ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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漫画「神の獣」紹介と感想(ネタバレ有) 怪獣ファンへの注射

こんにちは、管理人の侑芽です。

私が一番好きな特撮作品「ウルトラマンG(グレート)」。その最終回前後編は、環境破壊を続ける人類を滅ぼすために地球がコダラーとシラリーという伝説二大怪獣を出現させる…… という内容でした。

最終的にコダラーは人類に、シラリーはウルトラマングレートに倒されます。

グレートからこれまでの在り方を改めるチャンスを人類が与えられ、希望を感じる最終回でした。

しかし、よく考えればコダラーもシラリーも謎があります。例えば地球が出現させたことになってますが、彼らを作ったのが地球自身なのか、それとも別の存在なのか等。

とはいえ、この「地球が出現させた怪獣」というアイデアはその後のウルトラシリーズや、怪獣が登場する他作品でも度々使われるアイデアとなります。

前置きが長くなりましたが、今回ご紹介する漫画「神の獣」は「地球が出現させた怪獣」が登場する作品として衝撃的且つ完成度の高い漫画だと感じます。

1992年に単行本が発売された本作。公式なアナウンスはありませんが、中には後年に発表された映画に近い描写もあります。

そういう意味でも、怪獣ファンなら一度は読みたい漫画です。

「神の獣」あらすじ

199X年、東京湾で発生した巨大地震で謎の島が隆起。それは古代の遺跡だった。

時を同じくして出現する身長200メートルの巨大怪獣。「オーガ」と名付けられた怪獣は、環境破壊を続ける人類を滅ぼすために現れた地球の化身だった‥‥‥

「神の獣」と他作品の関係性

この作品について目にする意見が「シン・ゴジラは本作のオマージュ」というもの。

・突然現れて東京を破壊する。
・攻撃に合わせて自身を変化させる。
・完全停止して休眠期間を持つ。

こうしたオーガの描写からは、確かにシン・ゴジラを思い出しました。

ただ個人的にシン・ゴジラを思ったのはこの三つくらいで、むしろ私が思い浮かんべたのは2017年から展開されたアニメのゴジラ(通称アニゴジ)でした。

一度人類の手で倒したかに見えて実は…… という展開。物語の結末、訴えられてくるテーマなどです。

さらに、古代文明というオカルト的な要素は1995年から展開された「平成ガメラ三部作」を彷彿とさせます。

非常にざっくりと思いかんだだけで恐縮ですが、いずれも日本を代表する「怪獣が登場する作品群」。

ウルトラシリーズだと先に挙げた「ウルトラマンG」の伝説二大怪獣や、「ウルトラマンパワード」に登場したパワードザンボラーにもオーガの面影を感じました。

オーガは作中で「地球の構造と酷似した身体の作り」をしていると分析されます。

パワードザンボラーもまるで火山が怪獣になったようで、ウルトラマンパワードの光線も効きませんでした。

時期的なことを考えれば、伝説二大怪獣の方が先なので「神の獣」のアイデアに影響があったのかもしれません。

ですが、仮にそうだったとしても本作の存在感は独特です。

様々な作品を挙げましたが、1992年という発表時期を考えればかなり時代を先取りした作品だといえるでしょう。

当時の怪獣物といえばゴジラシリーズの「平成VSシリーズ」が全盛の時代。

1992年に公開されたのは、シリーズ中で最もファミリー層が意識された「ゴジラVSモスラ」でした。

そんな時代に、時間を越えて出現したような「神の獣」。

まるで、怪獣物の未来を暗示するような作品です。

感想

他の怪獣物に似ているという意識を一度外し、作品単体を振り返っての感想。

「骨太」という印象が真っ先に浮かびました。本作のテーマは「人間の尊厳」だと思います。

オーガは人間の文明から発せられるエネルギーを使い攻撃してきます。逆いうと、それさえなければ被害を抑えることができるのです。

文明こそ人間が人間である証。

文明を捨てて(人間であることを放棄して)生き残るか。人間らしく文明の力でオーガと戦い抜くか。

地球という大きすぎる存在を前にした人類への問いかけです。

ラストはショッキングなんですが、このテーマが一貫しているお陰で後味の悪さは感じず、むしろ潔い気持ちにもなれました。

一冊のコミック通しての話なので、映画を観終わった後のような気分になります。

怪獣「オーガ」の圧倒的な存在感も魅力ですね。

正直、ウルトラマンでもゴジラでも勝てないと思います。チートラマンクラスになると話は別ですが、つまりそれだけの印象を読者に与えてるということですね。

同じ「オーガ」ですが、さすがに範馬勇次郎でも勝てないでしょう。

オーガの存在そのものが文明へのアンチテーゼになっている。そこは「ウルトラマンマックス」に登場した完全生命体イフに通じるものがあります。

もしイフがあのまま暴れ続けたら…… 「神の獣」はイフが登場した「第3惑星の奇跡」の文字通りifの側面も感じます。

怪獣物というと、多くの作品で「やっぱり一番怖いのは人間」ということが描かれている。

でも「神の獣」は違う。一番怖いのは「地球という自然の力」だと示されていました。

何というか、同じ人間なら問題があっても対処の仕方はあるかもしれないけど地球となるとそれがない。

それに恐さを感じましたね。

シン・ゴジラみたいに多数の登場人物が出てくるんですが、メインで描かれる人数は限られているので混乱することはないと思います。

みんな一生懸命に生きるんですが、でもそれは…… みたいな展開に拒絶感を感じる方もいるかもしれません。

そこは賛否別れるところかもしれないけど、どう感じるかは読者それぞれに委ねられているのでしょうね。

本作のラストでオーガによって人類は絶滅します。例えるなら富野由悠季監督作品のような全滅エンドです。

個人的には全滅エンドってやはり暗い気分になるから苦手ではあるんですが、ヒーローがいると見え辛くなってしまうテーマが「神の獣」だとストレートに伝わってきました。

閃いたのが、これは「注射」みたいなもの。はっきりとしたバットエンドの怪獣物に触れることで、今後色々な作品を受け入れられる抗体が自分の中にできるんじゃないかと。

だから、知らない人にも一度は読んで欲しいなと思いました。

作者の巴啓祐さんという方は探しても他の作品が見当たりませんでした。

今どうしておられるのかもわかりませんが、これだけのクオリティの作品。是非、巴さんの他の作品も読んでみたかったですね。