ウルトラマンダイナの第20話『少年宇宙人』は1998年1月24日に放送されました。
母星の消滅をきっかけに、一人の少年の旅立ちと周囲の人々との絆を描いたダイナの中でも大変印象的なエピソードです。
脚本は後に『ウルトラマンガイア』などのウルトラシリーズや刑事ドラマ『相棒』などにも参加された太田愛さん。
2022年はダイナという作品が25周年をむかえることもあり、またちょうど時期が1月だったこともあり久しぶりにこの名エピソードを観直しました。
やはりというか今回も感動したのですが、今この時代この年齢だからこそ以前とはまた違った見方ができました。
既に多くの場所で語られてきた『少年宇宙人』ですが、今回の視聴を機に自分なりに感じたことを書きたいと思います。
今回の視聴で一番印象に残った場面はラセスタ星人・岸悟の友達のたっちゃんが父親と家で話す場面でした。
「もし自分が宇宙人だったら」と父親に尋ねるたっちゃん。父親は「怖いだろうな」と答えます。
もし宇宙人だとばれたら大変なことになり、人にいうこともできない。寂しいし怖いだろうと。
小学生当時リアルタイムで観てから、その後何度か観てもそこまで気にしたことのない場面でした。でも今回観た時に、この場面にはダイナという作品に関わる重大なことが込められていることに気づいたんです。
たっちゃんの父親の言葉は悟の心境を表しているものではあるけど、実は主人公のアスカ・シンにも当てはまるんですよね。
ある日正体不明の力を手に入れてダイナになったアスカ。
最終章完全版でダイナの秘密を黙っていた理由を、同僚のリョウ隊員にだけは皆に怯えられるのが怖かったからと打ち明けます。
このアスカの心情はまさにたっちゃんの父親の言葉そのものでした。
悟の心情を表しているように見えて、実はアスカの心情まで表していたこの台詞は本当に奥深いものです。
さらにこの場面の素晴らしさはもう一つ。
父親はゴルフクラブを磨きながら会話しており、部屋の様子からもたっちゃんの家は裕福な家庭であることが窺えます。
普通こういうドラマだと、お金持ちの家の人って傲慢な感じに描かれ「宇宙人なんてとんでもない」みたいにいいだしそうな感じがしませんか?
だけどたっちゃんの父親にはそんな雰囲気が全くない。
逆に冷静すぎるくらい冷静に息子の話を聞き、人の心をよく理解した発言をしています。
みのっちもなんですけど、たっちゃんが悟が宇宙人だという現実を淡々と受け入れているのもこういうしっかりした家庭で育ったからなんだと感じました。
登場人物のパーソナリティーを少しの場面で表現してしまう太田愛さんの力量は本当に凄い。
ここで想像も働いてくるのですが、もしかしたらこの父親は悟の両親と子どもの頃友達だったのかも知れません。
それでラセスタ星人の秘密を知っていたから、宇宙人に対してこんな寛容な考えができるのかなと。
あくまで想像です。でも本当に短い場面ですが、このたっちゃんの家の場面が素晴らしくて何度も観直しました。
他にも色々なことを考えさせられます。
ハッとしたのが、このエピソードがウルトラマンティガやダイナが守ってきたものの大きさを内包していたということ。
どういうことかというと、もしもティガやダイナが地球を守れていなかったら悟も悟の母親もとっくに命を落としていてラセスタ星人の未来はなくなっていたかもしれないんですね。
もちろん他にもラセスタ星人はたくさんいるんですが、長い旅をしなければならない彼らにとって仲間の存在はとても大切なもの。
誰か一人欠けてもいけないものだと思うんです。
悟一人が欠けたことで新しい星は見つけられないかもしれない。それではラセスタ星人の未来はない。
だからティガやダイナが懸命に戦い、悟が旅立ちの日まで生きてこれたことはラセスタ星人の未来を守ったことに繋がるんだなって。
そう考えてティガを観直したら凄く感動したんですよね。
「この間にも悟たちは生きていて、それとは知らずともティガやGUTSはラセスタ星人の未来を守っているんだな」と。
あと旅立ちを恐れる悟にダイナがかけた言葉は、最終回でアスカ自身が実践することになる言葉でしたね。
まだ見ぬ世界へたった一人旅立っていったアスカ。
その姿は果てない旅を続けるラセスタ星人たちに重なるものがありました。
ダイナのメインライターは長谷川圭一さんなんですけど、少年宇宙人は驚くくらいダイナという作品の深い部分に関わっている。
ダイナという作品を理解しつつダイナの中でも異色作を描き切った太田愛さん。
本当に凄いなと。
見ていると温かい気持ちになれる話なので、その凄さは冷静に考えないと気が付かないんですがそれもまた凄い。
といったように、新しい発見があった今回の鑑賞でした。
こういうウルトラマンが戦わず、だけどウルトラマンじゃなきゃ描けない話があるからウルトラシリーズを観るのはやめられないなと思います。
改めて『少年宇宙人』は大好きなお話です。