はじめに
「ストーリー」とは何かを考えた時に、それは「作中の人物、またはその人物を取り巻く環境や状況が変化していく様子を描くもの」と考えます。
ポケモンなら、主人公がポケモンを集めてどんどん仲間を増やしていく過程を。
ドラえもんであれば、秘密道具を使ったのび太がしっぺ返しに遭い道具に頼る気持ちを反省する過程。または道具の効力で迷惑を被る周囲の様子。
自然を撮影したドキュメンタリーにも、四季の変化や新たな命の誕生といったストーリーがあります。
中でもドラゴンボールの孫悟空のように主人公が戦って成長していくストーリーは、古今東西あらゆる物語で使われる王道のストーリーといえるでしょう。
これはバトル漫画に限らず、ロボット物でもファンタジー物でも特撮でも多くのジャンルに当てはまります。
前置きが長くなりましたが、「ドゲンジャーズ」もまたこの王道の物語に沿った作品でした。
キャラクター達の強力な個性が印象的な本作。ですが、それを輝かせたのはストーリーの力あってのこと。
今回はドゲンジャーズの魅力をストーリーの面から考えると同時に、そこから見えてきたヒット作に共通する法則について綴ります。
スターウォーズとドゲンジャーズ 描かれる主人公の成長
ドゲンジャーズのストーリーは大きく前半と後半に分けられます。
主人公・田中が福岡のヒーロー達と出会いその姿と正義に触れて成長していく前半1~6話。
怪人・アイドールとの戦いからヒーロー達の分裂・再生を経て最終決戦を迎える後半7~12話。
全編を通して描かれるのが田中の成長であることに異論はないでしょう。
一度は結束を見せたヒーロー達が、アイドールの一件で分裂したのは田中にとって最大の危機でした。
それを乗り越えて熱い最終決戦に流れ込むわけですが、ここにあるヒット作の法則が伺えます。
「スターウォーズ エピソード4新たなる希望」です。
ストーリーは主人公ルーク・スカイウォーカーがある日いきなり、帝国軍と反乱軍の争いに巻き込まれその中で成長していく物語でした。
この突然争いに巻き込まれなし崩し的に戦わなければならなくなった境遇は、田中とルークに共通しています。
またストーリー中盤で、ルークはハン・ソロやレイア・オーガナといった仲間が出来て状況が好転した時に師匠オビ=ワン・ケノービの死に襲われました。
一方田中も、中盤でヒーロー達の正義に触れ成長し一人でも度戦えるようになった時にアイドールの一件でヒーローの分裂に襲われました。
田中もルークも最終的に、こうした試練を乗り越え戦いに勝利します。
いうまでもなく「スターウォーズ エピソード4新たなる希望」は世界的にヒットした映画です。
その物語を紐解くと、見えてくるのは悩みを抱えた主人公が試練を通して仲間ができ自分自身が成長していく物語です。
これは本当に多くの物語に見られるパターンです。「ロッキー」も「ガンダム」もそうですね。
ひたすらに良いことだけが続くのではなく、中盤で一度大きな試練が襲ってきてそこから盛り返すカタルシス。
キタキュウマンが田中に本心を打ち明けた場面で胸が熱くなるのは、中盤の分裂という試練があってこそのものでした。
元々田中は、幼馴染のゆきを別れる際に言葉をかけてあげられなかった悩みを持っていた。
ルークは星を出る夢を叶えられない日々に鬱屈を抱えていた。
どちらも弱い部分を持つ主人公ですが、それ故に見ている人間は主人公に現実でヒーローになれない自分を重ねることができます。
だからこそ、主人公が強くなっていく姿に魅力を感じるのです。
ドゲンジャーズは、田中の成長をきちんと過程を踏んで描いていました。
これが数々のヒット作と同様の構図のストーリーで描かれたとなれば面白くならないわけがありません。
田中の成長とヒーロー達の成長 鬼滅の刃に通じる二つのプロット
ドゲンジャーズが抜け目ないのは、田中の成長というプロットにもう一つのプロットを重ねたことです。
それにより、12話ある物語の全てが面白いエピソードとなっていました。
もう一つのプロットとはすなわち「ヒーロー達の成長」です。
各ヒーロー達の考察記事でも紹介したように、ドゲンジャーズではルーキー以外のヒーローの「枠を超える戦い」が描かれました。
それは言い換えればそれぞれのヒーローの成長物語でした。
大きな柱である田中=ルーキーの成長の中に他のヒーローの成長を織り交ぜた構成。
この構成があるからこそ、ヒーロー達がルーキーの引き立て役のみに収まらない魅力を発揮出来ました。
こうした構成、どこかで見た覚えはありませんか?
個人的に、昨年アニメ化され大ヒットした「鬼滅の刃」を思い出しました。
鬼滅の刃は中盤から主人公・炭治郎とその仲間達と「柱」と呼ばれる炭治郎達より上位の戦士達との共闘が描かれるようになります。
柱と一緒に戦うことで、炭治郎達はそれまで以上に成長していきます。
同時に、柱もまた炭治郎達と一緒に戦う中で自分の過去の傷と向かい合うなどして成長していきました。
こうしたストーリー構成は、主人公と他の人物のどちから片方に描写が偏ることなく物語を描ける利点があると考えます。
ここに更に敵の成長まで加えれば、先の展開が気になること間違いなしです。
田中だけを未熟な存在として描く方法もあったと思います。
しかし、ドゲンジャーズは二つのプロットがあることでヒーロー達全員にストーリーを用意することに成功していました。
ヒットする創作物に必要なものとは
多くの物語で使用されている主人公の成長。
ドゲンジャーズのストーリーは、それに極めて忠実に作られていました。
この試みが成功したのは12話という話数も無関係ではないと考えます。
特撮で50話近い話となると、どうしても大きな柱となる物語以外のことも描かねばならなりません、
制作側の意思疎通がうまくいっていないと、主人公が成長した部分が描かれず却って以前と変わらない描写になってしまう可能性もあります。
その点、ドゲンジャーズは短い話数を利用し一貫性のある物語を描き切りました。
創作物において、何を描けるかはその媒体に左右される部分があると思います。
時間がきっかり決まっている映画ならその時間の中で描き切れる題材を。
500ページの小説なら、その中で描ける題材を。
ドゲンジャーズはその題材選びに見事に成功していました。
それは、印象的な毎回のラストの引きからも感じられます。
コミカル作中の中に存在する綿密に計算された構成。
そして、いつの時代も受け入れられる普遍性のあるストーリー。
溢れるばかりのアニメや特撮作品が制作される中で、何故ドゲンジャーズがこれほどの支持と評価を得たのか。
そのストーリーの作りからは学ぶべきことは多いのではないでしょうか?