ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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「ウルトラマンになった男」最初のウルトラマン古谷敏さん

特撮番組の主役は誰か?

現在放送中の仮面ライダーゼロワンなら飛電或人となるだろうし、リュウソウジャーならリュウソウレッド=コウと答える人もいるだろう。

あるいは自分の推しキャラこそ主役と考えている人もいることだろう。

色々な考えがあっていいと思うし、それぞれの人の視点から見た感想を聞くことで作品に無限の楽しみが生まれる。

ヒーローのスーツを着てアクションシーンを演じるスーツアクターこそ主役という考えも一つの視点だ。

今でこそスーツアクターという存在の知名度も上がった。

彼らが演じるヒーローも長い歴史の中でキャラクター性が確立されたものが多いが、国産の特撮番組が始まって間もない頃は全てのことが手探りであった。

日本を代表するヒーローであるウルトラマンも例外ではない。

宇宙から来た光の巨人、組み合わせた腕から光線を放つ…… 

こうした当たり前に知られている特徴も最初の作品「ウルトラQ空想特撮シリーズウルトラマン」の頃は何も確立されていなかった。

だがそうした試行錯誤の過程が作品にある種の自由な雰囲気を生み出し、現在まで続くシリーズの礎を築いたことは疑う余地も無い。光線、手から出す水、投げ技に寝技…… 

ウルトラマンの繰り出す多様で万能なアクションもそうした雰囲気が生み出したもののように私は思う。

ウルトラマンというヒーローをはじめて演じたのは古谷敏(ふるやびん)さんだ。

古谷さんが書かれた「ウルトラマンになった男(小学館)」には前例のないヒーローを演じた日々の出来事が鮮明に綴られている。

古谷さんの自伝であると同時に当時の記録としても貴重な一冊だ。

元々東宝の俳優として活躍していた古谷さんは恵まれたスタイルを見込まれウルトラマンの前番組「ウルトラQ」でケムール人という宇宙人を演じた。

それがきっかけとなりウルトラマンのスーツアクターに抜擢されることとなる。

自分の顔の出ない役を演じる…… 古谷さんをウルトラマンに推薦したのはウルトラマンをデザインした成田亨さんだ。

この番組の主役はウルトラマン・すなわち古谷さんだと成田さんは言う。

成田さんの熱意に古谷さんは葛藤する。そんな古谷さんの背中を推したのは古谷さんのおばあさんだった。

本の中で自分はおばあさん子だったと振り返る。

そうした経緯を経て古谷さんはウルトラマン役を演じることを決意する。

しかし、それからが大変な日々のはじまりだった。

誰もウルトラマンなど見たことも無いし誰かモデルがいるわけでもない。デ

ザインした成田亨さんですら、最初ははっきりとイメージがあるわけではなかったという。

ウルトラマンの脚本家・金城哲夫氏と話してもなお悩む古谷さん。

だがウルトラマンを演じるにあたり、ケムール人を演じた際に経験した撮影の過酷さを改善して欲しいという要望に真摯に対応する金城氏に尊敬の気持ちを持ちカッコいいウルトラマンを必ず作ると決意する。

初めて行われた撮影会。オレンジ色の鮮やかな隊員服を着た科学特捜隊の隊員役の俳優たちをウルトラマンの仮面越しに見た古谷さんは羨ましく思う。

そんな古谷さんに話しかけた一人に人物がいた。

その人物に古谷さんは驚く。

古谷さんに声をかけたのはウルトラマンを製作した円谷プロの創設者にして特撮の神様・円谷英二だった。

円谷監督が何かを呟くが、仮面越しに小さなその声を古谷さんは聞き取ることができなかった。

危険を伴うアクション、顔の出ない苦悩。

過酷な撮影に疲れ果て、一度はウルトラマンを降板することを決意する古谷さんだったが偶然乗ったバスで聞いた子どもたちの会話でウルトラマンの人気を知り続投を決意する。

毎日体を鍛え、何度も何度もスぺシウム光線の構えを練習する古谷さん。次第にウルトラマンのキャラクターについて自分なりに考えるようにもなった。

怪獣を殺さない話があってもいいのではと思ったという。

古谷さんはその気持ちを金城氏に話した。その結果生まれたのが子ども達の守り神である怪獣ヒドラが登場する「恐怖のルート87」という話だ。

ウルトラマンが怪獣を倒さないファンタジックな話で根強い人気を持つエピソードである。

撮影も進み、ウルトラマンを演じることに古谷さんは自信を持つようになる。

主役は古谷さんだと成田亨さんが励まし続けた。

初代ウルトラマンのバトルシーンというと初期は怪獣とつかみ合い、間合いを図る戦い方が多かった。それが後半になるにしたがってどんどん激しいアクションが増えていく。

印象的な場面はウルトラマン31話「来たのは誰だ」という話でウルトラマンが怪獣ケロニアにジャンプキックをしてそのまま後転し立ち上がるアクションシーン。

古谷さんのアクションが激しさを増しているのがわかると同時に、ウルトラマンの演技がどんどん洗練されているのが如実にわかる場面だと思う。

見ごたえある場面は古谷さんの努力の結晶だ。

そしてむかえたウルトラマンの最終回。全ての撮影を終えた古谷さんはウルトラマンの仮面を見つめ静かに「ありがとう」と語りかけたという。

古谷さんをはじめたくさんの人々の努力と試行錯誤の末に誕生したヒーロー・ウルトラマン。

古谷さんの戦いの日々が世界にも通じるヒーローの魅力を作った。

私がそれを強く思ったのは「ウルトラマンパワード」という初代ウルトラマンをアメリカでリメイクした作品を観る時だ。

パワードの繰り出す光線技は基本的に初代ウルトラマンをなぞっているが、例え国が違っていてもその構えと動きの格好良さにはぶれがない。

ここまで隙の無いものを作り上げた古谷さんの功績は偉大だ。

きつい撮影の日々で古谷さんのおばあさんが古谷さんに語った言葉が印象的だ。

それがどんな言葉かは是非それぞれの目で確認してもらいたいが、私自身も常に心がけたいと感じた素敵な言葉だ。

ウルトラマンの後も古谷さんは様々な出来事を経験する。そして古谷さんの人生を支えたのはウルトラマンだった。

「ウルトラマンになった男」はウルトラファン必読の本であると同時に人生に、仕事に迷う人にきっと元気を与えてくれるだろう。

ウルトラマンは決して一人で戦っていたわけではない。

多くの人の繋がりがこの奇跡のヒーローを生んだ。だからこそ今でも私たちを引き付けてやまないのかもしれない。

これからも新しいウルトラマンが登場するだろう。

その存在も最初のウルトラマンがあってこそだ。だからこそ、私はこれかも最初の初代ウルトラマンを愛し続けていきたいと思う。

古谷さんとウルトラマンに関わられた全ての方に敬意を込めて。

ウルトラマンは永遠のヒーローだ。