ネコはミカンを片手に夜明けを待つ

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私は小説「GODZILLA 怪獣黙示録」を何故面白いと思ったか

約三年前、アニメーションで三部作が展開されたゴジラシリーズ・通称「アニゴジ」が話題を呼んでいました。

今回ご紹介する小説「GODZILLA 怪獣黙示録」は映画世界の前史を描いた小説です。

これを読むことで映画をより楽しめますので、もちろん映画のための小説と捉えて読むべき…… なんですがそれだけじゃ勿体ない。

これ一冊だけでも、一つの小説として楽しめる作品になっています。

既にアニゴジは終了してしまいましたが、面白い小説としての怪獣黙示録の魅力を探りたいと思います。

証言形式の利点

怪獣黙示録は一部を除き、作品世界の人々の証言を綴る形式をとっています。

世界規模で起こる怪獣の脅威を読者に伝えるためにとてもわかりやすい手法です。

怪獣黙示録は怪獣に追いつめられる人類の姿を描いています。

個人的に、例えば地の文で「〇〇万人死んだ」と語られるより証言で語られる被害のほうがより恐怖感を感じました。

この証言をする人たちが実に多種多様で面白い。サラリーマン、学者、軍人、スパイ……

人々のバラエティーが豊かなため、読んでる途中で中だるみするということがありません。

それぞれの人にはそれぞれの人生があって怪獣の出現によってそれが壊れていく。

怪獣が破壊するものが物理的な街や自然だけではないことをこの小説は描いています。

そうしたことは映像でも描くことは可能です。しかし、繊細な心理描写に関してはやはり小説は強い。

一人の証言者のページ数はそこまで多くはありません。

だけど怪獣への恐怖だけでなくその時に周囲にいた人物への感情など読み進める中で証言者みんなが愛しく思えてきます。

まず読みやすい形式になっているのがこの小説の魅力です。

構成の妙

ゴジラの映画だとゴジラこそがその世界ではじめて出現した怪獣です。

ですがこの怪獣黙示録(アニゴジの世界ともいえるのですが)で人類の前に初めて出現した怪獣はカマキラスです。

ゴジラではないんです。

そこからドゴラやアンギラスやダガーラが出てきて、遂にゴジラ登場となるんですが単純にこの構成がいいと思います。

怪獣にどうにか対抗しながらもその脅威に散々苦しめられる人類。

その前に他の怪獣が恐れる真の大怪獣が現れる展開は絶望的な気持ちになります。

ゴジラ出現までに怪獣の強大さがたくさん描かれてるんですが、その怪獣たちがゴジラには怯え逃げ惑います。

これが他の怪獣の脅威を描かないで最初からゴジラが出ていたら、ゴジラの恐ろしさも半減していたはずです。

ゴジラを知らない人が読んだとしても、この構成により「ゴジラってやばい怪獣だ」ということが理解しやすくなっています。

怪獣が暴れまわるだけではありません。

異星人であるエクシフやビルサルドとの接触の歴史を間に挟むことで箸休めじゃないんですが、緩急のついた内容になっていることも上手い構成だと思います。

幅広いジャンルとしての怪獣黙示録

怪獣小説…… というジャンルの小説があるかわからないのですが、怪獣黙示録はジャンルとしてはSFになります。

しかし先に挙げた証言者や異星人との交流の描写からこの小説をヒューマン物、異文化コミュニケーション物としても楽しむことができると思います。

個人的には特に、ビルサルドと交流したホテル従業員の話が好きです。

内容はロンドンのホテルマンが異星人・ビルサルドをもてなすというものです。

長く続く怪獣の恐怖で喜びや悲しみといった感情を摩耗させていたホテルマンがビルサルドをもてなすことで心を甦らせていく……

決して長い話ではないのですが、怪獣という存在と対峙する中で生まれる人の繋がりだったり人間の業だったり本当にこの小説は色々な内容を網羅しているなあと思います。

一粒で二度美味しいどころか三度も四度も美味しく味わえる、そんな感覚を抱けます。

物語を支配する真の存在

後への伏線も色々張り巡らされている小説ですが、全体を通してゴジラが出てない部分でもゴジラの影を感じることができます。

これは二回くらい読み返さないとわからないことかもしれませんが、怪獣黙示録で描かれている事柄は全てゴジラの恐怖に収束しています。

怪獣の脅威も、人間の愚かさも、異星人との繋がりも。

ゴジラが出ずっぱりの小説ではないのですが、それでもこの小説に主役がいるとしたら紛れもなくゴジラです。

だから、色々な人が登場して色々な要素があったとしても最後まで読み通した時にぶれているといった感想は一切なく、私の中には充実感がありました。

面白い小説を読めた、そう思いました。

アニゴジが終わった今ならばこの小説から読んで時系列で映画を観ることもできますし、もちろんこの一冊だけ楽しむこともできます。

本当に素直に面白い小説ですので、良質な小説に飢えてる方に読んでみてもらいたいです。