ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

日々の中で出会った映画・本・お店、演劇や物などを総合的に紹介する雑記ブログです。

「りの! 可愛いよ窪津りの!」 ~舞台『三国志IF』感想~

(妙な胸騒ぎがするな・・・・・・)

1月の曇り空を見ながら私は思った。なぜそう思ったのかは自分でもわからない。

いつものように仕事を終えて車に乗る。遅いシフトの仕事は朝が楽な分、夜は帰りが遅い。慣れているとはいえ、毎日21時頃の帰宅にウンザリする。

スマホを起動させインスタを見る。真っ先に目に飛び込んできた「ご報告」の三文字。

「えっ!?」

思わず声をあげた。昨日舞台の上で元気に動き回っていた陽projectの代表・シマハラヒデキ氏が事故にあったとのこと。しかも相当酷い事故らしい。

「嘘だろ・・・・・・」

辺りはすでに真っ暗で人影はない。この時間に退社しようとしているのは私くらいだ。

先ほど感じた嫌な予感が現実になったことに、どう反応していいのかその時の私にはわからなかった。

陽projectという劇団を知って約2年になる。

定期的に作品を観劇して感想をブログに書いているうちに、シマハラ氏をはじめ俳優の方々にある程度は存在を認知してもらえるようになった。

それは私にとってありがたいことだ。「観劇は自分を主張する場である」などと考えたことはないが、どんな形であれ人付き合いが下手な私にとって出会いは尊いものと考えている。

だからこそシマハラ氏が一命をとりとめ、陽projectの新作「三国志IF」を観劇できたことにまずは感謝したい。

 

その上で・・・・・・ いつもなら観劇後の熱が冷めないうちに感想を書くのだが、諸事情により書き出せないまま時間が経過してしまった。

理由の一端は最近になって仕事の範囲が変わり、生活のリズムに慣れるまで時間を必要としたこと。

他にも色々と落ち込むようなこともあり、どうしても書こうという気持ちになれなかったとか理由は色々ある。

 

さらにいうと舞台の感想を書くって凄く難しいんですよね。いくつも感想書いてきて何いってるんだと思われるかもしれないけど。

いや、本当に難しいんですよ。

なんせ感想を書くにしても、書くための要素がありすぎるから。

役者の演技、ストーリー、演出、音楽、衣装、舞台装置・・・・・・

一言で感想といっても何を中心に書くかで感想の内容は全く変わってくるし、さらに一つの要素には別の要素が絡んでくるわけじゃないですか。

例えばストーリーが良くても、それだけを書き連ねるなら演技の魅力は伝わらない。

 

これが例えば映画とかドラマとかなら話は少し違ってくるんです。

なぜならそういうメジャーな媒体の作品って、基本的にはきちんと経験を重ねた俳優が出るじゃないですか。

だから感想を書く時に取り立てて深くそこを書く必要はなくて、それよりは内容とか話の整合性とかで感想を書ける。

だけど舞台演劇、特に地方の作品となるとこれが初演技という俳優さんもいるわけなんですよ。

舞台ってもちろんダイレクトに俳優の演技の迫力が伝わってくることが魅力なんですが、経験の浅い人の全力の叫びが作品の出来を左右することに繋がるような部分もあるわけです。

 

誤解がないように伝えたいのですが、決して舞台が上で映画が下などといいたいのではありません。

舞台にも観客席があって、そこから観劇するのは映画と同じ。

だけどやっぱり実際の人や物がそこにあるっていうのは違うんですよね。

全ての要素が必要不可欠で大事なもの。だからアプローチが多くて感想を書くのが難しいんです。

 

それで今回も何を書こうか迷ったんですが、一周回って本当に作品を観て率直に感じたことを書きたいと思います。

結論からいいますね。

「りの! 可愛いよ窪津りの!」以上。

いや、本当にこれで終わりでもいいくらい私が一番に感じた感想はこれなんです。

窪津りのさんという方は陽projectに所属している女優で、舞台の会場で売られているグッズのデザインも担当しています。

さらにYouTubeで配信された三国志IFのドキュメンタリーの編集も行うなどマルチな活躍で劇団を支えている方。

 

その彼女が初の悪役に挑戦したのが本作でした。役名は「華雄(かゆう)」で、主人公である劉備や張角と敵対する勢力の女幹部といったところ。

それで華雄の何が魅力的だったかというと、窪津りのさんがとっても楽しそうに演じていたんですよね。

華雄という人はまるで女王様みたいに他人を見下し、部下(男性です)の背中を椅子代わりにするような悪女です。

そんな感じだから善人でないのは当然なんですけど、窪津りのさんがあまりに元気よく演じているためか悪人なんだけど凄く魅力的なキャラクターとなっていました。

 

好きなんですよ。個人的に悪の女幹部みたいなキャラクターが。その原点となるのはやはり子どもの頃に見た特撮物です。

中でも『恐竜戦隊ジュウレンジャー』の魔女バンドーラを演じた曽我町子さんと、『特捜ロボジャンパーソン』で綾小路麗子を演じた高畑淳子さんは自分の中で別格ですね。

やっぱり何ていうか、本当に演劇の道を歩いてこられたこれぞ『女優』というお二人だったので存在感が凄かった。

それで三国志IFの華雄にもそんな感じを受けたんですよ。

 

窪津りのさん自身はTikTokで「槍女子」という槍を豪快に振り回す姿を投稿していたり、SNSでは可愛らしい写真を見ることもできます。

でも活動の根幹はあくまで女優であり、作品ごとに違う役柄に挑戦してきました。

それで根幹の華雄なんですが、率直に「殻を破ったな」と感じました。

りのさん自身が語ってたのですが華雄は難しい役です。

豪快なようで弱さがあって、改心することなく最後をむかえてしまう。

 

窪津りのさんがこれまで演じてきた役柄は主人公側が多かったのですが、最後まで敵側で「戻れないラインを越えてしまった人間」である華雄をどう表現するか。

もうね・・・・・・ 本当にそれに全力で取り組んだんだろうなと。

俳優でない私には詳しいことはわかりませんが、きっとそれに明確な答えはないんでしょうね。

台本を読み込んでとにかく想像力を働かせる。他のキャラクターとの発信と受信を通してその時々の華雄の感情を突き詰める。

だから笑顔の時は全力で笑顔だし、悲痛な時は全力で悲痛。

ただ大きい声を出しているだけじゃないんですよ。そういうキャラクターなんだと観客に感じさせる説得力。それが華雄にはありました。

それでりのさん自身がとってもキュートな方なので「りの! 可愛いよ窪津りの!」なんですよ。本当にそれに尽きます。

 

もちろんそれだけが本作の魅力じゃなくて、話も三国志のことをよく知らない私が見てもわかるようになっていたのも良かったですね。

三国志のキャラクターは本当に有名な劉備や張飛、関羽や曹操くらいしか知らないんです。

それと『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』で覚えた孔明とかね。

でもそれくらいの知識しかなくても話はわかりました。

 

あと本作に関しては作品を観る前に張角役のHazkyさんの路上ライブに何度か行きました。

他にも1月から6月の間で参加した俳優さんの別の舞台を観に行ったりとかして、そこで交流して三国志IFを観劇したとかそういう想い出がありますね。

 

こっからはどうでもいい本当に個人的な心情の話なんですが、演劇を観に行く理由って作品を観るのはもちろんなんですが人に会いたいって理由もあるんですよ。

むしろそれの方が大きいかもしれない。

先述したようにあまり人付き合いが得意ではない分、俳優さんや顔見知りのファンの方と会って話せる時間が自分には大切なんですよね。

だからもしかしたら、私はエンタメの受信者として健全な姿勢ではないのかもしれません。

考えすぎかもしれないけど、人との交流と同じくらい作品をきちんと受け取ることにも誠実でありたいですね。

 

あとはね、陽projectだけでなく縁あって出会った福岡の劇団に共通して思うことだけどもっとたくさんの人に観て欲しいなと。

面白い作品はたくさんあって演技の上手い人も多い。本当に街の一角だけで完結するのがもったいないなと。

元々舞台とはそういうものなのでしょうが、違う街の人たちが福岡の劇団の作品を観た時に何を感じるのかとっても気になりますね。

場末のブロガーの領分を逸脱した話なんですが、俳優の方々とある程度交流してきたからこそ、この人たちのことをもっとたくさんの人に知って欲しいと思うわけです。

ネットの海に残すブログの記事が、どこかでそのきっかけになればいいんですけどね。

以上、長々と脱線もしながら色々書いてきました。

かなり偏った内容になったかもしれないけど、ずっと見てきた女優が自分の殻を破って新しい一面を見せてくれた作品に立ち会えてよかったです。

そういう感覚もまた、舞台演劇を観る一つの楽しみだと三国志IFを観て感じることができました。