ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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短編映画『白夜』感想 ~詰め込まれた短編映画という面白さ~

考えてみれば映画に限らず映像作品というものは実に難儀なものである。

数ヶ月、あるいは数年という時間をかけて制作するにも関わらず、完成した作品の上映時間は長くても3時間ほど。

もちろん短期間で制作される映画もあるにはあるのだが、基本的には制作に費やされた時間に対して完成された作品の時間はあまりに短い。

 

逆に考えると短い時間の中に多くの制作者のアイデアと情熱が埋め込まれていることに、映像作品の尽きない魅力がある。

 

2001年から世界各地で開催されている映画イベントの『48Hour Film Project』は、映画を48時間で制作し、その中から審査が行われる。

日本では東京、大阪、福岡で開催されており最終的に選ばれた作品はカンヌ映画祭で上映のチャンスもあるという、まさにクリエイターにとって大きなチャンスになり得るイベントだ。

 

普通に生活していると馴染みのないことだが、日本でもこうした映画に関するイベントは定期的に行われている。

例えば『ぴあフィルムフェスティバル』や、自主制作怪獣映画のコンテストである『全国自主怪獣選手権』などがそれにあたり、これをきっかけに新たな才能が見つかることも少なくない。

 

前置きが長くなったが、今回紹介する短編映画『白夜』もそんな映画イベントのために制作された作品だ。

孤独を抱えたまま大人になった主人公が、一夜の出会いをきっかけに身近にあった幸せを想い出す・・・・・・ そんな話だ。

そして個人的に感じたことなのだが、本作は「人間は決して一人ではない」というテーマを短い時間の中で表現している。

 

育った環境故に愛情がよくわからないという主人公は、バーで出会った女性と過ごすことで心のシャッターを開いていく。

そしてラストの場面では、女性もまた愛情を求めて夜の出会いを繰り返していたことが明らかになる。

 

物語冒頭の舞台は大勢の客で賑わう店なのだが、その中で主人公だけは一人で来店している。

一方で女性の方はその場に完全に溶け込んでいるのだが、後に両者が同じく孤独であったことがわかった上で見るとこの対比は興味深い。

そして両者がそうした存在だからこそ、店にいる他の客もそれぞれが孤独を抱えているかもしれないと想像が膨らむ。

 

一見すると気づきにくいのだがこの場面を繰り返し見ていると、華やかな場所だからこそ、ここにいる人間の数だけ孤独があると感じられて人間が愛しくなってくる。

 

そして、そんな孤独を癒すことができるのは同じ人間なのだ。

 

女性と出会い、触れ合うことで主人公は自分を育ててくれた親戚と心の距離を縮める。

様子から察するに、二人の間は不仲ではないのだろうがこれは主人公の方が一方的に壁を作っていたのだろう。

 

極めてパーソナルな話になるが、私自身もここ数年でそれまでの人生を遥かに上回る数の出会いがあった。

信頼されたと感じたことも、愛情を注いだと感じたことも、理不尽だと思う目にあったことも何度もあった。

そうしたことを経験して思うのは、自分にとって最も身近な『家族』との繋がりだ。

他人など信用できない・・・・・・ とはいわない。

むしろそうした人たちがいてくれたおかげで私は生きてくることができた。感謝している。

そしてさまざまな人に会ってきたからこそ家族、特に両親が経験してきたであろう苦労や抱えてきた苦悩を少しは想像できるようになった。

 

とはいえ、人生は止まることなく流れ続けていく。

何かが分かったような気持ちになっても、それでも探していたものは見つからなかったという状況は多い。

主人公と出会った女性が、これから彼女が求めているものに出会えるかはわからない。

だが主人公が女性と出会い変化したことが、いつか彼女が求めるものに出会えることを示唆している。

 

人は孤独なものである。だが決して一人ではない。

 

出会いという航海の先に見つかるのは、最も身近な場所にある宝・・・・・・ と書くと大袈裟だが、正味5分の時間の中にこうしたことを詰め込んだ『白夜』は美しい作品だ。

 

マイベスト映画の一つに『仮面ライダーZO』という作品がある。本作は48分という中編の長さだが、だからこそ凝縮された面白さがある。

短編映画もそれは同じだ。

まして48時間という超がつくほど濃縮された時間で作られた作品には、その一瞬一瞬に込められたパワーがある。

 

一般の人が短編映画を目にする機会はなかなかないだろう。

しかし長編映画とはまた違った視点から映画や映像の面白さを感じることができる分野であり、今後もその発展を楽しみに見守りたい。

 

主人公が出会う女性を演じたのは熊本県出身の俳優である檜奈七子だ。

本作では感情を抑えたミステリアスな女性を演じており、華やかな場にいながらも異質な存在感を放つ独自の色を出してた。

WEBマガジン『ミッケ!フクオカ』のモデルを務めるなど、精力的な活動を続けている彼女の魅力の一端に触れられた意味でも『白夜』は魅力的な作品である。