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ジグザグバイト『助けて!青春ピンチヒッター!!』第1作「青春助けの高校デビュー」感想・レビュー|5部作の幕開け

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はじめに

2026年4月26日。
福岡を中心に活動している劇団ジグザグバイトの『たすけて!青春ピンチヒッター!!』を観劇した。

本作は、リメイクを重ねながら上演されてきた劇団の人気シリーズだ。

実は私も2023年公演を一度観ている。ヒーローが登場するこの作品は、特撮好きの自分にとってたまらない一本であり、同時にジグザグバイトらしい勢いのあるギャグでしっかり笑わせてくれる。

 

会場は天神のエンターテインメント施設『あんみつ姫』。

名前を聞いたことがある人も多いかもしれないが、いわゆる一般的な小劇場とは少し毛色が違う場所だ。

ショー形式の公演を中心に、ダンスやコメディなどを交えた賑やかなステージが特徴で、演者との距離も近い。独特の熱気とライブ感が魅力の空間である。


この日は嵐のラストライブをはじめ、多くのイベントが重なり、街全体がお祭りのような空気に包まれていた。

朝の回にもかかわらず会場は満席。開演前から熱気があり、観客の期待の高さが伝わってくる。

実際、今回の公演も安定して面白く、しっかりと笑わせてもらった。

――ただ、一つだけ強く印象に残った瞬間がある。

主人公・馬場コウタロウが、ヒーロー「ピンチヒッターJ」に初めて変身する場面だ。
本来であれば最も盛り上がるはずのシーン。しかしその瞬間、会場から拍手は起きなかった。

この違和感について、少し考えてみたい。

 

 

作品基本情報

  • タイトル:たすけて!青春ピンチヒッター!! 第1話 青春助けの高校デビュー
  • 上演期間:2026年4月25日〜4月26日
  • 会場:あんみつ姫
  • 脚本・演出:到生
  • キャスト:高瀬龍之介、河村唯衣、足立万実、白瀧姫翠ほか

あらすじ

教育現場が崩壊した20XX年。
私立NB学園高等学校では、生徒の中からヒーローを選出する「ピンチヒッターシステム」によって校内の治安が維持されていた。

ヒーローに憧れる少年・馬場コウタロウは、ひょんなことから中村ユイという少女と出会い、ヒーロー「ピンチヒッターJ」に変身できるメガネを手にする。
こうして、彼の日常は大きく動き出していく。

ヒーローが登場する『演劇』の難しさ

スーパー戦隊や仮面ライダーのファイナルライブツアーを観に行ったことがある。
ヒーローに変身する役を演じた俳優たちが登場する、番組の一年を締めくくるに相応しい豪華なショーだ。

 

そして彼等が登場するシーンや、目の前でテレビで見た「あの」変身ポーズを披露してヒーローが現れる瞬間は、ショーの核だけに最高の盛り上がりを見せる。
観客の割れんばかりの拍手が会場を揺らすのだ。

 

ヒーローが登場する瞬間とは、それだけ特別な場面である。
だからこそピンチヒッターJが初めて登場した瞬間、私の心は興奮した。
きっと拍手喝采だと思った。

 

だが拍手は起きなかった。
ヒーローショーであればこの瞬間、恐らく拍手が起こっていたに違いない。
それは言わば「お約束」であり、観客も暗黙のうちに理解しているルールだ。

 

当たり前だが、ヒーローショーを観る人たちとは客層が異なっていたに違いない。
観客の中には子どもの姿も見られたが、本作はあくまで参加型ではなく鑑賞型の演劇だ。
役者と観客の距離感も、流れる空気もヒーローショーとは異なる。

 

難しいと思った。
もしかしたら私が鑑賞した回だけが例外で、他の回では拍手があったのかもしれない。
私が率先して拍手していれば、もしかしたら他の観客もしてくれた可能性もある。
だがそれをやると、少し出しゃばってしまわないかとその時思った。

 

一番いいのは、拍手してもいいという動線が作品の中に組み込まれていることかもしれない。

ヒーローが登場する。その瞬間にどう反応するか。
それは作品の出来だけで決まるものではなく、場の空気や観客の前提によって大きく変わるのだと感じた。

 

ヒーローショーのように「盛り上がること」が前提の場もあれば、演劇のように「静かに受け取ること」が求められる場もある。
今回の無音の登場シーンは、その違いを強く実感させるものだった。

 

正直に言えば、あの瞬間に拍手があってほしいと思った気持ちは今も変わらない。
だが同時に、あの静けさもまた、この作品が“演劇”であることを象徴する一幕だったのかもしれない。

 

 

俳優陣について

馬場コウタロウ役:高瀬龍之介さん

主人公・コウタロウを演じたのは、ジグザグバイトの劇団員である高瀬龍之介さんです。
これまで脇で作品を支えてきた高瀬さんが、俳優陣の中心として立つ姿にはぐっとくるものがありました。

以前観た『ピンチヒッター』ではコウタロウを女性が演じていましたが、今回は男性が演じることでまた違った味が出ていたと思います。
自分が男だからかもしれませんが、「ヒーローに憧れるオタク」というニュアンスは、今回の方がより強く感じられました。

一方で、スラリとした長身のスタイルはヒーローとして非常に映えています。
特にピンチヒッターJが登場した場面ではその印象が強く、「変身前と変身後が同一人物として成立しているか」という点でも説得力がありました。

もちろん、男性俳優であれば誰でもいいという話ではありません。
いわゆる屈強なヒーロー像とは異なる高瀬さんだからこそ、現時点ではまだ「ヒーローに憧れている段階の人物」としてのコウタロウを自然に表現できていたのだと思います。

中村ユイ役:河村唯衣さん

ヒロイン・中村ユイを演じたのは、ジグザグバイトの劇団員である河村唯衣さんです。

新たに劇団に加入した河村さんが演じるユイは、一言で言えば「勢い」が印象的でした。

 

役柄自体も男勝りなキャラクターですが、それ以上に、河村さん自身が他の俳優に食らいついていこうとするエネルギーがそのまま舞台に出ていたように感じます。

 

その分、ところどころにぎこちなさを感じる場面もありました。
ただ、それも含めて“今のユイ”なのだと思いますし、今後の公演でどう変化していくのか楽しみな部分でもあります。

 

可愛らしさと勢いを併せ持った河村さんの演技からは、新しいヒロインの誕生をしっかりと感じ取ることができました。

脇を固める俳優たち

ジグザグバイトに新たに加入した砂田夢菜さんは、コウタロウと敵対する生徒会の白百合左里奈を演じていました。

抜群のスタイルと凛とした美しさを兼ね備えた砂田さんは、内に葛藤を抱えた左里奈という役にしっかりとハマっており、福岡の演劇界でも今後注目していきたい俳優の一人だと感じました。

 

また、劇団員の足立万実さんや白瀧姫翠さんは、アンサンブルとして複数の役を担っていました。
興味深いのは、二人とも多くの場面に登場しているにもかかわらず、必要以上に前に出てくることがない点です。

主役や主要キャストの見せ場を崩さず、舞台全体のバランスを支える。
そうした“引く演技”を徹底しているところに、プロとしての技術と意識の高さを感じました。

同じくアンサンブルでいくつもの役を演じたミズキさん。

いくつかの舞台を観たことがありますが、どの作品でも存在感が抜群。

満を持して・・・ と私の中では思ったジグザグバイト初参加となった今回のミズキさんでしたが、これまでにない新しい可能性を見せてくれました。

 

それは「歌」です。

以前から声に魅力があると感じていましたが、ピンチヒッターでは歌う場面があり聞き入りました。

これはもう実際に聞いてもらわないと伝わらないと思うのですが、ミズキさんはとにかく声がいい。

もしかしたら他の舞台で既に歌われたことはあったのかもしれませんが、もっとミズキさんの歌を聞きたいと思いました。

 

ジグザグバイトに何度も参加しているベテラン俳優の小沢健次さんは、生徒会の黄金頼三郎を演じていました。
体を張った演技でしっかりと笑いを生み出しつつ、作品全体を支えている存在です。こうしたベテランの安定感があるからこそ、舞台がきちんと締まるのだと感じます。

 

そして改めて、足立さんや白瀧さん、小沢さんといった面々を見ていると、演劇とは本当にチームプレーなのだと思わされます。
笑いに包まれた舞台ではありますが、その裏では誰一人として勝手なことはしていない。それぞれがその瞬間に求められる役割を的確に果たしている。

 

だからこそ、あの舞台は成立しているのだと感じました。

会場、観客の雰囲気

会場となったあんみつ姫がある場所は親不孝通り。
メイドカフェ目当てで何度も訪れていた場所でもある。

先に書いたように会場内は満席で、子ども連れの観客の姿も見られた。
そのため、どこかヒーローショーに近い、明るく開かれた雰囲気があったのが印象的だ。

あんみつ姫の設備を活かした舞台では、これまでとは違う演出も楽しむことができた。
たとえば舞台の一部がせり上がる演出は、小規模な劇場ではなかなか見られないものだろう。

こうした立体的な演出が取り入れられていることで、場面転換にもメリハリが生まれ、最後まで中だるみすることなく作品に没頭することができた。

 

 

まとめ

10周年を迎えたジグザグバイトが放つ今回のピンチヒッターは、5部作という長編作品となっている。

その幕開けとなる『青春助けの高校デビュー』は物語の途中で幕を閉じるが、一つの役を長期間演じていく俳優たちの変化や成長も含めて、今後を楽しみにしたいと感じた。

 

5部作という試みは、まさに諸刃の剣だろう。
物語が連続する以上、途中から観るハードルはどうしても上がる。

 

それでもなおこの形を選んだという事実こそが、『ピンチヒッター』という作品に対する劇団の自信の表れではないだろうか。

 

何より、私自身これほど長期にわたる演劇作品に触れるのは初めてだ。
それが“ヒーロー”という自分にとって馴染み深い題材であるからこそ、この先も見届けたいという気持ちが自然と湧いてきた。

 

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