ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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TACの父として ~追悼・瑳川哲朗さん 竜五郎隊長に見る父親像~

俳優の瑳川哲朗さんが2021年2月17日に死去した。

特撮ヒーロー番組『ウルトラマンA(エース)』の竜五郎役や、『ウルトラマンタロウ』『ウルトラマンレオ』のナレーションを覚えている人も多いだろう。

 

怪獣を超えた超生物・超獣。

 

瑳川氏が演じた竜隊長はそんな超獣に立ち向かう防衛チーム・TAC(タック)の隊長だ。

常に冷静沈着で優れた指揮能力と決断力の持ち主であり、その能力はそれまでの隊長と比べても決して引けを取るものではない。

 

しかしTACが戦う相手がそれまでのシリーズに登場した『宇宙人』と違い、神出鬼没の『異次元人ヤプール』であったこと。

ウルトラマンエースのピンチを救う役割が歴代ウルトラマン(ウルトラ兄弟)に割り振られたことで、TACは防衛チームとしてやや弱い印象を残してしまった。

それどころか主人公・北斗星司が遭遇した怪現象を(何度もヤプールと戦っているにも関わらず)信用せず、逆に謹慎を言い渡すなど『謹慎TAC』と揶揄される部分もある。

 

それはそのまま指揮官である竜の印象にも繋がり、前述のように優れた能力を持つにも関わらず頼もしさの面では今一歩という感想が残る。

 

なお誤解がないように付け加えるが、エースのピンチをTACが救った場面は決して少なくはない。

ファイヤーモンスを新兵器・シルバーシャークで倒した活躍などを忘れてはならないだろう。

 

 

一方で竜隊長は、そうした部分を補って余る程非常に魅力的な人格面を持つ人物であった。

第14話『銀河に散った5つの星』で北斗は欠陥ミサイルに乗せられ、ウルトラ兄弟が捕らえられたゴルゴダ星への特攻を命じられてしまう。

この人命を無視した作戦の指揮官である高倉長官に竜の怒りが爆発。

鉄拳制裁を加え基地を追い出す場面は竜を代表する名場面である。

 

ヒッポリト星人によって父親を殺害された少年に、星人の横暴を許してはならないと語る場面は相手が子どもであっても対等の存在として向き合う竜の誠実さを表していた。

 

エースではヤプール、あるいはその配下の超獣や宇宙人の作戦に一般市民が巻き込まれることが非常に多い。

そのためTACのメンバーも常にそうした人々と接するのだが、事件が解決した後も竜は市井の人々への配慮を忘れない。

子どもたちのために北斗に休暇を与える場面もあった。

『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』との作風の違いが影響しているのだが、こうした人々に寄り添う竜の姿はそれまでにない隊長像としてもっと顧みられるべきだろう。

 

私が竜五郎という人物を考える時、指揮官やリーダー以上に『父親』という言葉がしっくりくる。

竜はTACや子どもに時に厳しく、時に優しく接する父親であった。

 

例えば第2話「大超獣を越えてゆけ!」では北斗が無茶な行動に出ることを予想し、彼に基地での待機を言い渡している。

これは見方を変えれば、一番若い末っ子である北斗を思っての親心である。

またよく言われるように、戦闘機での出撃時に女性隊員を自分と同乗させることが多いのも「父親として娘を守らねばならない」という責任感だと考えれば辻褄が合う。

 

そういった意味で、最終回『明日のエースは君だ!』での竜の姿は印象深い。

ヤプールの策略にはまり、地球を去っていったウルトラマンエース=北斗星司。

星となるエースを見上げながら竜はたった一言「北斗‥‥‥」と口にする。

 

何かいいたかったのか、それともこれ以上言葉もなかったのか。

いずれにしても、竜は大切な家族を守ることができなかった。

竜の戦いがTACや人々という『家族』を守るものであったなら、最後に竜は敗北したことになる。

だが彼が北斗と供に戦った日々の中で竜から北斗へ、北斗から子どもたちに伝わった優しさはウルトラマンエースの世界とそれを観た私たちの中に息づいている。

 

 

ヤプールは倒された。しかし怨念の化身であるヤプールは何度でも復活してくるだろう。

それに打ち勝つには、最終回でエースが語ったように人間が優しさを忘れないように生きるしかない。

ウルトラマンエースを観た私たちがそうやって生き抜いた時、ようやく竜の戦いに勝利の時が訪れるのだ。

 

ひと言で言うと「青春」ですね。自分の情熱、エネルギー、パワー、その全てを注いで取り組んだ作品です。

引用:僕らのウルトラマンA(辰巳出版)187ページ

 

生前のインタビューで瑳川氏はウルトラマンエースという作品についてこう語っている。

私が幼い頃実家のある田舎の小さなビデオ屋には、ウルトラマンエースの第1巻と最終巻が置いてあった。

間がすっぽりと抜けているのだが、そのお陰で私は曲がりなりにもエースの始まりと終わりを観ることができた。

 

そんな幼かった私も、そろそろ竜隊長を演じていた頃の瑳川氏の年齢に近づきつつある。

しかしあの威厳ある姿に自分がなれる気はまったくしない。

年齢を重ねても未だ残る自分の幼さに愕然としながらも、それでも竜のような他者への思いやりだけは心に持っておきたい。

 

瑳川氏が全力でエースという作品に取り組んだように、自分の人生に全力で向き合うために。

 

そして願わくばこれからウルトラマンエースを視聴する子どもたちの心にも、竜隊長が守り大切にしていた優しさが伝わることを願うばかりである。

 

瑳川哲朗さん数々の名演をありがとうございました。

ご冥福をお祈りいたします。