ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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『優しい死神の飼い方』感想、4つのエレメントが魅了する奇跡の物語

密かに開設した後しばらく手付かずだったブログですが、作った以上はやりきる精神で令和二年は本格的に書いていきたいと思います。

と言っても、まだまだ機能面などわからないことも多いので改良と勉強を重ねながらやっていきたく思います。

さて、今回は『優しい死神の飼い方(知念実希人)』をご紹介。

あらすじ
犬の姿を借りて地上のホスピスに派遣された主人公・死神。
偶然出会ったホスピスの看護師・菜穂に「レオ」と名付けられた死神はホスピスで絶望に沈む患者達を未練から救うために、患者たちの過去に秘められた謎を解き明かしていく。
しかし、このホスピスには意外な秘密が隠されており、やがて危険な魔の手が忍び寄る……

死神や天使など霊的な存在が人生に干渉した結果、登場人物が生きる気力を取り戻す物語と言うと映画「素晴らしき哉、人生(1946年 アメリカ)」を思い出します。

大好きな映画なんですが、それを観終わった後に通じるような爽やかな感動を得た小説でした。

物語の語り口は主人公のレオ(死神)によって進んでいきます。

終始、人間とは別の価値観で地上を見ているのですが、その良い感じに我々からすればズレた視点のおかげでユーモア溢れる文体で書かれています。

一方で、ホスピスで死を待つだけの患者たちの絶望とそれに向かい合うレオの「生死」に対する考えには医師として活動する知念氏だからこその切迫感と気高さを感じることができました。

本作は大きく4つの要素を含んでいます。
・医療
・ファンタジー
・ヒューマン
・ミステリー
これらの要素が結び合った結果、私自身は読む手が止まらなかったです。

というのも、時間軸が過去と現在を行ったり来たりする構成なのですが、物語が展開する場所がほぼホスピスに限定されているため、散りばめられた伏線がラストに集約されている過程がとてもわかりやすかったんです。

ネタバレになりますが大きく縦軸を貫く柱がホスピスに隠された謎で、患者たちの過去がその謎に少しずつ関わっています。

最初、死神が患者たちを助けていくヒューマン物かと思っていたのでこの展開には驚きました。

では人間ドラマの方が薄いかというとそんなことはもちろん無く、とにかく暗くなりがちな現代社会で生きる目的とか意義とかを考えさせられる場面がたくさんありました。

特にラストでレオが語る現代人の「死」への意識については毎日を漫然と生きているだけでは考えつかない切実な思いを感じることができました。

物語が進んでくるにつれて、レオも考え方が人間よりになってくるんですけどそれでも最後までライトな語り口は変わらずなので気持ちが暗くなることはありませんでした。

2020年に初めて読んだ本として、是非たくさんの人に読んで欲しい小説です。