ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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短編映画『そこの二人よ』感想 〜日常に感じる幸せ〜

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「何気ない日常は美しい」

 

それこそ現実で人の言葉だったり、映画や小説などで何度となく聞いてきた言葉です。

自分自身何度もそうしたテーマの作品は多く観てきましたが、今回とても心揺さぶられる作品に出会いました。

 

短編映画『そこの二人よ』

 

原作・監督・脚本を手掛けた田中望美さんの実話を元に描かれた作品です。

本作は過去にわだかまりを残していたノゾミとカナが再会した日の、ほんの一時の物語でした。

 

私は本作がとても好きです。

きっと誰にでも喧嘩別れとまではいかなくても、後ろめたさを隠したまま離れてしまった人がいるでしょう。

 

憎いわけじゃない、でもなんとなく会うのが気まずい。それでももう一度会いたい。

 

昔はひたすら毎日のことに必死だったんですが、最近昔のことを振り返ることも増え自分にもそんな人がいることを思い出しました。

本作はそういう心境の人に優しく寄り添ってくれるような映画になっています。

 

視聴後の感覚は、まるで家族に見守られているような温かさでした。

 

親友がいれば無敵だと思っていた子供の頃の気持ち、現実にぶつかった時に逃げだしてしまった心情、少しずつすれ違い別の道を歩くことになったそれぞれの人生。

何がここまで感情を揺さぶるか考えると、やはり本作は『みんなの話』だからだと思います。

 

不思議と子供の頃って、時間の感覚が明らかに大人と違っていました。

大人になった今、時間が有限であるこを否応なく突きつけられています。

だけど子供の頃、時間は無限にあるように感じていました。

 

何かあっても簡単に取り返しはつく。だけどその考えは間違い。

別々に歩み始めた友人との道は、簡単に交わることがないことを自分も感じたことがあります。

 

きっとそのままでも生きていくことはできる。

 

だけどやはり、人生にはどうしても向き合いたい『この人』もいると思うんです。

たぶん誰にでも。

 

だから本作は『みんなの話』なんだと感じました。

 

会うことは凄く勇気がいることだと思いますが、本当に心が通じ合っているのならきっとわかり合うことはできるはず。

本作はそのことを飾らない台詞とシチュエーションで、情緒感たっぷりに描いていました。

 

私は本作を観て、『親友とは何か』を問いかけられているように感じました。

それこそ人生で何度となく考えてきたことです。

明確な正解はありませんし、それらしきものが出たとしても次の瞬間には「やはり違うかも」と思うような問いかけです。

 

しかし本作を観て、凄くしっくりくる答えが思い浮かんだんです。

それは・・・・・・ 「別々の道を歩いたとしても助け合っていける存在」

 

二人がようやくわだかまりを解き、結婚の報告をしたカナはこれからもノゾミを応援することを伝えました。

二人は確かに別々の道を歩いているけれど、これからもお互いを支え合っていく。

 

もちろん同じ道を協力しながら歩いている親友もいるでしょう。

だけど同じ夢を抱いていたカナとノゾミが離れてしまったように、望む望まないに関わらず人生には別れが付き物です。

 

永遠に続くものはない。当たり前だと思っていたものも決してそうではなかった。

特に2020年から2021年にかけての世界を生きた人たちは、そのことを強く感じたのではないでしょうか?

 

誰でもいつかは大切な人と別の道を進まないといけないけど、それでも助け合えるって素敵なことだと思います。

 

本作は決して特別な世界が舞台ではありません。

ノゾミとカナのいる世界は私達が生きているこの世界で、彼女達の姿は私達の日常そのものです。

 

河原で二人が特別な話をしていても、周囲はスポーツの練習をしていたり自転車で通り過ぎていったりと当たり前に時が流れていきます。

このシチュエーションが本当に良くて、二人がいるのは何気ない日常なんだと観客に感じさせることに成功していました。

 

だからこそ日常って美しいと私は感じました。

特別じゃなくても懸命に生きているだけで日常は、人生は美しい。

 

素敵な作品を撮られた田中望美さんの今後の活躍から目が離せません。