ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

日々の中で出会った映画・本・お店、演劇や物などを総合的に紹介する雑記ブログです。

星の見えない空に 〜僕と推しと時々ぴえん 最終回 陽向あかり〜

前回の記事

 

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何もかもすべては終わってしまったけれど

何もかも周りは消えてしまったけれど

春に小雨が降るように 

秋に枯れ葉が散るように

それは誰にもあるような 

ただの季節のかわりめの頃

出典:空に星があるように/作詞・作曲 荒木一郎

「じゃあな! 俺のこと忘れるなよ! 幸せになるんだぞ!」

もちろん理性は働いていました。いくら名残惜しくてもお店の時間もあるしいつまでも居座るわけにはいかない。

迷惑をかけるわけにはいかないから早く出なくてはと思っていました。

それでも・・・ あの子の顔を見ていると、涙で溢れる瞳を見ているとなかなか出ることができませんでした。

チェキ? 画像? ブロマイド?

いいえ、どんなに綺麗な写真でも本物のあの子の可愛さにはやっぱり敵いません。

帰り道に空を見上げました。案の定この日の空も星は見えませんでした。

だけどいいんです。

あの子は僕の心の中にいますから。

あの子は星の光。あの子は太陽。

古い特撮ヒーローの歌に宇宙全体より広いのは人間の心という歌詞がありました。

僕の心を宇宙とするなら、その中心にはあの子という太陽がいつもいます。

これからもずっと。

「ぴえん」

これもあの子から教わった言葉でした。今ではもうあまり使われなくなった言葉だそうですね。

でも僕にとっては、あの子が教えてくれたものだから大切な言葉です。

 

だけどやっぱり涙が流れました。

 

終わってみればあっという間でした。お店に入ってから最後の挨拶までがほんの一瞬。

疲れはまったくありませんでした。まだ何時間でもいれそうでした。

本当に寂しくなったのは家に帰り着いてからです。

あの子のツイッターに投稿された写真。たくさんのプレゼントに囲まれる彼女。

それを見て本当に終わったということを実感しました。

次の朝も仕事があるので少しは体を休めなければと思いました。

だけど寝付けませんでした。

 

無事に終わったという安堵感、もう彼女に会えないという寂しさ。

彼女が毎日ツイートしていた「おはりん」ももう終わりです。

今まで当たり前のように毎日あったそれが存在しない日常を想像して僕は怖くなりました。

 

だけどふと心の中にあの子の顔を思い浮かべた時、あの子はとても悲しそうな顔をしていました。

そうだ・・・ あの子にこんな顔をさせるわけにはいかない。

そう思った時、心の中のあの子が微笑みました。

 

ねぇ・・・ これでいいんだろう?

「いいんです!」

きっと大丈夫だよな?

「絶対に大丈夫です!」

あの子の声が聞こえました。僕をずっと支えてくれたあの声が。

 

この世界で一番大切な僕の推し。

これからもただ一人の僕の推し。

陽向(ひなた)あかりさんの声が。

Answer

来月に生誕を控えたメイドがお客さんと話していた。

「私来月の生誕にヘルプで入ろうかな」

推しがそのメイドにつぶやく。

「いったね! 絶対入りなよ!」

「いやぁ・・・ でもお休みが」

そのやり取りを聞いていた僕も含めた周りの皆が笑っていた。

 

不思議な感覚だった。満席のはずなのにとても落ち着いた感じがする。

いつもの卒業イベントはもっと慌ただしい感じがしていた。

僕が長くお店にいたからなのだろうか?

いやそれだけはないだろう。どんな時もおおらかな推しの人柄がこの雰囲気を生んでいた。

 

「一つ聞いてもいいかな?」

僕は推しに尋ねる。

「何ですか?」

「君の夢は女の子が憧れるようなビッグな女性になることだったよね? 今もその夢はある?」

「あります! これからは新しい世界でもそれを叶えるために頑張ります!」

力強く答えた彼女を見て僕は安心した。

信念を持って選んだ道、そしてメイドからの卒業。きっと彼女が選んだ選択は間違っていない。

 

凄く嬉しかった。

 

自分が精一杯応援してきた子が自分の役目を全うし、全く新しい世界へ挑戦していく。

美しい物語だと思った。この子を応援してきたことは正しかったと思った。

彼女のことが気になり推しはじめた頃の自分へ、僕は大声で伝えてやりたい。

「この子を応援したいと思ったお前の心は間違っていなかったぞ!」と。

 

可愛いメイドへの憧れから彼女はメイドになった。それは純粋に自分の興味でもあっただろう。

だけど彼女には夢があった。その夢のために彼女は人をもてなし、喜ばせることに全力を尽くしてきた。

 

僕にはライティングの師匠から教えられたことがある。

「書くことにおいて一番大切な考え方は読者メリットを意識すること」

それはつまり、どうしたら読む人を楽しませることができるかを真剣に突き詰めて考えるということだ。

それは何も書くことだけに当てはまることではない。

自分を認めてほしいと思ったら、自分のことを伝えたいと思ったら、一番大切なことは相手が何をしたら喜んでくれるかを考えることだ。

 

推しはいつも前向きで明るかった。

根暗で、あまり楽しい話もできない僕をいつもその笑顔と明るい声で励ましてくれた。

僕自身は実践できていない時が多いけど、書くことに例えるなら推しはずっと読者メリットを考えた行動を実践していた。

だから、だからなのだ! 僕が彼女を推しに選んだのは。

辿ってきた人生も経験してきたこともまるで違う。だけど僕にも人を楽しませたいという思いはある。

僕のできることで誰かの役に立ちたい、笑顔にしたいという気持ちがある。

 

なぜそういえるのかって?

だって僕は彼女の笑顔が見たくてずっと頑張ってきたじゃないか!

 

ブログ記事も書いた。彼女が在籍していたSmileのライブも観に行った。彼女に食べて欲しくてドーナッツの店にも行ってみた。

もちろん自分が行ってみたい、見たことのない世界を経験してみたいという気持ちもあった。

でも僕をつき動かしてきた一番大きなものは、彼女に喜んで欲しいという気持ちだったじゃないか!

 

タイプは全然違うけど、僕と彼女はどこか似ていたのだと思う。

 

答えは出た。やっぱり僕は君に会えて良かったよ。

誰かを思う気持ちが僕にもあるってわかったから。

それがあれば迷った時も進んでいけると思うから。

頑張ったら、もしかしたら僕も君のように素敵な人になれるかもしれない。

そうだね、あかりさん。

最後の言葉

長くこの店に通っていたけど、ここで酒を飲んだのはこの日が初めてだった。

推しの大好きなピンク色のお酒『桜フィズ』だ。

今までずっとツーショットチェキはメイドとお客さんと二人で撮るものだと思ってきたが、メイド同士のチェキも撮れることを知り推しとたくさん話しを聞いてもらった太陽のような先輩メイドとのチェキを撮った。

長い時間店にいるのも初めてなら酒を飲むのも初めて、メイド同士のツーショットチェキを撮るのも初めて。

初めてのことがいっぱいだ。

 

だけどこれでよかったのだ。

たくさんの初めてを経験するのが一番大切な推しの卒業イベント。

こんなに相応しい日はない。何だって考え方次第だ。

少し考え方を変えるだけで、自分が見ている世界はいくらでも変えることができる。

 

これまでの人生だって二度と会えないと思った人に再会できたり、僕には永遠に会うことができないと思っていた人に会えた経験が何度もある。

そもそも今こうしてこの場所にいることだって以前の自分からは考えられないことだ。

一年前の自分にだって、この一年で推しのことが今より何万倍も好きになると伝えたところできっと信用しなかっただろう。

 

だから・・・ きっといつかまた会える日もあるさ。

 

その時はお互いにもっと成長して、もっと凄くなってるように頑張ろうな。

「このめるドナティー。このままでも十分美味しいんですがおまじないをかけるともっと美味しくなります。いきますよ。美味しくな〜れ! める! める! キュ〜ン!」

「キュン・・・」

ああ、やっちまったよ。声が出なかったよ。

これが推しにかけてもらう最後のおまじないだから。

おまじないをする可愛い君の姿を見ていたら、こみ上げてきて我慢できないよ。

「泣かないで!」

いや無理でしょう。無理なもんは無理なのよ・・・

伝えたいことがまだあるんだよ。

「いつかライブの感想を書いた時に君は喜んでくれたし泣いたっていってくれたね。それがあったから俺は書くことが楽しいって思えたんだよ。ありがとう」

「こちらこそです。とっても嬉しかったです!」

ねっ・・・ 君は僕にやりがいをくれたんだ。

書き方の講座を習い終えた後、しばらくこれを何に使ったらいいか分からなかった。

でも君と出会って、君の想い出を書くことで役立てることができた。

ありがとう。

軽快に鳴り響いていたBGMが止まる。とうとうその時がきた。

カウンターの中央に立ち、感謝の手紙を読む彼女の声がつまり次第に頬を伝って涙が流れていた。

それが終わると店内は拍手につつまれた。その音も次第に小さくなっていく。

その中で僕は、一番最後まで拍手をしている人間になれるように手を叩き続けた。

いっぱい拍手をしたからとか、何かをやったからだとかそんなもので他の人の気持ちと僕の気持ちを比べることなどできない。

それはもちろんわかっている。

だけどこれは僕の意地だ。絶対に後悔したくないという思いだ。

 

やらないで後悔してきたことが多すぎる。やって後悔したこともまた多すぎる。

捻くれた心で故意に人を傷つけたことだってあった。面白がって人に嫌な思いをさせたこともあった。

きっと僕のことを恨んでいる人だってこの世界にはたくさんいるだろう。

許されることはなくても、その人たちには頭を下げて心から謝っていくしかない。

 

ある時それに気づいたときから昔から嫌いだった自分のことがもっと嫌いになった。

自分を信じるとか、自信を持つとかそんなことをしたくなくなった。

いや怖かった。それをやってみてまた失敗してそれを失うことが。

 

メイドたちと話をする時も随分と自分のマイナスポイントをネタに話しをしていたと思う。

それを肯定してもらうことは気分がよかったし、実際にそういうのは共感性の高い使いやすいネタでもあった。

 

だけど!

陽向あかりさんと過ごしてきて、その姿に触れてきて思ったよ。

 

僕の口は自分の不幸をネタにして生きるためにあるんじない。

僕の足は座って閉じこもるためにあるんじゃない。

僕の顔は暗い顔をして誰かを心配させて、それを話しのネタにするためにあるんじゃない。

僕の人生は自虐して、慰めてもらって自尊心を満たすためにあるんじゃない。

 

誰かを救う、助ける、幸せにする、そんな大きなことはいわない。

 

でもあかりさんが皆のために頑張ってきたように、きっと僕にもこの世界で誰かのためにできることがあるんじゃないか。

完璧な人間になんてなれなくていい。

あかりさんのように常に前を見て、周りの人を思いやる気持ちを忘れないで生きていきたい。

 

今気がついたんだけど、ずっと君のことを書いている一連の記事はだいたい5000字くらいなんだ。

昔講座を受けていた時、課題で週一で5000字書かなきゃならない時全然書けなかった。

それが今、君のことを書いていたらあっというまに5000字を越えてしまう。

人を思う力って凄いな。君に出会ってそれを知ったよ。

考えてみればずっと見てきた漫画や映画、テレビのヒーローは皆そうだったな。

「誰かを思う力」それを胸に宿して頑張り抜いたんだ。

ということは今の僕もある意味ヒーロー? だとしたら君がそうしてくれたんだ。

ありがとうな・・・ 本当に。

 

知っているよ。君だって決して完璧じゃないってこと。

いっぱいいっぱい泣いたね。後輩たちよりもたくさん泣いた。

悩みを話してくれたこともあったよね。

適切なことはいえなかったかもしれないけど、それを僕に話してくれたことがとっても嬉しかったんだよ。

そんな部分もみんな含めて君は尊敬できる本当に素敵な子だったよ。

本当に本当に世界一の僕の推しだよ。

君を押せたことを誇りに思う。

 

僕は自分が嫌いだった。

だけど君と出会って、君を自分なりに一生懸命応援して、喜んでもらって・・・ そんな風に頑張った今、前よりも少しだけ自分にことが好きになれたんだよ。

 

ありがとう!

 

だからさ・・・ 自分の命に誇りを持ってこれからも人を笑顔にしていくんだよ。

きっとこれからも大変なことがたくさんあると思う。

これまでの価値観が通用しないようなきついこともあるだろう。挫けそうになる時もあるかもしれない。

 

だけど僕はずっと、ずっと応援しているから。ずっと、ずっと君を見守っているから・・・

陽向あかり

「ありがとうございました」

確かそういっていた気がする。

またやっちまった。自分のいいたいことだけ叫んで彼女の言葉をちゃんと聞けてなかった。

うん、うん、と涙を流しながら優しくうなずく姿が記憶に残っている。

 

ごめんな、最後まで・・・

 

クジで一回のチャンスにかけてアクリルスタンド当たった時は嬉しかったよ。

君の最後の配信を見逃してしまったこと、本当にへこんでたんだぜ。

卒業前の最後のお給仕にも仕事で来れなくて、それも辛かった。

神様から完全に見放されたと思っていた。

だけどまだ見捨てられていなかったみたいだ。

 

「これ靴下じゃない?」

カウンターから声が聞こえたね。

よく見たらアクリルスタンドの君はスリッパも靴も履いてないで靴下だった。

君らしいと先輩メイドが笑っていたね。心がほっこりしたよ。

 

大切に飾るよ。いつまでも。

 

もっと前に出会いたかった。

もっとたくさん会いにいけばよかった。

もっとたくさん応援してあげたかった。

もっとたくさん笑いあいたかった。

もっと君の声が聞きたかった。

 

「浮気だめ!絶対! 推し変えしないでくださいね」

大丈夫。絶対にしないよ。

「あかりに会いに来てくださいね」

これからも心の中の君にずっと会いに行くよ。

「あかりがいなくなってもめるドナに来てくださいね」

必ず行くよ。だってここは君がいてくれた場所だから。

「行ってらっしゃいませご主人様!」

ああ、行ってくるよ。僕も次のステージに。

 

僕は大丈夫だよ。君が見守ってくれているから勇気が出てくる。

 

これは僕が愛した彼女の物語。

女性として、異性としてという意味ではなくこの街で出会った一人の人間として・・・ 大切な『推し』として。

そしてもう一つ。

これは僕が僕自身のことを、前よりも少しだけ好きになっていくまでの物語だ。

 

この物語を読んでくださったあなたには大切な人はいますか?

 

もしいるならばその人を心から応援してあげてください。

 

もしいなくて、欲しいと思うならば自分の心の声に耳を傾けて動き出してみてください。

 

何もなかった僕でさえ大切な人に出会えたんです。だからあなたもきっと大丈夫。

 

これまで彼女と出会ってきた全ての人たちが幸せでありますように。

これから彼女と出会う全ての人たちが幸せでありますように。

彼女がこれからもずっとずっと笑顔で、そして幸せでありますように。

 

陽向あかりさん、本当にお疲れさまでした。

生まれてきてくれて、そして僕と出会ってくれてありがとう。

 

希望の明るい星が輝く未来に向かって・・・ 行ってらっしゃいませ!