はじめに
2020年、ウルトラシリーズの一作「ウルトラマンG(グレート)」が生誕30周年を迎えた。
オーストラリアとの合作という独特な立ち位置から、これまであまり語られる機会がなかった本作。
しかし2020年はYouTubeでの本編配信、特撮のDNA展での関連物の展示。
そして新作「ウルトラギャラクシーファイト 大いなる陰謀」でのグレートの登場など様々な盛り上がりを見せた。
人間的になりつつあったウルトラマンの神秘性の再生を目指し、日本から遠く離れたオーストラリアの地で誕生したウルトラマングレート。
だが今回作品を観直すことで、グレートにも過去の作品から受け継がれてきた「ウルトラマン」の側面が確かに存在していることを感じることができた。
誕生から30年を経た今、グレートというキャラクターがどういった存在だったのか改めて考えたい。
なお本作には日本語吹き替え版と英語字幕版の二種類が存在し、それぞれで設定が微妙に異なるがこの記事では日本語吹き替え版を取り上げる。
地球に来た理由
かって、最初のウルトラマンが地球にやってきたのは偶然からだった。
宇宙の墓場に凶悪な怪獣『ベムラー』を運ぶ途中、ベムラーに逃げ出されたウルトラマンはそれを追って地球にやって来る。
その時、たまたまパトロール中だった科学特捜隊のハヤタ隊員が乗る小型ビートルと衝突してしまったウルトラマン。
責任を感じたウルトラマンはハヤタ隊員と一体化することで彼を生き返らせ、怪獣や宇宙人の手から地球を守るために戦った。
ハヤタに地球の平和のために戦いたいと語ったウルトラマンだが、一番の目的はハヤタを生き永らえさせることであった。
地球の平和のために戦うウルトラマン、人類のために戦うウルトラマン。
多くの人が抱くウルトラマンにへのこうしたイメージは間違っていない。
しかし、実はそもそもウルトラマンは明確な使命を持って地球に来たわけではなかった。ウルトラマンは「たまたま」地球に来ただけだったのである。
これはウルトラマングレートにも当てはまる。
第一話「銀色の巨人」の冒頭。
火星で宿敵『邪悪生命体ゴーデス』と戦ったグレート。しかし、倒したかに思えたゴーデスは『ゴーデス細胞』となって地球に逃亡してしまう。
そこでグレートは、たまたまその日火星の探査中だった地球人の『ジャック・シンドー』と一体化し地球に向かうことになる。
このように、グレートが地球にやって来たのも初代ウルトラマンと同様に偶然であった。
もしもゴーデスを火星で完全に倒せていたら。あるいはゴーデスの逃亡先が別の惑星であればグレートが地球に来ることはなかった。
グレートの使命はあくまでゴーデスを倒すことであり、地球に来ることは想定外のことだったと思われる。
第二話「凍てついた龍」では、グレートとジャックの対話でゴーデス関連の出来事以外に関わることに消極的なスタンスをグレートは見せている。
ここでは何もグレートが冷徹な存在だと語りたいわけではない。
注目してもらいたいのが、グレートは一般の人がウルトラマンに持つ「地球の平和を守りに来たヒーロー」と微妙に異なるキャラクター性を持つということ。
しかしながら、それは初代ウルトラマンとも共通するものだということである。
これを頭に置きながら、グレートの変化を追っていきたい。
地球人に触れ変化する心
第三話「魅入られた少年」では、ゴーデス細胞に一旦は取り込まれながらもそれに打ち勝つ少年の姿が描かれる。
そして、同じくゴーデス細胞から少年の心を取り込んで誕生した怪獣『ゲルカドン』をグレートは倒さなかった。
本話にてグレートはゴーデス細胞に打ち勝つ人間の心の強さを目にしたと考えられる。
そしてゴーデスとの決着が描かれる第六話「悪夢との決着」。
ジャックの同僚である防衛組織『UMA(ユーマ)』の隊員『ジーン・エコー』がゴーデス細胞に寄生されてしまう。
時を同じく、ゴーデスはより強化された姿で復活しようと企む。どうすればジーンを救いゴーデスを倒せるか悩むジャック。
自分の命に誇りを持て
引用:ウルトラマンG第六話 日本語吹き替え版
ジャックの問いかけにグレートはこう答える。
遂に復活するゴーデス。グレートは立ち向かうが、あらゆる技が通用せず逆にゴーデスに吸収されてしまう。
ゴーデスの体内で苦しむグレート。その時ジャックがゴーデスと対話する。
勝ち誇るゴーデスだったが、このまま行きつく先は友達もいない孤独な世界しかないことをジャックに指摘され激しく動揺。
その隙を付いたグレートがゴーデスを体内から破壊し脱出。ここに、両者の対決は終わりを迎える。
この戦いは、グレート一人で勝つことは不可能であった。
確かに描写だけを見れば、ゴーデスの頭を砕き倒したグレートの力の勝利に見える。しかし、注目すべきはそこではない。
グレートの力が全く通用しないゴーデス。その力を持ってしても、ジャックを屈服させることはできなかった。
言ってみれば、ジャックという制御できない異分子を取り込んだことでゴーデスは内部から崩壊し始めた。グレートはその隙をついたのだ。
ウルトラマンが人間の力に助けられた瞬間である。
第一話で、グレートはジャックの命を救った。今回は、逆にグレートの命をジャックが救った。
ウルトラシリーズでは、ウルトラマンが地球人に助けられる描写が何度も描かれてきた。
『ガッツ星人』に捕まったウルトラセブンを助けたウルトラ警備隊。
三大怪獣に挟まれたウルトラマンタロウを援護したZAT。
ヘラー軍団に占拠されたウルトラの星・U40を救うべく奮戦したザ☆ウルトラマンの科学警備隊。
何も防衛チームだけに留まらない。ウルトラマンタロウでは、一般人が怪獣に立ち向かいタロウを援護する姿も描写された。
こうした地球人の強さは、初代ウルトラマンの頃から描写されている。
『アントラー』に苦戦するウルトラマンを助けた科学特捜隊の『ムラマツ隊長』。
ウルトラマンを苦戦させた『ゴモラ』の尻尾を切断した科学特捜隊の兵器『マルス133』。
作中で初代ウルトラマンのパーソナリティを伺うことはほとんどできない。
だがウルトラマンはこうした経験を通して地球人を信頼していったのではないだろうか。
偶然から成り行きで地球に留まったウルトラマン。しかし、地球で戦う中で徐々に地球と地球人への愛着を持っていく。
それはグレートも同様である。ゴーデスを撃退したグレートだが、その後も地球に留まり出現した怪獣や異星人と戦った。
本来なら、ゴーデスを倒せば彼の使命は終わりであるにも関わらず。
思い出して欲しい、グレートが地球に来たのはたまたまだったはずだ。それに、ゴーデス以外のことに関わることに消極的な態度も見せていた。
思うに、グレートもまた地球人の姿を目にすることで地球人と地球に愛着を持ったのだと思われる。
第一話で正体不明の異星人と判断されたグレートはUMAから攻撃を受けた。
しかし、第五話「悪夢との再会」では怪獣『バランガス』の前に絶対絶命のところをUMAの援護に救われ逆転のチャンスを掴んでいる。
そしてジャックだ。自身の持つ力では倒せず負けそうになるグレート。それを救った小さな人間であるはずのジャック。
こうした経験を通して、グレート自身の心境も変化し地球に留まったのではないだろうか。
まるで初代ウルトラマンがそうであったように。
しかし、グレートの前に最大の敵が現れる。
ウルトラマンになったグレート
第十二話「その名は"滅亡"」、第十三話「永遠なる勇者」。
突然出現した怪獣『コダラー』の圧倒的な強さの前にグレートは完膚なきまでに敗北してしまう。
時を同じく、もう一体の怪獣『シラリー』が宇宙の彼方から地球を目指していた。
実はこの二大怪獣は地球環境を破壊し続ける人類を滅ぼすために、地球自身が呼び起こした怪獣であった。
勝てる見込みもない中で、ジャックの思いに応えたグレートは残り一度しか変身できない状況で二大怪獣に最後の戦いに挑む。
守るべき存在であるはずの人間こそ、同じく守るべき星である地球にとっての『悪』であった。
そんな状況の中でグレートが下した決断は、人間のために最後まで戦い抜くことであった。
グレートの元々の任務がどの程度の範囲のものだったかはわからない。
しかし、恐らくはその星のバランスが何らかの要因で強引に変わろうとした時にそれを防衛する役割をもっていたのではと推測される。
邪悪な意思で地球に侵攻したゴーデス。罪なき怪獣を駆逐しようとした人類と怪獣の間に立った『ガゼボ』戦。
放っておけば他の生命体を全て駆逐しかねない『マジャバ』戦。ゴーデスと同じく人類を滅す意志を持った『バイオス』戦。
しかし、コダラーとシラリーとの戦いは守るべき地球そのものとの戦いでもあった。
それでもグレートは戦った。人類を守るために。
そして、UMAの援護もあって二大怪獣に勝利したグレートはジャックと分離し地球を去っていく。
グレートの最後の戦いは、明確に人間を守るための戦いであった。
最後の事件が、本来ならグレートが手を引くべき案件ではなかったのかと想像することはできる。
だが、グレートは使命よりも私情を優先する。彼を信じ、そして彼が愛した人間を守るためにその身を捧げたのだ。
それをお人好しと呼ぶ人もいるかもしれない。しかし、元来過去のウルトラマン達にもそうした面があった。
『ゼットン』に敗れ、ゾフィーの説得に自分が死んでもハヤタ隊員だけは生きさせて欲しいと懇願した初代ウルトラマン。
本来の高点観測の任務を完全ではないだろうが放棄し、地球人のために戦い続けたウルトラセブン。
『ヤプール人』の罠から子ども達の心を救うために自ら地球を去ったウルトラマンA。
地球を第二の故郷とし、過酷な戦いに身を投じたウルトラマンレオ。
「帰ってきたウルトラマン」以降、ウルトラマン達は地球を守る使命を帯びてやって来た。
だが、それは地球の側からそれを要請したわけではない。あくまでもウルトラマン達がそう決断して地球にやって来たのだ。
ここに、ウルトラマンというヒーローが日本を代表するヒーローでありながらどこか他のヒーローと違う独特の存在感を持つ理由がある。
地球人でないにも関わず、ただ地球と地球人を愛した。
それだけの理由で、ウルトラマンはいつも地球と地球人のために戦い続けてきた。
たった一つの小さいな偶然から始まったこの大シリーズは、巨大な宇宙人が地球人を好きになっていく物語だ。
初代ウルトラマンのような神秘性を宿したグレート。
しかし、最後まで物語を見れば彼もしっかりと歴代のウルトラマンの系譜にいたことに気づかされる。
人間への愛で戦った時、グレートは真の意味で「ウルトラマン」になったのだと思う。
ウルトラマングレート、それは平成の世に最初に誕生したウルトラマンであった。
「ULTRAMAN: towards the future」グレートの英語タイトルであるこの言葉。意味は「未来へのウルトラマン」。
過去を受け継ぎ、同時に新しい視点からの物語やキャラクターを生み出した本作は現在まで続く平成以降のウルトラマンの礎となった。
終わりに
力なき人々のために無償で奉仕するヒーロー達。世界各地に数多くのヒーローがいる。
だが遠い星のまったく人間と姿の異なる宇宙人がヒロインに恋をするでもなく、ひたすら愛情で人間のために尽くしてくれるウルトラマン。
情や義理を尊ぶその姿は実に日本的なキャラクターだと感じる時がある。
そうした日本的な内面を持ったキャラクターが、果たして文化の違う海外で製作され受け入れられるのか?
ウルトラマングレートはその疑問に答えた作品となった。
グレートの好評により、1993年にアメリカで「ウルトラマンパワード」が制作されたことがそれを証明している。
このパワードが起爆剤となり「ウルトラマンティガ」が誕生。それから令和まで繋がるウルトラの歴史が刻まれ始めた。
ウルトラマングレートの誕生から30年の月日が流れた。
折しも、この年は未曾有の事態が世界を襲った。それに伴う急激な社会の変化。それでも人々は生き続けている。
どれだけの困難が襲ってきても、どれだけの希望に逃げられたとしても。
人生には思いもよらないことが起こる。ある日突然火星から邪悪な生命体がやって来たように。
だが如何なる苦難も乗り越えるために、自分の命に誇りを持つことからはじめてみようではないか。
それこそが神々しく、それでいて人の好いヒーロー・ウルトラマングレートが願うことだと思う次第である。