ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

日々の中で出会った映画・本・お店、演劇や物などを総合的に紹介する雑記ブログです。

『井上泰幸展』に行ってきました

はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」

 

f:id:YUUGA_1235:20210728013358j:plain

こんにちは、管理人の侑芽です。

2021年7月17日、佐世保市博物館島瀬美術センターへ『井上泰展』を観に行きました。

恐らく佐世保に行くには4年ぶり‥‥‥ 本当に久しぶりでした。

この日が展示会の初日でしたが、奇しくも2021年の7月17日は初代ウルトラマンの第1話が放送されて55年目に当たります。

この記念すべき日に円谷英二特技監督時代の特撮映画を支え、その後も数々の映画に参加された井上泰幸さんの展示会を観れたことがとても嬉しかったです。

 

井上さんは1922年に福岡県古賀市(当時は糟屋郡小野村)で生まれました。

終戦後、映画業界に入った井上さんはいくつかの作品に携わった後1954年公開の『ゴジラ』の制作に参加します。

それをきっかけに、その後のゴジラシリーズだけでなく『空の大怪獣ラドン』や『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』など数々の名作で美術助手、美術監督を担当されました。

具体的にはスタッフが世界観を共有するために必要となるセットのイメージボードの作成や図面・ミニチュア作成などが仕事内容となります。

井上さんの凄い所はそうした仕事だけにとどまらず、作品によっては絵コンテや怪獣のデザイン、予算管理なども担当されていたこと。

f:id:YUUGA_1235:20210728013121j:plain

私が訪れた日は、特撮作品の美術監督として活躍されている三池敏夫さんのトークイベントがありました。

三池さんが会場を回りながら展示物について解説されたのですが、それによると絵コンテなどの作業は本来は美術監督の仕事ではないとのこと。

しかし現場で作品の製作を進めるために、井上さんがそうした仕事を担当されることもあったそうです。

 

三池さんのお話から感じたのは、井上さんはまさに『縁の下の力持ち』であったこと。

井上さんがいなけれ私たちが知っている名作も違う形のものになっていたかもしれません。

それを最も感じたのは『ゴジラ対ヘドラ』のコーナーでした。

 

f:id:YUUGA_1235:20210728021808j:plain

残された数々の展示品の中には、作中の印象的な場面を描いたものがありました。

ほぼそのまま映像化されていたのですが、実は私は子どもの頃『ゴジラ対ヘドラ』が恐くてたまらなかったんです。

小さい頃ビデオで借りてきても最後まで見れなくて、ようやく全てを見たのは小学校高学年になってからでした。その時もまだ恐かったのですが‥‥‥

とにかくヘドラが出てくる場面全部が恐かったんですが、だからこそ本作は私にとって強いインパクトを持った作品になりました。

井上さんはヘドラのデザインも担当されていますが、おどろおどろしいヘドラの姿は他の怪獣にはない独特の魅力を放っています。

ヘドラのデザインも特撮の場面も強烈な印象を持つ本作ですが、もしも井上さんが担当していなかったらここまでのものにはならなかったでしょう。

自分自身が映画から受けた衝撃を思い出すことで、改めて井上さんの凄さに触れたようでした。

 

今回の展示会が開催された佐世保は、実は井上さんとご縁がある場所です。

『空の大怪獣ラドン』でラドンが襲った西海橋は佐世保にあり、劇中でも当時の佐世保の街が登場します。

また展示会最大の目玉が、劇中でラドンが襲った福岡市天神にある『岩田屋』を再現した巨大なミニチュアでした。

f:id:YUUGA_1235:20210728021749j:plain

 

f:id:YUUGA_1235:20210728013716j:plain

間近で見た時にその大きさに圧倒されましたが、同時にこの上に乗っかっていたラドンの大きさも想像して空想の世界に思いを馳せました。

故郷の福岡が登場するため、井上さんは大変な情熱を持って本作に取り組まれたとのことです。

三池さんのお話を聞いて初めて気が付いたのですが、岩田屋のミニチュアには足場まで正確に再現してあります。

ここまで再現しなくても撮影は可能であるにも関わらず、井上さんはロケハンの写真を元に徹底して細部まで作り込まれました。

井上さんの本作にかけた情熱と、美術という仕事への誇りや姿勢‥‥‥ そういったものを感じ胸が熱くなりました。

 

f:id:YUUGA_1235:20210728013140j:plain

この日会場には九州中からたくさんの特撮ファンが駆けつけました。

私も久しぶりに特撮仲間の皆さんとお会いしたのですが、中には数年ぶりに会えた方もいてとても嬉しかったです。

新型コロナウイルスによって厳しい状況が続いており、私自身もきつい時がありました。

これまで当たり前のように行けていたイベントも中止や延期が相次ぎました。

自分では大丈夫だと思っていても、イベントで同じ趣味の仲間と語らう時間がないストレスはいつしか心から余裕を奪い、気付かないうちに人にご迷惑をお掛けしたこともあります。

しかしこの日は展示会を観て沢山の人に会えたことで、本当に楽しい一日になりました。

久しぶりに出かけてみて改めて世界は広く、楽しいことは沢山あることを思い出しました。

f:id:YUUGA_1235:20210728013230j:plain

会場で出会った皆さんありがとうございました。

楽しいお話を聞かせていただいた三池敏夫さん、残された資料を保存してくださっていた井上さんの姪である東郷登代美さんありがとうございました。

そして素晴らしい名作と、この日の大切な想い出を与えて下さった井上泰幸さんに心より感謝いたします。

 

※『井上泰幸展』は島瀬美術センターで2021年8月29日まで開催中です。