「枠(ローカル)を超えろ」
福岡で2020年4月から6月まで放送され大人気となった特撮番組「ドゲンジャーズ」のキャッチコピーです。
ローカル番組でありながら回を追うごとに注目を集めていったドゲンジャーズ。
インターネットでの配信も手伝い、福岡だけに留まらない幅広い人気を得ました。
最終回放送後にTwitterのトレンドで全国一位を獲得。
番組制作に携わった「悪の秘密結社」が行ったヒーローのスーツを修繕費を集めるクラウドファンディングは一時間で目標達成。
もちろん福岡での人気も大変なもの。
2020年6月に市内にある香椎花園で行われたショーは満員を記録、グッズも完売が続出するなど凄まじい熱気でした。
監督に「行って帰ってきた列車戦隊トッキュウジャー夢の超トッキュウ7号」で戦隊初の女性監督を努めた荒川史絵を起用。
押川善文、横山一敏といった東映特撮作品に参加したスーツアクターが参戦。
ローカル番組の枠を超えた豪華なスタッフが多数揃った番組となりました。
主演に舞台を中心に俳優・声優とマルチに活躍する正木郁(まさきかおる)。
ヒロイン役は九州のアイドルグループLinQ卒業生で、女優業へ活躍の場を広げる桃咲まゆ。
将来性溢れる二人のキャストの演技は作品に爽やかさと若さを与えていました。
主題歌を担当したのは熊本県出身で現在は東京を中心に活動するシンガー・児塚あすか。
OP曲「なんしよーと?ドゲンジャーズ!」はCDが完売するなど高い人気を得ました。
その人気から最終回直後に2期の製作も発表。ますます注目が高まっています。
何故ドゲンジャーズがこれほどの支持を得たのか?
この素晴らしい作品をリアルタイムで視聴した者として、作品の魅力を記録に残すために自分なりに考察してみたいと思います。
まずは作品の顔であるヒーロー達の魅力について考察します。
自身の枠を超えるヒーロー
今作に登場するヒーロー達は、ルーキーを除き1話以前から活動していたという設定です。
第1話冒頭で、全員が既に戦いに慣れたベテランであることがシャベリーマンの姿を通して描かれていました。
彼らと関わることで主人公・田中次郎=ルーキーが成長していくのが物語の基本構成です。
ですが、同時に今作はベテランヒーローの成長物語でもありました。
金印をキーアイテムにした「金印事件」ともいうべきドゲンジャーズで描かれた戦い。
この戦いで、ヒーロー達はそれぞれの「枠」を超える戦いを見せます。
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キタキュウマン ヒーローの枠を超える戦い
北九州市のヒーローであるキタキュウマン。その特徴は「戦わない」こと。
その姿勢は本編中でも一貫していました。
しかし、それこそがキタキュウマンの戦いです。
金印により力を増した悪の秘密結社。普通に考えればキタキュウマンも戦わなければならない状況です。
それでも戦わないキタキュウマン。
ではキタキュウマンはヒーロー達の中で何を担っていたのでしょうか?
ヤバイ仮面の攻撃でバラバラになったヒーロー達。最初に田中と合流したのがキタキュウマンです。
戦いは弟のキタキュウマンメタルに任せるキタキュウマンですが、フランクに市民と交流する姿を田中に見せます。
田中はヒーローへの憧れを持つ青年ですが、キタキュウマンと出会うことでヒーローにも様々な形があることを知ります。
こうした描写から考えられるのは、キタキュウマンは守るべき人々と交流することの大切さを田中に教える役目を担っていたということです。
ヒーローとは「力」を持つ存在です。どんなに正義感が強くても、田中が突然得た力の意味を見失い飲み込まれる可能性は考えられます。
だからこそ、力だけではないヒーローのあり方をキタキュウマンが示す必要があった。
ルーキーが成長途中で強くなり続けるなら、なおさら心の有り方が大事になります。
勿論、大事なところではきちんと戦うキタキュウマン。
ですが、金印事件という危機の中でも自分を貫き通すことで「ヒーローはこうあるべし」という枠を破る戦いをしていた。
まさに市民にとても近い所にいるローカルヒーローならではの戦いといえますし、それが魅力的に見えました。
ヤマシロン 心の枠を超える戦い
レッドロン、アオイロン、ダイダイロンの三人が合体したヒーロー・ヤマシロン。
料理が得意で、オーガマンが手配した田中の家での様子はまるでヒーロー達のお母さんのようでした。
そんなヤマシロンはどんな枠を超えたのでしょうか。
能古島で悪の秘密結社と対峙したヤマシロン。
ヤバイ仮面は合体前のレッドロン達に精神的な揺さぶりをかけることで、彼らを倒そうとしました。
個性も考え方もバラバラであることを否定するヤバイ仮面。
しかし、レッドロンはそれこそがヤマシロンであるとヤバイ仮面の揺さぶりに打ち勝ちます。
この戦いは合体ヒーローであるヤマシロンへの試練でした。
アイデンティティを揺さぶられた時に、悪に打ち勝つために必要なのは自分と仲間を信じること。
それまでの心の枠を超えた境地にヤマシロンは辿り着きました。
ドゲンジャーズは違うヒーローの集まりです。個性が強すぎるため時にぶつかりもする。
だけど、それが良い部分でもあるし楽しい。
ヤマシロンが担うのは、ルーキーに異なる個性の持つ強さを教えること。
それは、ルーキーが仲間と戦う上で欠かせないものでした。
個性を尊重し誰よりも仲間を大切に思う部分がヤマシロンの魅力です。
エルブレイブ 自分の弱さの枠を超える戦い
中間市のプロレスヒーロー・エルブレイブ。
プロレス技を駆使した豪快な戦い方を得意とするヒーローです。
そんなエルブレイブは、実は小柄な体型です。
作中でも様々な人物から「小さい」と言われて、その度に「小さくないよ!」と否定していました。
しかし悪の秘密結社のウザギに敗れ、同僚のおやっさんの言葉を聞いて自分の弱さを認めます。
エルブレイブの弱さとは、自分が小柄であることを認めない小さな意地でした。
そんな自分の弱さを認め、これまで積み重ねてきた努力を信じたエルブレイブはウザギに勝利します。
自分の弱さを認めることは恐いことです。認めたつもりでも、心の中ではやはり否定したくなります。
ですが誤った意地が生むのは、結局そんな自分の心を偽って誤魔化そうとする方向が間違った努力に過ぎません。
自分の弱さを認めることで見えてくる自分のなすべきこと。
エルブレイブは弱さを「受け入れる」ことで弱さの枠を超えました。
ルーキーに、その時々の自分自身をきちんと受けいれることを教える役割を担っていたのです。
努力を重ねることの格好良さを真正面から訴える熱さ。
まさに炎のように赤い見た目が象徴する熱さがエルブレイブの魅力でした。
フクオカリバー 過去の自分の枠を超える戦い
福岡のヒーロー達の中で、一番の常識人であるフクオカリバー。
同時に、ドゲンジャーズメンバーの中で一番長く活動してきたヒーローでもあります。
気弱な怪人・エボシ武者にも優しく接する穏やかなフクオカリバー。
そんなフクオカリバーが越えた枠とは何でしょうか。
宿敵・修羅王丸と対峙したフクオカリバーは過去の姿に戻され弱体化させられてしまいます。
しかし、その姿を「色々な思い出が詰まった大切な僕」と受け入れ立ち上がり修羅王丸を倒しました。
成長する生き物である人間は、時に過去の自分を恥じます。
特に、中二病と呼ばれる時期の自分を思い出したくない人もいるでしょう。
ですが、今の自分が存在するのは紛れもなくその「思い出したくもない時期」の自分がいるからです。
「今」という結果だけでなく、ここに至るまでの「過程」も大切。
フクオカリバーは過去の自分を受け入れることで枠を超え、今の姿に戻りました。
田中・ルーキーは幼なじみのゆきちゃんに思いを伝えられなかった過去があります。
力を手にした田中が、過程を無視し結果だけを求めるような人間になった可能性もないとはいえません。
フクオカリバーには、過去の自分を大切にする尊さを田中に伝える役割がありました。
一見穏やかながら、やはり誰より長く戦ってきた故の心の強さ。
フクオカリバーの魅力はそうした部分だと感じました。
オーガマン 後継者を育てるための枠を超える戦い
ドゲンジャーズ最強のヒーロー・オーガマン。
オーガマンが戦い越えた枠とは、後継者を育て葛藤する心ではないかと思います。
どういう意味かというと、ルーキーという新ヒーローに望みを託すことがオーガマンの戦いではと思ったからです。
何故オーガマンが田中にルーキーの力を与えたのか。
それは、いつかオーガマンの力を超える脅威が現れた時のためだと考えます。
現に、本気を出せなかったとはいえ金印の力を手にしたヤバイ仮面はオーガマンに迫る力を持っていました。
だからこそ自分と並びやがて追い越す新しいヒーローを必要としました。
田中は善良な人間とはいえ、いきなりヒーローになった試練を超える保証はありません。
かなり唐突にテキパキと田中をルーキーにしたオーガマン。
ですが、その裏には期待と同時に不安もあったのではと思います。
それでもそんな自分の心配と戦い、田中を信じることがオーガマンの戦いだったのではないかと。
オーガマンに関しては描写が少ないため推測が多くなってしまいました。
ですが、社長というオーガマンの設定からみても後継者というのはかなり大事なものではないかと感じます。
威厳ある姿の中に秘めた未来への思い。
ミステリアスな部分も含めた器の大きさを感じさせる姿にオーガマンの魅力を感じます。
何故ヒーロー達が魅力的だったのか
ここでは主にヒーロー達が越えた「枠」にスポットを当てその魅力を探りました。
もちろん、コミカルな描写や必殺技などヒーローの魅力はまだまだたくさんあります。
今回ドゲンジャーズを見て、全員がそれぞれ明確な役割を持って番組に登場していたことが感じられました。
ドゲンジャーズ前半はそれぞれのヒーローにスポットを当てた話が続きます。
それらが意味するものは一つ。
「全ては田中=ルーキーのため」
ヒーロー達の試練もそれを克服する姿も、全ては田中の成長のためにありました。
後半の一度バラバラになる展開も、ヒーロー達の精神的成長を描き田中を盛り上げる役割を果たしていました。
田中のための描写に一寸の隙も無い演出。
それがヒーロー達の魅力を最大限に発揮させました。
もちろんそのためには、これまで作り上げられてきた各キャラのキャラクター性が大切になります。
ドゲンジャーズの冒頭を見直した時に、改めて各キャラクターが一目でどんなキャラなのかわかる描写に驚きました。
一目でわかる個性と目的に沿ったぶれないキャラクター性。
それが、彼らがあれ程まで魅力的だった理由だと感じます。