ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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演劇感想『小川夏鈴一人芝居企画』

はじめに

小川夏鈴(おがわかりん)』さんという女優を知ったのは偶然でした。インスタグラムでフォローしている方の投稿を見て「こういう人が福岡にいるんだ」ということを知りました。

 

調べてみると、小川夏鈴さんは東京で活動されドラマ『相棒』にも出演したことがあるとのこと。そして2023年7月に、福岡市の甘棠館Show劇場で一人芝居をされることがわかりました。

相棒は好きなドラマですし、説明するまでもなく超メジャーな作品です。初めて知った女優さんですが、これはぜひ観劇したいと思いました。

これが私が小川夏鈴さんを知った経緯です。

『スポットライト』

芝居は二部構成でした。第一部のタイトルは『スポットライト』で、不慮の死を遂げた女性の魂が現世でそれまでの人生を振り返るといった内容です。

上演前に夏鈴さんの挨拶があり、そこで初めて生で本物の彼女を見ました。

個人的にですが、洗練されているというか自分が出会ってきた福岡の女優さんたちとはまた違った印象を受けました。

言語化するのは難しいのですが、初めて観るのに「この人が出るなら大丈夫」といった不思議な雰囲気を感じたのを覚えています。それはやはり、ずっと東京でやってこられた風格が客席の私にも伝わってきたのかなと。

 

作中では死んだ女性の人生が色々と語られるんですが、悲惨さは感じず逆にユーモアを感じました。

主人公の語りの中で「人生で一番最後に観た映画がゴジラだった」みたいな台詞があって、彼女自身はそれを後悔している様子。

だけど怪獣ファンとしては「いやいや!人生最後の映画がゴジラなんて最高じゃねぇか!」と思いました。

終演後にお客さんを見送る挨拶をされていた夏鈴さんにそのことを伝えたんですが、実はこの劇場のすぐ近く、福岡タワーでゴジラが戦ったことがあると喉から出かけました。そこは抑えましたが。

 

話が横道にそれましたが、一人芝居を観た経験が一回しかない私でも素直に面白かったですね。

今になって気づいたんですが、一人芝居に関しては演じてる俳優さんの魅力が99%だなと。

舞台演劇って、普通は演技はもちろんストーリーとかアクションとか色々魅力があるわけです。それは一人芝居でも基本的に同じですが、決定的な違いは役者が一人しかいないこと。

だからどんな話であっても、つまるところ観ていて『この俳優何か凄い』って思えたら私は面白かったんですね。

色々と悲惨な境遇の女性だったんですが、それでも暗さを感じずラストにほんの少しの救いを感じれたのは夏鈴さんの感情表現のおかげだったのだと思います。

モノロオグ

第二部のタイトルは『モノロオグ』で、これは劇作家の『岸田國士(きしだくにお)』さんの戯曲が原作です。

岸田國士さんという人は明治から昭和にかけて生きた方で、調べてみると次女は女優の岸田今日子さんで甥は岸田森さん。

 

そう!『怪奇大作戦』や『帰ってきたウルトラマン』などの円谷プロ作品だけでなく、『ゴジラ対メカゴジラ』や『太陽戦隊サンバルカン』にも出演した特撮ファンにとって伝説の俳優であるあの岸田森さん!

 

岸田森さんの親族が芸能関係者という話は昔なにかの書籍で読んだ記憶はありますが、恥ずかしながら岸田國士さんが森さんの親族とは把握していませんでした。

 

またまた話が脇道にそれましたが『モノロオグ』は『スポットライト』以上に小川夏鈴さんの魅力を感じることができました。

外国人と交際していた女性が久しぶりに彼の下宿を訪ねる。そこに彼の姿はなく、残された女性がその部屋で過ぎ去った彼との日々を想い出すというもの。

 

作家のことを知らなければ作品の事も知らず、本当に事前情報は何もなく観ました。

かなり繊細な女性の気持ちが描かれているんですが、終演後に夏鈴さん自身が語っていたようにこれを男性が書いたということが凄いと思いましたね。

 

女性と相手の外国人は次に会う約束をしない仲だったそうで、それは一見すると凄く自由な大人の関係に感じます。

だけどドライなようでじつはかなり情のこもった関係だったんですね。いろいろすべてを受け止めたような台詞を女性が言うのですが、それは強がりなんだろうなと。

それがわかるから、この女性を可愛い人と感じてしまうのは私も男だからでしょうか。『モノロオグ』での小川夏鈴さんの衣装は着物だったんですがこれがよく似合う。

 

雰囲気が完全に作品の中に溶け込んでいて違和感がなかったんです。舞台に置いてあるのはベッドや椅子などの小道具なんですが、そこに夏鈴さん演じる女性がいることが凄く自然に感じられました。

何よりもこの女性の妖艶さや儚さに魅了されました。一人芝居という相手が不在の状況の中で「この人はここにいない外国人の姿を受信しているんだ」と観客が想像できる演技力です。

終わりに

福岡で演劇を観始めて2年が経ちましたが、今夏の『小川夏鈴一人芝居企画』を観て今後の演劇鑑賞に楽しみが増えました。小川夏鈴という新しい風が福岡の俳優さんたちと出会った時にどんな反応が起き、どんな作品が生まれるのか。そのことに期待を持てる公演でした。