「お帰りなさいませ」
扉を開けると明るい声が響き渡る。夜の遅い時間になっても店の中は込み合っていた。
「あちらの席でお願いします」
どうにか座れるようだ。一安心して席に着く。
「今日は〇〇さんの卒業なんです、寂しいですね」
ああ、私も寂しい。だから来たんだ、ここに。
店の中で一際明るい声が響く方に目を向ける。
この日の主役である女の子が笑顔で微笑んでいる。
コンセプトカフェに行き始めて二年ほどになる。
私が行っているコンセプトカフェとは何なのかというと要するにメイドカフェだ。
そう、私はメイドカフェ好き人間だ。
最初に行った日のことはよく覚えている。緊張で扉を開ける手が震えていた。
意を決して入ってみた後も緊張でキョロキョロしていた私の姿はかなり情けないものだったと思う。
なんせ私の中のメイドカフェのイメージといえば大昔に流行ったドラマ「電車男」に出てきたようなイメージだ。
異様なテンションの日常とはかけ離れた場所。
じゃあ何で急に行こうと思い立ったかといえば、これまでと違った経験がしたかったからだ。
毎日家と職場の往復。誇張ではなくその頃の私の生活は本当にそれしかなかった。
改めて何かしてみたいことはないかと考えた。
考えに考えた末に出した結論。
いざ! メイドカフェ!
「非日常を楽しむのだ」と自分に言い聞かせても緊張でそれどころではない。
そんな30過ぎの男にキャストの子が話しかけてくる。
「当店ははじめてですか?」
恐る恐る「はい」と答える私にその子は丁寧に店のシステムの説明をしてくれた。
私が行った店は私が想像していたよりずっと落ち着いた雰囲気の店だった。
その子の接客のお陰で店を出た時の私は思った。
「楽しかった」と。
それから今日まで約2年。
いくつかの店を回り、たくさんのキャストさんと出会った。
楽しい時間を過ごしながらも頭の片隅では「卒業」のことは忘れていなかった。
いつかはこの子たちと別れなければならない時は来る。
そのことはわかっていた。
わかっていたはずだ。人間が呼吸をしなければ生きていけないくらい当たり前のことのように。
わかっていたはずなのだ、しかし……
参った。こんなに寂しいとは思わなかった。
私は最初の春のことはよく知らない。
その頃は個人的な事情で忙しく店に行く機会がほとんどなかったし、私が店の開拓を始めたのはそれらが落ち着いてからだ。
もちろん、今の時期が来るまでにもキャストの卒業は経験した。寂しさもあった。
しかし、何人もの子が一気に卒業していくこの時期の寂しさは自分が想像していた以上だった。
中には様々な事情から卒業がこの時期に重なった方もいるのだが、私にとっては多くの人との別れの春になった。
思えばどの子とも会えた回数はそんなに多くないかもしれない。
それでもTwitterを見たり、リプをしたりして同じ時間を過ごしたという思いが確かにある。
店に行けなくてもそうしたやり取りが嬉しくて、嫌なことがあった時でもそれを忘れられたことが何度もあった。
別れは確かに寂しい。しかし、だからこそ誰かの旅立ちを祝福し見送る幸せがそこにはある。
故郷を離れて随分な月日が経つ。
未だ将来が見えぬ身ではあるが、もし違う人生があったらどうなっていただろう?
今頃は親になって子どもの成長を見届けていただろうか。
年齢的に考えてまだまだ子どもと同居はしているだろうが、学校を卒業し次の学校へ上がっていくその子の「旅立ち」を見送ることはあったかもしれない。
あるいは、もし過去にアイドルを熱心に追いかけるような経験があったら。
誰かが卒業していく時の気持ちというのをもっと早くに理解することができたかもしれない。見送るという経験もできていたかもしれない。
私の過去にはそういった経験はなかった。
でも考えてみれば、出会いと別れの尊さはずっと昔から経験してきた。
現実の人間関係でもそうだが、一年間あるいは半年の期限のある特撮やアニメ番組。始まりがあれば必ず終わりがある漫画。いずれも常に終わりに向かって進んでいる。
思い入れがあればあるだけその作品との別れは辛くなる。
社会人となり、どちらかというと自分が去ることが多かったのでいつのまにか忘れていた感覚……
出会いと別れ、だからこそ会えた時間の大切さ。見送ることができる人がいるという喜び。
まだまだ世間知らずな年代の頃にはわからなかった感覚をコンセプトカフェに行くようになってようやくわかってきたような気がする。
私とキャストの子との関係は何というのだろう?
もしもまったくコンセプトカフェ、あるいは外に繰り出さない人から見れば私のやっていることは奇異に見えるかもしれない。
コンセプトカフェのキャストと客の関係は店の中でしか成立しない。
客観的に見るまでも無くその通りだし、ルールとしてそこを逸脱してはいけないことも承知しているがそういう形の人間関係があってもいいのではないだろうか。
例え言葉で言い表せない関係ではあっても、私はキャストの皆と出会えて良かったと思っている。
これからも私は卒業していく子たちを見送るだろう。そして、恐らくその時は今以上の寂しさを経験することになる。
それでも今ならわかる。その寂しさはその子たちと過ごした時間が自分の中で大切なものだったという何よりの証なのだと。
そんな出会いや時間があるのならこの世もまだまだ捨てたもんじゃない。
そんなことを考える卒業の時期、春。
私は多くのキャストの子がどこが故郷なのかも知らない。どうしてここに来ることになったのかも。
そして当たり前なのだがその子たちの本当の名前も。
それでも彼女たちの未来が希望の光に満ちたものになることを祈る。
来訪したコンセプトカフェ紹介
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