はじめに
人の人生って大変なことの方が多いかも。でも、悪いことばかりでもないと思うんです。(中略)生きててよかったなあと思うことも結構あると思うんです。 生きるって確かに辛いけど、生きるってやっぱり素敵なことですよ。
引用:仮面ライダークウガ 第28話 東映
この記事を書く前に、私はたまたま特撮ヒーロー番組「仮面ライダークウガ」の配信を観ていました。2000年の作品です。
その中で語られてたこの台詞。放送当時聞いていたはずなのに、忘れていた台詞でした。
あの頃から長い月日が流れました。今、この言葉に込められた思いを強く感じています。
生きていく中で起こった素敵な出会い。それは、いつか必ず来る別れの寂しさを伴っている。
だけどそれでもそんな素敵な出会いがあって、それは本当にかけがえのない大切な時間だったと思うのです。
彼女がいてくれたから、たくさんの人とも会えた。
彼女は私とたくさんの人に『虹の橋』を作って結んでくれたメイドさんです。
お店の扉 本の扉
福岡市にあるメイドカフェ「めるドナ」というお店に来たのは偶然でした。
その日はハロウィンで何となく街に繰り出したものの、人の多い場所に行く気にもなれずどこか入れるお店を探していました。
しかし、お目当てのお店はすでに営業時間外。
どうにか探し当てたまだ開いているお店。それが「めるドナ」でした。
その後のことを思えば信じられないけど、最初は入ることに躊躇していました。
まだコンセプトカフェに慣れていない時期でしたし、はじめてのお店で不安もあった。
それでも意を決してお店の扉を開く私。目に入ったのは、ピンクを基調とした明るい店内の風景。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
響き渡る明るい声。店内にはハロウィンらしく、メイド服でない衣装を着た三人の女性。
「お屋敷は初めてですか?」
通された席で、私は初めて来た客へのアンケートを記載しました。好きなキャラクターにウルトラマンと書く私。
「あ、あの子もウルトラマンとか仮面ライダーが好きなんですよ!」
そう教えてくれたメイドさんの視線の先には、男装姿の一人のメイドさん。とても格好良くて、クールな表情が印象的でした。
「特撮だとウルトラセブンや仮面ライダーV3が好きなんです」
意外な言葉に驚きました。どちらもかなり古い作品で、私ですら大きく世代がずれていたから。
ただ、同時にどちらも小さい頃からビデオで繰り返し見て親しんだ作品。それが好きな彼女に一発で親近感が湧きました。
よくよく話してみると、彼女は読書も大好き。
「どんな本を最近読まれたんですか?」
彼女が質問しました。
「最近は辻村深月という人の『凍りのくじら』って小説を読みました」
「あ! 私も辻村先生大好きなんです!」
クールに見えた印象とは逆に、話しやすい明るい笑顔。
それから話は弾みました。本当に楽しくて、今日が初めて来たということを忘れる程。
これが私と彼女の出会いです。
今思い返せばこの日彼女に出会ったのも、どこか「運命」のようなものを感じます。
もし店探しを諦め帰っていたら。私が辻村深月さんという作家を知ったのも、この日からたった数カ月前でした。
もし知らなかったら、あんなにも最初から打ち解けることができたか‥‥‥
そして、もし彼女がこの日店にいなかったら。
めるドナも自分の中でたくさんある『行ったことのある店の一つ』として、その後通うこともなかったと思います。
私がこのお店にまた行きたいと思った理由、それはこの日出会った彼女にまた会いたいと思ったからでした。
夢で会った人々
あの日から今日までたくさんのことがありました。
彼女に会いたいと足を延ばすようになったお店。その内に、たくさんのメイドさんと私は出会いました。
そこで生まれる交流。それまで本格的に使ったことのなかったSNSも使って、彼女たちの明るい投稿を楽しみにする日々。
それまでの私からは想像できない日々でした。今の私は以前より人に話しかけるのが苦ではありません。
そうなれたのはお店でたくさん話すこと、話すために色々な情報を集めてみることをやった。
自分でも気づかないうちにそうしたことが積み重なっていたからだと思います。
そのきっかけをくれたのは紛れもなく彼女でした。
この間の日々は、お店以外でも新しい出会いが多くありました。
それこそ、少し前は会えるなんて思ってもいなかった人との出会いもたくさん。
それは何度もあり、まるで夢を見ているかのようでした。
でも、自分から話しかけなければ上手くいかなかったことも多々あります。
そうした出来事に出会う度「彼女に会えて良かった」と思うのでした。
仕事の関係で精神的に辛い時期も有りました。
それでも心が折れずにいられたのは、お店にまた行きたいという思いがあったから。
人の心を癒すのは、やはり人の温かさとか明るさに触れた時だと考えています。
彼女はいつも温かく迎えてくれました。
男装の時はクールな表情を見せる彼女も、普段はとてもかっこ可愛い笑顔。
同時に、仕事の態度は堂々としていてそれもまた格好良かった。
いつだったか、これまで様々なことを経験してきたと話してくれました。
それは、変化の乏しい日常を送ってきた私からはとても想像できないこと。
そうした様々な経験が今の彼女を作った。社会人として尊敬すると同時に、もっとたくさん彼女のことを知りたいと思いました。
夢見る力
どんな出会いにも別れはある。
それは、常に分かっていたことでした。実際、お店で慣れ親しんだ方の卒業は何度か見送りました。
それでも私にとって大切な、かけがえのない存在である彼女の卒業を知った時身体から全ての力が抜けてしまったことを覚えています。
それでも、その寂しさから学んだのは「会える時間を大切にすること」でした。
彼女はそのことを最後に教えてくれました。
まるで、地球を離れる際に地球人に大切なことを教えて故郷に帰っていったウルトラセブンのように。
あまり特撮に詳しくない方には恐縮ですが、セブンも含めたウルトラマン達は多くが地球での活動を終えると故郷の星に帰らねばなりません。
それは、同じ時を過ごし絆を深め合った地球人の仲間との別れを意味しています。
ウルトラマンが地球にいた時間‥‥‥
それは作中の人物にとっても、現実の視聴者にとってもかけがえのない夢のような大切な時間。
メイドさんもそれと似ているなって感じるんです。
私が出会った素敵なメイドさん。彼女の故郷は遠い西の島と聞いたことがあります。
それは、最初のウルトラマンとウルトラセブンのシナリオを手掛けた脚本家の故郷。
ある意味で、彼女の故郷はウルトラマンの故郷・M78星雲ではないか‥‥‥
彼女は遠いウルトラの星から、私たちに笑顔と優しさを届けるためにやって来た使者。
そう思うと、本当に彼女には感謝しても感謝しきれません。
これから、彼女はメイドとしての名前から離れて生きていく。
メイドとしての彼女しか知らない身からすると寂しさがあります。
だけど思うのです。
「メイドであろうとそうでなかろうと、彼女は彼女に変わりない」
例え何処にいても、名前が変わっても私が出会い大切な思い出をもらった彼女は彼女だから。これからもずっと。
そして願っています。
いつか、この丸い地球の上で再び彼女に会える日が来ることを。
まるで地球を離れたウルトラマン達が、再び地球人の前に姿を現す時があるように。
彼女がいた魔法のような、夢のような時間。そこから生まれた出会い、それにより貰った明るい気持ち。
再び彼女に会える日が来るまで、その魔法を自分の力にして生きて生きたい。
地球は人類の手で守るように、自分の人生は自分の力で生きる。
大切なことを彼女は教えてくれました。
虹の彼方
私は光だ。二度と会えないわけではない。誰の心の中にも光はある。目を開いて周りを見れば、きっと私が見える。
引用:ウルトラマンパワード 第13話 円谷プロダクション
ウルトラマンは、人の心にある勇気や優しさが具現化したものという見方があります。
そうした人の心はしばしば「光」という例えで使われます。
私がめるドナで出会った彼女。それは、大切な思い出と希望をくれた私の「光」でした。
素敵な面をたくさん持っていた彼女。彼女の持つ光は、まるでいくつもの美しい色が重なった「虹」のようでした。
会えなくなっても、その光はいつも私の周りにあります。
彼女が教えてくれた本を開く時。彼女が好きだと言っていたアニメや漫画を見る時。
目を開いて周りを見れば、私の周りにはいつだって彼女がいます。
何よりこれからお店に行く度に、この場所で同じ時を過ごした彼女の存在が息づいていることを感じるでしょう。
きっと、私がめるドナで彼女から貰ったたくさんのものを彼女が次に出会う人達も待っている。
虹の橋を渡りその向こうへ。これからその先に向かう彼女の幸せを心から祈ります。
私がお店で最初に出会ったメイドさん。私は貴方のことをこれからも永遠に忘れません。
そしてこれからどこかで虹を見る度に、私は彼女のことを思い出すでしょう。
長い間本当にお疲れ様でした。
未来という虹の彼方へ。
「ありがとうございました。行ってらっしゃいませ」