ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

日々の中で出会った映画・本・お店、演劇や物などを総合的に紹介する雑記ブログです。

ありがとう美月さん

 

 

めるドナというお店に出会った日のことはよく覚えている。

2018年10月31日。ハロウィンで街が賑わっていたあの日。

地下鉄の出口を出て、路地裏の道を少し歩いたビルの3階にその店はあった。

後々になって初めて店を訪れた人の多くが、開けるのに緊張したとの声を聞くことになる鉄の扉が目の前にそびえ立っていた。

本当にここにメイドカフェがあるのか?

恐る恐る開けた先にもう一つ扉があった。

意を決してドアを開けてみる。

「おかえりなさいませご主人様!」

明るく元気な声が店内に響き渡った。

その日から店が閉店するまでの約5年と9ヶ月。

数え切れないくらいの出会いと別れを繰り返し、さまざまなことを勉強させてもらった日々。

かけがえのない大切な場所だと思っていた。愛していた。

たくさんのファンがいる店だったが、一番通っていた頃の店への思いは私も他のどの客にも負けてはいなかったと思う。

 

そんなめるドナと過ごした日々の中で、誰よりもお世話になったのはやはりあの人を置いて他にはいない。

かつてめるドナのメイド長だった人物。

この店を愛し、お客さんたちを愛してくれた人。

 

たくさんの女の子が入っては卒業していった。まったく別の店と感じるほど顔ぶれが変わってしまったこともある。

それでも彼女がいてくれたことで「この場所は間違いなく、自分が出会った子たちがいた、あのめるドナ」と感じることができた。

それは大きな安心感、それこそ「家」に感じるような気持ちだった。

 

彼女の存在に甘え、愚痴や不満など口を開けば日頃のストレスを話すことも多かった。

そんな話ばかりしていたことは、今考えると非常に申し訳なかった。

しかし、どんな話にも嫌な顔せず真剣に耳を傾けてくれた彼女に感謝している。

 

日本にある全てのメイドカフェに行ったわけではない。

それでも日本で一番頑張っているメイドは誰かと問われたら、私は間違いなく彼女だと答えただろう。

 

彼女は頑張った。

十分すぎるほど。

走り切れるところまで走りきった。

 

少なくとも私はそう思うし、何か好きなことがあったとしても彼女ほど熱心に取り組める自信はない。

逆風もあったはずだ。特にコロナ禍に入ってからはそういうことばかりだったかもしれない。

それでもめるドナと関わってから楽しい思い出がたくさんできた。

永遠にこんな日々が続けばいいとさえ思った。

 

めるドナが閉店し、時間が経って改めて考えたことがある。

めるドナをはじめコンセプトカフェと呼ばれる場所にもいくつか行った。

だから自分はコンセプトカフェが好きになったと思っていた。

 

もちろんその気持も嘘ではないが、自分はめるドナという店が好きだった。

一つに店として、場所として。そこで出会った人々のことも。

 

恐らくこれから先、めるドナのような店に出会えることは二度とないだろう。

なぜならめるドナとは、突き詰めるとそこにいた女の子たちそのものだったからだ。

誰が欠けても駄目だった。

 

楽しい時も向かい風が吹く時も、あの場所にいてくれた子たち。

そんな彼女たちを見守り続けてきたメイド長。

料理、イベント・・・・・・ それ以上にそんなメイドたちの形が自分が愛しためるドナだった。

かつて私の実家は商売をやっていた。

もう随分昔に閉店したが、その経験から店というものはいつかは終わる時がくるというのを身を持って知っていた。

 

頭では分かっていても、今になって改めて大事な場所を無くしてしまったと思う。

支えることのできなかった後悔もある。

推しがいた場所。メイド長が守ってきた場所。

あの日々は二度と戻らない。

 

だが終わりは始まりでもある。

 

めるドナを卒業しもう二度と会えない子たちがいる。しかしきっと皆元気にしているだろう。

順調なことばかりではないかもしれない。それぞれがもしかしたら、今この瞬間にも大変な思いをしているかもしれない。

 

人生は平穏に過ぎていくものではない。逆に思い通りにならないことこそがデフォルトなのだ。

もちろん私も。

 

泣きたい気持ちに苛まれている子もいるかもしれない。

 

それでもどうか負けないで欲しいと思う。

 

そしてどんな時も誰かを笑顔にしたい、喜んでほしい。

そういう気持ちを失わないでいて欲しい。

めるドナはなくなった。だけどあの場所にいた子たちは間違いなくこの世界にいる。

 

めるドナとは女の子たちそのものだ。だからこれからはあの子たちが生きて、人を思いやる場所は全てめるドナだ。

そうやってめるドナは生き続けていく。

 

綺麗事かもしれません。だけど私はそう思いますよメイド長。

貴女が育てた子たちです。頑張る貴女の姿を見てきた子たちです。

店は無くなり、皆はそれぞれの道に進んでいる。

彼女たちの心にめるドナのことが少しでも残ったなら、それが彼女たちの支えになるなら頑張った甲斐があったではないですか。

 

私はメイドたち、お客さんたち。たくさんの出会いをめるドナからもらいました。

本当にありがとうメイド長。貴女に出会えてよかったですよ。

だからどうか、これからは誰でもない貴女自身の人生を大切にしてくださいね。

できますよ、みんなのためにあんなに一生懸命になれる貴女なら。

大丈夫。ゆっくりでもいいんです。歩みを止めなければ、きっと目指したい場所にたどり着けますから。

 

いつからかメイドが卒業するとその子についての思い出をブログに書いてきた。

それもこれが最後だ。

未熟な文章だった。めるドナメイドたちの魅力は文章などで到底伝わるものではない。

それでも彼女たちはたしかにそこにいた。

 

かつて福岡市天神にとても素敵なメイドカフェがあった。

そこで青春の日々を燃やした女の子たち。

その子たちと次に出会うのはこの記事を目にしたあなたかもしれません。

 

そしてどうか店の思い出とともに忘れないでください。

彼女たちを見守り、支え、メイドという仕事を愛しためるドナのメイド長のことを。

 

めるドナ、そして保志美月さん本当にお世話になりました。

美月さん、新しい未来に向かっていってらっしゃいませ。

どうか貴女の未来を美しい幸せの月が照らしますように。

 

「その場所を訪れれば、太陽の明かりが桜の華を咲かせ、麗しい虹がかかり、多くの夢が育ち、やがて月の優しき光が心に安らぎを与える」