メイドカフェでたくさんの子の旅立ちを見てきて、もう何人見送ったかわからない。
寂しい気持ちはあるにしても、ここ一年ほどは以前にも増して見守っていきたいという気持ちが強くなった。
今回卒業する子も前向きな理由での卒業と聞いた。前の自分であればどんな理由でも「卒業しないで」という気持ちが第一だったと思う。
それが今は、ただその子の未来が幸せであってくれたらそれでいいと思う。
その子に店で会った回数はそんなに多くはないけれど、店に入ってから今日までたくさんこの場所を支えてきてくれたのだと思う。
お笑いが好きで、素敵な髪の毛の色が印象的な子だった。
常に明るく、短い時間の間でもお客さんを思い笑顔にしてくれた子だった。
客だから何をするのが正しいとか、そういうことに絶対的なものはない。
というよりも、ルールを守って遊ぶこと以外は必要なことなどないのかもしれない。
それでも、長く店でメイドの子たちと過ごす中で何かできることはないかと自分なりに考えたこともあった。
でも結局わかったことは、自分にできることはただ見守るだけだということ。
メイドの子たちがいつかこの場所を旅立って行く時に、きちんと自分の足で踏み出していけるように見守っていくことが自分にできる最大限のことだ。
出会う子たちが自分と出会い何を感じるか、何を思うのか。それはわからない。
プラスな印象を残せれば嬉しいけれど、マイナスな印象を残してしまう時もあるかもしれない。
それでも、そんなマイナスな印象すら世の中にはそういう人間もいるという一つの学びになっていたらそれでいいのではないか。
人生は長い。今回卒業する子の未来にも、これからたくさんの出来事が待ち受けている。
色々な人間に出会うだろう。嬉しいことも辛いこともたくさんあるだろう。
悲しいことにぶつかった時に、人間というものがわからなくなる時もあるかもしれない。
そんな時は、ここで出会った人たちのことを思い出してほしい。
この世界には色々な人間がいる。それが世界であり現実だ。
そしてきっと、どんなに辛い状況が待ち構えていたとしても彼女のことを理解してくれる人がきっといる。
ここにもそんな人たちがきっといたはずだ。
そのことを信じる手助けとなることが、一人の客としての自分にできることだと思いたい。
長いようで短い、その子がメイドとしていた時間だった。
二つの冬が過ぎていった。その間に世界は元に戻りつつある部分と、大きく変化した部分に別れた。
生き辛い時代だ。
自分自身のことで日々精一杯。時に他人を思う気持ちも忘れそうになる。
それでも覚えておきたい。この場所で出会った笑顔の素敵な子のことを。
どうかいつまでも忘れないでほしい。
ここで出会ったたくさんの人たちのことを。
この店でのメイドとしてのお給仕事本当にお疲れさまでした。
次の世界に向かって行ってらっしゃいませ。