男なら誰でも年上の女性に憧れた経験があると思うんです。
それは純粋な憧れの時もあれば本気の恋の場合もある。
優しくて明るくて自分を包み込んでくれるような存在。
家族である母親とは違った立場で接する異性。
何でお姉さんに惹かれてしまうかは後付けでいくらでも考えられます。
だけど、どんなに月日が流れてもその時の胸の高鳴りを覚えている人も多いはず。
森見登美彦(もりみとみひこ)先生の小説をアニメ化した映画「ペンギン・ハイウェイ」は男子なら一度は経験した年上のお姉さんへの淡い気持ちを思い出させてくれる映画です。
ですがかっての少年たちだけに向けた映画ではなく、子どもから大人まで老若男女問わず楽しめるエンターテインメントです。
色々な人に観てもらって、親子で感想を語り合うきっかけになる面白い映画です。
作品情報
タイトル:ペンギン・ハイウェイ
公開日:2018年8月17日
原作:森見登美彦
監督:石田祐康
配給:東宝映像事業部
あらすじ
小学校四年生のアオヤマ君は勉強熱心な少年。
毎日世界について学んだことをノートに記録しています。
そんなアオヤマ君の最大の関心は歯科医院に勤める「お姉さん」。
明るくて胸が大きくて優しいお姉さんをアオヤマ君は日々真剣に研究しています。
ある日、街の郊外に突然ペンギンが現れます。
ペンギンたちは一匹、また一匹と現れては増えどこかへと消えていく。
そしてアオヤマ君はお姉さんがペンギンを作り出している事実を知ります。
果たしてペンギンとは、お姉さんとは。
これはアオヤマ君が経験したある夏の大切な思い出の物語。
大人が楽しめるアニメ
先に書いたことといきなり矛盾しちゃうんですが、この映画はまず大人向けの映画だと思います。
というのも、メインで描かれているのが主人公・アオヤマ君が憧れる年上のお姉さんへの淡い恋心なんです。
お姉さんは名前が語られず一貫して「お姉さん」と呼ばれています。
アオヤマ君はお姉さんの大きな胸に興味を持つんですが、それは嫌らしい意味じゃなくていかにも年ごろの男の子だと感じられて可愛い。
大人目線で見るとアオヤマ君の姿に「ああ、俺も昔はそうだったな」とか「男の子ってそうだったわよね」とか感じるところがきっとあると思うんです。
そして、憧れてもその恋が実らないということも大人はわかります。
これが同級生の女子に恋する内容なら恋が実る結末もあると思うんですけど、アオヤマ君とお姉さんは恋が実ることはない。
これは大人が過去の自分のことを思い出せる映画だから、お子さんがいる方でもまず大人の方に観てもらいたいですね。
子ども達には冒険の雰囲気を
では子どもは楽しめないかというともちろんそんなことはありません。
ペンギン発生の謎を追うアオヤマ君。
同級生のウチダ君や秀才のハマモトさんという仲間ができて、ペンギン発生に関係している不思議な球体「海」の観察をはじめます。
その過程でいじめっ子のスズキ君たちの妨害を受けたりするんですが、困難に合いながらも仲間と協力して事態に立ち向かう王道的な展開は何歳になっても胸が高鳴ります。
この作品は街の中という狭い範囲が舞台です。
だけど、物凄く絵が綺麗で自然豊かなので広大なフィールドを冒険してる感が満載です。
個人的にスズキくんが古き良き時代の少年という感じで良いキャラだと思います。
フィクションの中で子どもが一番盛り上がる要素に「大人を越えて行動する」というのがあります。
例えば映画「ホーム・アローン」で主人公の少年が強盗を奇想天外なアイデアで迎え撃つ場面。
あれは子どもの頃観ていてスカッとしました。
ペンギン・ハイウェイは大人と戦うわけではないですが、子ども達が思いを遂げるために大人を乗り越えて行動する場面があるので観てる子ども達はアオヤマ君を応援したくなります。
何となくワクワクする雰囲気だけでも楽しんでくれたらいいと個人的には思います。
わかりやすい表現
物語は突然現れたペンギンとそれに関わるお姉さんの謎を追い進みます。
SFの要素もあるのでお子さんには少し難解です。
でも、この作品では非常にわかりやすい単語が使われているので映画を理解するのに困ることはありません。
お姉さんがペンギンを生み出すエネルギーをアオヤマ君は「ペンギンエネルギー」と名付けます。
そのペンギンに関係する球体が「海」。
不思議な物にいかにもSF的な「〇〇ホール」や「〇〇粒子」といった単語が使われないのが作品をわかりやすくしていました。
それに作品の雰囲気に凄く合ってるんですよね、緩い表現が。
ペンギンっていう可愛い動物が出てきて、少年の淡い恋がメインで‥‥‥
そんな作品にバリバリのSF要素が入ったらここまで広い年齢層にお薦めできる作品にはならなかっただろうと感じます。
憧れのお姉さんと豪華キャスト
さて、本作のヒロインであるお姉さん。
本当に魅力的な女性です。
まずデザインが凄く美しい人に描かれていて、その上性格も明るく豪放磊落というお方。
とても頭の良くて、ややもすると年不相応なアオヤマ君を子ども扱いして可愛がる姿は本当に素敵な「年上のお姉さん」です。
でも、いわゆる「萌え」の要素は感じませんでした。
恐らく、それはお姉さんが心の中の懐かしいものを思い出させてくれる存在だったからじゃないかなあと思います。
忘れたくない大切な思い出の人。
現実にそういう人がいたかどうかより感覚として誰の胸にもそういう人がいると思うから、萌えより淡い気持ちの方が強くなるんじゃないかと。
お姉さんを演じるのは蒼井優さん。いわずと知れた実力派女優さんです。
これが本当にはまってます。蒼井さん自身、とてもキビキビした女性という情報もあるのでその個性が上手くお姉さんにマッチしてると感じられます。
他にも西島秀俊さん、竹中直人さんといった豪華キャストが脇を固めていて作品に登場する大人たちに優しさや説得力を与えていました。
世界の果てとは
世界の果てがなんであんな感じの場所だったのか。
ネタバレになるんでさらりと書きたいのですが、個人的に世界の果ては美しい場所であって欲しいのでああいう形で描かれてることに納得しました。
元々原作が文学作品なので明確な答えは無くて、各々が想像すればそれが正解だと思います。
アオヤマ君がこれから向かうべき場所として、彼の目標となったのならそれでいいんじゃないかと。
「世界」というくらいだからこの世界とどんな形でかは繋がってるかもしれない。
だからあの風景、そんな風に思います。
まとめ
映画として、非常に綺麗な作画と良い演技のキャスト陣が出てるのでクオリティ抜群の作品です。
原作を読んだ方でも納得の出来になっています。
細かい理屈を追求するより、各キャラクターの心情に注目しながら観ていって欲しいですね。
あと私は映画でも本でも子どもが観るなら内容に「恐さがあるか」を意識してます。
というのも、子どもって恐さに食いつくんです。
例えばトイ・ストーリーでシドに改造されたオモチャが出てくる場面。
子どもの頃、不気味だけど凄く目が離せない場面でした。
子どもは恐い物見たさで見ちゃうんですよね。
ペンギン・ハイウェイにもちょっとした恐さというか「これからどうなるの」という要素が入っているのでそういう意味でも子どもは楽しめます。
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