。
だけどぶたぶたがやっていることは『ただぶたぶたであること』。それだけなんです。
私もですが、人間って悩んでる人がいたら自分が何とかしてその人を変えたいと思う生き物ではないでしょうか。
だけど心が変わる時って、結局の所その人自身が何かを考えて掴んだ時です。
それは他人にはどうすることもできません。
他人を思っての行動は尊いものだけど、でも強制的に他人を変えるような強引なことをする必要はないのだと本作を読んで思いました。
ぶたぶたがただ彼らしく仕事をしたり話を聞いていたように、私も他人を変えようよせずただ自分らしくあろう。
そんなことを考えました。
不思議なもので、連続して何冊も読んでいた頃はそういうことが感じられませんでした。ひょっとしたら、私も本作を読んでぶたぶたに会い変わったのかもしれません。
さて、次はどんな仕事をしているぶたぶたに会いに行きましょうか。