ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

日々の中で出会った映画・本・お店などのエンタメを紹介する雑記ブログです。小説やウルトラマンをはじめとした特撮を中心に運営中。

星の見えない空に 〜僕と推しと時々ぴえん その5 おわりのはじまり〜

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子どもの頃からずっとウルトラマンが好きだった。

僕が過ごした幼年期は、ウルトラマンシリーズが長くテレビ放送を中断していた時期。

だからビデオレンタル屋(DVDやブルーレイじゃないですよ、ビデオです)で僕が生まれるずっと前の作品をたくさん見ていた。

ネットがある今と違ってその頃はシリーズの再放送もテレビでよくやっていたし『懐かしのテレビ番組特集』みたいな番組もたくさん放送していた。

子ども向けの本もたくさん読んだ。だからド田舎という環境のわりには、比較的情報には充実していたと思う。

だから『帰ってきたウルトラマン』で主人公・郷秀樹の恋人・坂田アキがナックル星人に命を奪われたことや『ウルトラマンA(エース)』で主人公・北斗星司が相棒である南夕子と別れなければならなかったこと。『ウルトラマンレオ』で主人公・おおとりゲンの恋人・山口百子が円盤生物シルバーブルーメに命を奪われたことも知っていた。

 

作品に実際に触れてみて、人生に突然訪れた別れを越えて強くなっていく主人公たちに憧れていたし、現実的な自分の年齢を考えてもどんなことが起きたとしても冷静でいなければといつも自分に言い聞かせてきた・・・ つもりだった。

Smileと交わした言葉

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2022年3月の初めに僕はアイドルグループ『Smile』のライブを観に行った。

福岡市を走る都市高速の上からいつも眺めていたベイサイドホール。

この辺りでいつも来ている場所といえば毎年二回、仮面ライダーとスーパー戦隊のファイナルライブで訪れている福岡サンパレス。

ベイサイドホールの辺りまで実際に来たのははじめてだった。

穏やかな海を見ていると都会の中にいるにも関わらず安心して気分が落ち着く。普段のストレスが和らぐ。それは僕が海の近くで育ったためなのかもしれない。

普段の生活でライブでもなければこの辺まで来ることはまずない。これも推しのくれた一つの機会だったのだと僕は思った。

 

Smileは以前推しが在籍していたグループだ。

この日出演していたメンバーは二人だが、まるでステージの広さが足りなく見えるほど彼女たちのパフォーマンスは躍動感に満ちていた。

彼女たちが卒業する前に、僕にはどうしても会って直接伝えたいことがあった。

「こんにちは。今日は来ていただいてありがとうございました」

ライブ後の物販で僕の番が来た時にメンバーの子が挨拶してくれた。

「とても楽しかったです。実は僕はコンセプトカフェで働いている〇〇

さんという方のファンなのですがご存じですか?」

「ああ! もちろん知っています。可愛いですよね。久しぶりに会いたいなあ」

そう語ってくれたその人の表情は笑顔だった。

お店のメイド以外と推しの話をしているのはどこか不思議な感覚がする。

僕はメイドとしての彼女しか知らないが、その前にも彼女は確かに自分の人生を歩んでいたのだ。

「メイドになったのは憧れもあったけど、人を元気づけたいと思ったからです。アイドルになったのもそう。たった一曲歌うだけで自分も楽しくて人を元気づけられるから。こんな楽しいことはないと思いました」

推しの彼女はそう語っていた。

 

Smileとして活動した日々があったから彼女はメイドになった。だから僕は彼女に会えた。

彼女が働くお店と同様にSmileも間違いなく僕と彼女の縁を作ってくれたと思ったから、この日僕はどうしてもお礼がいいたかったのだ。

「うまくはいえないんですがSmileが彼女を育ててくれたから今の彼女があって、だから僕は会うことができて・・・ そのことに感謝しています。ありがとうございました」

突然やって来たどこの誰かもわからない男にいきなりこんなことをいわれて、戸惑わせてはいないかと心配だったがそれも杞憂に終わった。

「とんでもないです。素敵な子だったから。今日は〇〇さんの話ができてよかったですよ」

その言葉がありがたかった。

聞けばもうすぐメンバーたちももうすぐそれぞれの道に進むという。

「僕がグループを卒業した後の彼女と出会って励まされたように、アイドルを卒業してもその先で貴女たちを待っている人がきっといます。頑張ってください」

カッコつけた台詞だがこれはその時の僕の本心。

自分が推しと過ごす中で感じたこと。それを伝えたことでかって推しと同じ時間を過ごした人たちの背中が推せればと思った。

僕は昔からSmileを見てきたわけではないけれど、そんな僕だからこそ伝えられることだ。

 

次の日お店に出ていた彼女に、物販で買ったSmileのブロマイドを持たせてチェキを撮った。

「ええ!? 観に行ったんですか?」

「うん。ブロマイドを見てごらんよ、君のこともメッセージに書いてあるよ」

それを見た時の彼女の表情はとても嬉しそうだった。

「嬉しいです。ライブも楽しかったな・・・ ブログ書いてください」

突然の言葉に一瞬何のことかわからなかった。

「ブログ? 何の?」

「ライブのことです」

「ああ、なるほど。わかった書くよ」

僕としても書かねばと思っていたところだった。

「色々あって泣いちゃいました・・・ 何があったんでしょうね」

「それを僕に聞かれてもわからないよ」

普段どおりの彼女と話した普段どおりの会話。

長かった時短営業も間もなく開ける。これで夜も彼女に会いに来ることができる。

もうすぐ春だ。過ごしやすくなる。

「いってらっしゃいませご主人様」

彼女に見送られて僕は店を出た。彼女に書いてほしいといわれたことが嬉しかった。

今日も楽しかったという気持ちと、彼女のために書こうという気持ちが胸にあふれた。しかし・・・

空に吠える

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指先が震えている。どれだけ水を飲んでも喉が渇く。胸の奥が苦しくてたまらない。

現実だということが頭では理解できていても心が追いつかない。

誰かに嘘だといってほしかった。しかしそんな望みが叶うはずもない・・・

 

いや、心ではずっと前からわかっていたのだ。いつかはこの日が来ることを。

そのことは常に心に留めてきたし、その時が来たらジタバタせずに受け入れるつもりだった。

彼女のファンとして、彼女より長く生きている人間としてそうしなければならないとずっと自分にいい聞かせてきた。

 

だがそんな頭の中の未来予想図など現実の前では何の役にも立たない。

 

僕がこの店で出会った存在。僕が心から推したいと願った存在。

その彼女がお店を卒業する時がきた。

 

それを知ったのは仕事中。

その時の僕は何を感じていただろうか・・・ 確か「とうとう来たか」と思っていた気がする。

これは別に現実を受け入れていたわけではない。どんなにショックでも仕事は終わりまでこなさなければならない。

だから精神を保つために一旦はこのように考えたのだと思う。

思うというのは卒業のことを知ってからの数時間のことはあまりよく覚えていないからだ。

ただとにかく喉が乾いていた記憶はある。水筒に入っていた温い水は全部飲み干した。それでも全く足りなかったが。

 

仕事が終わり車を運転して向かった先は彼女が働く店。

いないことはわかっていはいたが、どうしても向かはずにはいられなかった。

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「お帰りなさいませご主人様」

いつもと変わらぬ明るい声。

「どうしても来てしまいました」

確か僕はそんなことをいった気がする。

それからこの日働いていたメイドたちと色々なことを話した。

 

これで彼女がなぜライブの時に泣いていたのか合点がいった。あれは彼女のラストライブだったのだ。

そしてあの場にいた出演者はみんなそれを知っていた。

あのライブから感じていた熱は、仲間たちが彼女のために最高のステージにしようという思いだったのだ。

「寂しいけれど前向きな決断だから応援したい」

先輩メイドが語る言葉に僕もそうしたいと思った。

しかし・・・ 駄目だ、受け入れられない。

 

少し前に店に入り、この日はじめて会うメイドがいた。

初対面の相手でありながら僕は情けないことに泣きそうになっていた。

「ごめんね。はじめて会ったのにこんなに情けなくて」

ああ本当に情けない。さんざん偉そうなことを思っていながらこの様か・・・

本当に本当にごめんな。

「寂しいのは当たり前ですよ。その分私が元気にしますからこれから会いに来てください」

その言葉が嬉しかった。

 

人と話すと少し心が落ち着く。大抵の場合はそうだ。

しかし時にはそうじゃないこともある。

店を出て空を見上げた。

少し暖かさを感じる空気が頬にあたる。間もなく春が来る。今年の冬は寒かったから待ち望んでいた春だ。だが・・・

 

何に向かってそう思ったのかわからない。季節なのか、時間なのか。

声には出せない。それでも嗚咽を抑えながら僕は心の中で空に向かって吠えていた。

 

「俺から大切なものをとらないでくれ!!」

希望

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とめどなく想い出が甦ってくる。

はじめて会った日、コロナ禍での日々、初めて見たライブ、仲間が卒業する度に泣いていた彼女の姿。

 

心の優しい子だと思った。

だから推したいと願った。

 

そうして彼女がいてくれた日々は本当に楽しくて、いつの間にかそれが当たり前になっていて・・・

 

その夜は眠れなかった。気がつけば朝。

仕事になど行く気も起きないが、行かないことにはしょうがない。

部屋を出てふと見渡せば、アパートの片隅に花が咲いている。

本当に春がそこまで来ていた。

車に乗ってラジオをつける。パーソナリティーがリスナーからのメッセージを読み上げていた。

学校の卒業の話、引っ越しや進学の話。

特に親の投稿が多かったが、そのメッセージの先にいる希望を抱いている人たちの姿を僕は考えた。

 

そういえば先日話をしたSmileのメンバーも新しい道の話をしていたな。

僕にもそんな時代があった。僕の場合は希望とそれ以上に不安が大きかった。

過酷な時代だ。

だけどこれから新しい道を歩く人たちは、不安よりも希望の方が大きいかも知れない。

それはきっと彼女も・・・

 

僕はどうしたい?

彼女を応援したい。

 

ならば彼女は今、何を胸に秘めているだろう?

卒業する寂しさと未来への希望。

 

それならばどうしたい?

彼女の希望を止めたくない。

 

そうだ・・・ 大事な推しじゃないか。

幸せを願わないで何がファンだ。

寂しいさ、もちろん寂しいよ。だけど幸せになって欲しいよ。

 

心の中で声がする。

「そうだ、それでいい」

僕は少しだけ自分を納得させた。

しかしまだ彼女とは直接話しをしていない。

僕は会わなくてはならない。

残された日々を後悔しないために。自分自身が納得するために。

そして・・・ 彼女の卒業を見送るために。