ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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舞台「Thank U,Next The First」感想



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こんにちは。ブログの更新も本当に久しぶりです。

ブログを始めた頃はけっこうコンスタントに更新もしていたのですが、それもいつしか止まり更新しても年に数回。

なので覚えている人がいるかどうかもわかりませんが管理人は花粉症や黄砂、仕事のストレスに悩まされながらも元気にしております。

 

さて2025年最初の演劇鑑賞となったのは「Thank U,Next The First」でした。

2023年に上演された「Thank U,Next」という作品の続編で、シリーズとしては3作目になります。

 

2作目は観劇できなかったのですが、1作目がとにかく当時の自分に刺さりまくる内容だったので今回の3作目はどこか他の作品と違う心境で観劇しました。

本作は昼と夜の2回上演があったのですが、自分は夜の回を観劇しました。

あらすじ

大嶋紡(つむぐ)は売り出し中の歌手。先輩歌手の三宅陽太と出会い、孤独から救われた過去を持つ。

陽太は病で命を落とすが、紡にとって未だに大きな存在となっている。

 

ある日紡はツアーが決定するが、自分自身のあり方に悩みどこか踏み出せない気持ちを抱えていた。

陽太と過ごした時間を思い出す紡。これは彼女の新しい最初の物語。

2作目がどういう話だったのか分からないので、ひょっとしたら2作目の出来事が影響している部分もあるのかもしれませんが、あくまで1作目と本作だけを観劇した印象で感想をつづります。

 

1作目もそうだったんですが、歌のシーンはあるんですけどそんなに大きく動きのある物語ではなくてゆっくりと香りと味を楽しむ作品といいますか・・・

自分自身1作目を観た2年前から色々あったんですが、だからこそ主人公の紡に共感できた部分はありました。

 

現実って奇麗事じゃないから、フィクションみたいに大きな出来事があってもそれで直ぐに人生が変わる、動き出すなんてことはそうはありません。

 

「それを可能にするのがフィクションだろ」という意見もあるかもしれませんが、本作に関してはもともと人間ドラマが主体なので、サクセスストーリーを進むよりも小さな一歩を踏み出そうとする紡や他の人物たちの姿を見れて良かったです。

 

故人である1作目の主人公の陽太は回想という形で登場するんですが、それにより1作目を観ていなくても本作だけで物語を理解できるのも良かったと思います。

自分自身忘れている場面もあったので、改めて「こういう話だったな」と思い出せましたし、時間が経っていた分新鮮さも感じられました。

 

演者でいうとやはり紡を演じた心乃音さんがよかったですね。

紡は同性愛者という設定なんですが、それが理由でいじめを受けた過去があります。

かなり重い背景を背負った人物なんですが、心乃音さんの演技は良い意味でその重さを感じさせないものになっていました。

 

アイドル活動をされていたこともあり、特に笑顔が可愛いんですよね。

でもその可愛さが紡の過去と上手く中和されて、作品の雰囲気が重くなりすぎないようになっていました。

 

1作目の時も自分が観た回の紡は心乃音さんだったんですが、ストーリー上笑っている時も無理をしているというのが感じられました。

でも今回は悩みと同時に踏み出そうという気持ちもある。

抱えている悩みの質の違いを、上手く表現されていたと思います。

 

もう一人。

 

回想シーンの過去の紡を演じたのはミズキさんという俳優なんですが、不思議と「ああ、このミズキ紡が心乃音紡になるんだなと」すんなり受け入れられました。

 

もちろん二人の顔立ちは全く違うし、1作目を観ていたから「心乃音さんもこんな感じだったな」と思った部分もあったのでしょうが、全然違う人と思われないようにミズキさんが演技を考えられたことを感じることができました。

 

ストーリーでいうと「え?この展開?」と第一印象で思った部分があったんですが、振り返ると自分はこれでよかったと思います。

 

人間というのは不思議なもので、過去に後悔したことがあって次は絶対後悔しないようにしようとしても、それでも動けない時があるんですよね。

そういう中でもがく登場人物たちの人間臭さ。自分はそういう部分が好きでした。

 

「The First」とタイトルにありますが、3作目なのにどういう意味なのだろうと考えていました。

それで観終わった後に思ったのが、これは紡の物語の始まりという意味だったのかなと。

「最初の物語」より「新しい物語」といったところでしょうか。

 

このシリーズが好きな人の中にはもしかしたら、もっとスターになった紡が活躍する話が見たかったという人もいたかもしれません。

でも自分は本作が、陽太がいなくなった後に歌手になった紡が一歩踏み出すまでの話でよかったと思います。

 

例えば成功した紡に次から次へと芸能の世界の問題が降りかかって、それをテンポよく解決していくのはやっぱり何か違うなと。

紡も含めて「Thank U,Next」は普通の人たちが少しずつ踏み出す物語。

だから少なくとも自分にとっては、見たかったものを見れた満足感がありました。

 

本作は三宅陽太を演じ、脚本と演出も手掛けた東条柳さんの活動休止前の最後の作品になります。

改めて心に刺さる物語、そして魅力的な登場人物たちに出会わせてもらえたことに感謝します。

いつの日かまたどこかでお会いできる日を願い、素敵な作品をありがとうございました。