ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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『キグルミオッカナイト』観劇感想|福岡の劇団ジグザグバイト 2025年5月公演

2025年5月25日、福岡の劇団ジグザグバイトによる舞台演劇『キグルミオッカナイト』を観劇しました。本記事はその感想です。

 

 

 

作品基本情報

  • タイトル:キグルミオッカナイト

  • 種類:舞台演劇

  • 上演期間:2025年5月21日〜5月25日

  • 会場:福岡市民ホール

  • 企画・製作:劇団ジグザグバイト

  • キャスト:八坂桜子、高瀬龍之介、白瀧姫翠、渋井美奈ほか

2023年に初演された『キグルミオッカナイト』が、再演という形で2025年5月に帰ってきました。

会場は福岡市民ホール。閉館した福岡市民会館の後を継ぎ2024年3月にオープンしたばかりの新しい劇場です。

2023年版も観ましたが、基本その時だけの一品物という性質の舞台演劇。記憶がやや曖昧なため、2023年版との違いを比較しつつも“新作を観る”気持ちで楽しみました。

 

ただし、前作の記憶が曖昧なところもあるため、事実と異なる箇所があればご容赦ください。

とはいえ、今回の公演はそんな記憶を上書きをしてくれるほど面白かったです。

あらすじ紹介

国内で唯一、教育番組を持つテレビ局「NHA」では、番組の観覧に訪れた子どもがキグルミに襲われ失踪するという事件が相次いでいた。

幼い頃に魔女の呪いをかけられた「ユウゾウ」と、その妹「ショウコ」は、呪いを解く術を求めて退魔士として旅を続けていた。

ある日、呪いを解く秘術「三つ子の魂百人」の噂を聞きつけ、二人はNHAに潜入。歌のおにいさんとおねえさんとして番組に関わりながら、真相を探り始める。

やがて、彼らの前に恐るべき敵が姿を現す。果たしてユウゾウは、自らにかけられた呪いを解くことができるのか――?

 

 

感想

結論

とても面白かったです。

ジグザグバイトの「熱い・激しい・バカバカしい」というモットーに、2023年版からさらにブラッシュアップされたストーリーと俳優陣の熱演、それに観客の熱さも加わり非常に充実した観劇体験となりました。

 

特に印象に残ったのは忍たま乱太郎のパロディを行った場面。前回もそうでしたが、忍たまを見て育った世代には爆笑でした。

展開が整理され見やすくなっていた

ストーリーは2023年版と基本的には同じ構成でした。

初演では設定や情報がやや詰め込まれていた印象がありましたが、今回はその要素やストーリー展開が整理され物語の軸がはっきりしていていました。

 

例えば、ユウゾウが敵に敗北する展開。2023年版では会長の部下に負けてしまい、少し拍子抜けする印象がありました。

しかし2025年版では、相手が総大将である「暮辺一郎」本人に変わったことで、ユウゾウの敗北にも説得力が増しました。

初見でも楽しめる構成

再演作品ではありますが、前作を観ていなくても十分に楽しめる構成になっていました。

重要な背景は作中で自然と説明され、キャラクターたちの関係性や目的がわかりやすく伝わってきます。ジグザグバイトの作品を初めて観る方にもおすすめできる内容です。

 

 

高瀬龍之介の存在感ある演技

作中で一際存在感を放っていたのが、高瀬龍之助さん演じる国際警察捜査官の「外道本道」です。

NHAについてたりユウゾウ側についたりと忙しい人物で、本作の笑える要素の多くを担っていました。

 

2023年版では演じた俳優がクールな外見の方で、それにも関わらず強烈なギャグをやるギャップが面白かったです。

それに対して高瀬さんが演じる今回の外道は前回より親しみやすいビジュアル。「必ず次の場面ではギャグをやる」という期待が湧きます。

そしてその通りになるのですが、ギャグがくると分かっていても思わず笑ってしまう魅力がありました。

外道は奇っ怪な動きの多い人物ですが、スラリとして手足の長いスタイルを活かした動きはインパクト抜群で、前回とはまた違う外道のキャラクターが表現されていました。

八坂桜子と白瀧姫翠の存在感

ジグザグバイトの劇団員である八坂桜子さんと白瀧翡翠さんは、作品を支える安定感のある二人。

まだ若い二人ですがどんな設定の作品であっても彼女たちの演技には常に芯があり、アクションも見応え抜群。

他の俳優のどんな演技にも対応できる応用力で物語の地盤を固めてくれているように感じました。

渋井美奈の“別のショウコ”としての魅力

『キグルミオッカナイト』でジグザグバイト初参加となったHKT48の渋井美奈さん。

渋井さんが演じるショウコは前作とはまた違った魅力がありました。

 

前回は演じた女優さんがキャリアのある方というのもあり、頼りがいと包容力を感じさせるお姉さんを表現していました。

それに対し渋井さんが演じたショウコは一生懸命さと可愛らしさが印象的で、お姉さんというより「お姉ちゃん」という言葉がピッタリ。前回と違う魅力を感じられました。

河村ゆーいの演技のうまさに驚かされた

くノ一の「おゆい」や「体操のお姉さん」などを演じた河村ゆーいさんは、若手ながらも演技が上手かったです。

 

作中では岸田麻佑さん演じる「おまゆ」と一緒の場面が多かったのですが、芸能のキャリアの長い岸田さんと並んでも見劣りしない存在感がありました。

表情の細かさやセリフの聞き取りやすさ、岸田さんと同じタイミングでセリフを重ねる場面でのズレのなさ。

また一人将来が楽しみな俳優と出会えたと思います。

劇団・会場・観客の雰囲気 

観客の熱気と舞台の熱量が噛み合った公演

今回の『キグルミオッカナイト』には、ジグザグバイトの作品で初めて見る俳優も多く出演していました。
中にはキャリアのある方もいましたが、全体としては若手中心のキャスティングでした。

まだ大きな存在感を放つ段階には至っていない方も多かったものの、ジグザグバイトが求める「熱さ」「激しさ」に全力でぶつかっている姿勢が伝わり、非常に好印象でした。

 

この公演は、2024年に開館した福岡市民ホールのこけら落とし企画のひとつ。
新しい会場ということもあってか、照明や音響にもこれまで以上の力の入り方が感じられました。中でも印象に残ったのは観客の熱気です。

 

作中にはライブシーンが何度も登場しますが、そのたびに客席からはペンライトの光が揺れ、拍手が巻き起こる。
HKT48の渋井美奈さんのファンも多く詰めかけていたようで、ライブ慣れしたファンの方々が作る熱気が、周囲の観客を巻き込みながら会場全体の一体感を生み出していたのが印象的でした。

 

その熱に応えるように、俳優陣のパフォーマンスもどんどん熱を帯びていったように感じます。演技をしている俳優たちが本当に楽しそうで、その空気が客席にも伝播していきました。

ライブ演出のある舞台は他劇団でも何度か観たことがありますが、これほど会場と一体になった空気感を体験できたのは初めてかもしれません。

 

 

まとめ|これからジグザグバイトに望むこと

2025年版『キグルミオッカナイト』は、作品そのものの完成度もさることながら、会場全体に満ちた熱気も含めて、非常に満足度の高い観劇体験となりました。

 

再演と聞くと、「前と同じでは?」と思う方もいるかもしれません。
しかし本作は、前作の基本構成を維持しながらも演出や構成がブラッシュアップされ、より洗練された一作になっていました。

 

ジグザグバイトは、2025年で活動10周年を迎えるとのこと。
私が福岡で演劇を観るようになってからはまだ4年ほどですが、劇団が10年にわたって活動を続けることの大変さは想像に難くありません

 

これからも困難なことがあるかもしれませんが、ジグザグバイトには、これまでと同じく「熱い・激しい・バカバカしい」作品を届け続けてほしいと願っています。
観客に元気や笑いを与えてくれる、そんな舞台をこれからも楽しみにしています。

 

また個人的には、ジグザグバイト作品に多く見られる「バトル要素」だけでなく、戦わない人々のドタバタ劇や大騒動を描くような作品にも、いつか挑戦してほしいという気持ちもあります。
そうした“日常に潜むカオス”を、ジグザグバイト流のブラックユーモアや楽屋ネタなども入れて料理したらどうなるのか。想像するだけでワクワクします。

追記|地方で活躍する俳優たちへの思い

ここからはジグザグバイトと関係ない、最近個人的に感じていることを書きます。なので興味のない方は読まなくても全然OKです!

 

色々あって福岡で演劇を見るようになって約4年。アクションや人間ドラマ、色々見ました。

その数だけ多くの人と出会いました。ジグザグバイトの到生さんや八坂桜子さんのように。

 

演劇を見始める前は「俳優」といえば東京で制作されるテレビや映画に出てる人たちのことだと思っていました。

 

福岡のような地方で活動する俳優がいるということ自体、あまり想像がつかなかったんです。

でも、実際に舞台を観ていくうちに、地方にもたくさんの俳優がいることが少しずつ分かってきました。そしてその中で、いろいろと考えることもありました。

 

その「考えたこと」をすべて書くのはとても収まりきれません。

でも結論だけ言うと、今は地方で活躍する俳優にもスポットが当たりやすくなってきたな、と感じています。

 

それはもちろん、XやTikTokといったツールの影響も大きいと思います。でもやっぱり、自分が出会った人たちが、それぞれの夢に向かってどんどんビッグになってくれたら嬉しいですね。

 

私ももうそれなりの年齢になって、若手俳優と近い世代とは言えなくなってきました。

だからこそ親心か、あるいは老婆心でこんなことを考えるようになったのかもしれません。

 

もちろん、現代においても「表現」の主戦場は東京にあるのかもしれません。

でも今は地方にいながらでも、自分の表現を世界中に届けることができる時代です。

 

東京に挑戦しに行く人がいれば、もちろん応援します。

同時に、地方で愚直に表現に向き合っている若い人たちのことも、無理のない範囲でずっと応援していきたいです。

 

これまでの枠を壊すような新しい「表現」を、若い人たちが見つけていく姿は、観客にとっても希望になるし、きっとその姿が次の誰かの背中を押すことにもなると思います。

 

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