ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

日々の中で出会った映画・本・お店、演劇や物などを総合的に紹介する雑記ブログです。

演劇感想 ナシカ座『バックヤード・マーチ』

演劇はもともと全く観ていなくて、人とのご縁で観に行きはじめたという経緯があります。

その中で色々と俳優さんを知っていくんですが、今回感想を書くナシカ座の『バックヤード・マーチ』もそんなご縁がきっかけで観に行った作品です。

 

舞台はスーパーのバックヤードで、これは本来は倉庫などの意味があるんですが店員の控室のような感じですね。

上手のホワイトボードや脚立、下手に店長が作業する机、中央にテーブルといった配置になっていました。

 

物語の主題は映画『男はつらいよ』のような兄と妹の話です。

兄はスーパーの店長をしていて、すぐに人を信用してしまうお人好しな性格。妹はそんな兄の正確に悩まされながらも二人でスーパーを切り盛りしていた。

ある日、兄の前に昔の恋人が姿を現す。その恋人に頼まれるまま借金の保証人になった兄のせいでスーパーに大きな危機が・・・・・・

というようなストーリーです。

 

本作はナシカ座初のカムバック公演ということで、過去に上演した作品を別の俳優さんたちで再上演した作品でした。

ナシカ座という劇団の作品は主宰である内田好政さんが元芸人ということもあり、ギャグをふんだんに盛り込んだ作風が特徴です。

もともとコメディ映画などは好きなので、ギャグの場面では素直に笑いました。

このギャグに関しては、俳優さんの間の取り方が上手だなと感じました。

 

スーパーの店員の一人がサプライズを妹に仕掛ける場面があるんですが、色々あってそれが失敗してしまう。

他の店員は妹の事情を知るんですが、仕掛ける店員だけはそれを知らない。それで一人だけ気まずい感じになった時の何とも言えない空気。

それで失敗した店員が荒ぶるんですが、サプライズが失敗した後に他の店員に切れる時の間が絶妙で笑いました。

 

チャージ時間というか、観客も「この後に笑いがくるぞ」と予測してそれに備える時が映画などでもあると思います。

でも恐らく、演じる側と観る側とではやっぱり感覚が違うんではないかと思うんですよね。当然ですが稽古の時は観客はいないから。

こうした部分の上手さは流石だと感じました。

 

もう一つ面白いと思ったのが俳優さんの構図です。

保証人となった店長のところに、強面の男とその秘書が借金の取り立てにやって来ます。

秘書役の女優さんは粋華さんという初めて知った方でしたが、ヒールを履いていたこともあるんですがスーパーの店員たちよりも背が高い。

この秘書は冷静でロボットみたいな人なんですが、店長と向かい合って彼の頼みを突っぱねる場面が多かったんです。

 

それで構図の話に戻ると、やっぱり秘書の方が大きく見えるから力関係がストレートに伝わってくるんですよね。

もし秘書が店長から見下ろされる感じだったら、観ていてやっぱり「いざとなれば力推しでどうにかなるのでは」と感じたと思うんです。

だからそういう役者さんの配置というか、構図が面白かったというのがありますね。

 

一方でストーリーに関しては、スーパーのバックヤードという設定を今一つ活かしきれていなかった感じもしました。

バックヤードといっても、スーパーに限らずコンビニでもホームセンターでもそういう場所はあります。

兄が保証人になった理由は昔の恋人の事情によるもの。

せっかくスーパーを舞台にしたのだから、その経緯や返済方法にスーパーならではのものを組み込んでもよかったのではないかと。

 

例えば昔からのお得意さんの頼みを断れずに借金したとか、そういう風にしたら親の代から受け継いだ店というシチュエーションも活かせたんじゃないかなと個人的には感じました。

借金の返済方法も、作品内ではデウスエクスマキナ的な方法で解決されていました。

コテコテの王道的な話になってしまうけど、そこは短期間で店員一丸となって売り上げを増やすために駆け回るみたいな展開にする。

そうしたら兄の信条である人を信じるということや、兄と妹との絆ももっと描けたのかなと思います。

 

やっぱりどんな作品にも文法というか、例えば刑事ドラマで事件が起こらず刑事の私生活だけ見せられても困りますよね。

警察を舞台にしているから事件を描ける、そこから描ける人間の姿がある。

『バックヤード・マーチ』でもそうした展開が観たかったというのが個人的にはありました。

本作で借金の理由となった店長の元恋人を演じたのは木嶌涼乃さんです。

福岡を中心に活動している女優さんで、女優の他にも被写体活動やアイドルグループ『LAPiS』のメンバーとしても活動されています。

自分の中ではどちらかというと活発な女性役のイメージが強かった涼乃さんですが、本作では暗い境遇を背負った女性を演じていました。

作品の中でビンタされるシーンがあるんですが、知った俳優さんが演技とはいえ叩かれるところを見るのは少し辛かったですね。

それをいくつかある公演の中で全部やっている。というより稽古の時からやっていたと思うと、改めて俳優って凄いと思いましたね。

また別の作品でも彼女の演じる役柄を見たい。そのように感じました。